509. 神々の住む場所(2)
「アンジェラが…ルシフェルの中に入って…。」
そう、僕が言った時、アズラィールは意外な反応をした。
「え?そうなの?そんなこと起きるのかなぁ…。」
「アディ、どういう意味?」
「いや、ライル、君は肉体を持っていないけれど、アンジェラっていうあの子は肉体を持っていただろう?」
アズラィールの話では、ここ『神々の住む場所』と呼ばれるところには、肉体のある者は入ることが出来ないはずだというのだ。
マリアンジェラが来られたのは、彼女が特別だからだとも言うのだ。
僕は、朝の夢を思い出していた。でも、リリィは夢を見たと言った。リリィも肉体を持っているのでは?僕が一人で脳内思考していると、アズラィールが言った。
「夢で見たのは、君たちを招待したからさ。それに、あの子、リリィが使っているのは君の体だろ?彼女はずいぶん前に君と同化した時からもう体を持っていない。ごく一部の細胞を残してほぼ消滅している状態だったんだ。
ある意味、元の状態に戻ったというべきかな…。」
僕とマリアンジェラは全く理解できず、次のアズラィールの言葉を待った。
アズラィールは困った顔をしながらも説明を続けた。
僕とリリィ(ライナ)が生まれた時、それは奇跡の瞬間だったそうだ。
天使の核は、ここ『神々の住む場所』でもごく一部の許された者だけが産みだすことができるのだという。アズラィールとルシフェルはその許されている者で、自分たちが作ったたくさんの次元にたくさんの星を創り出し、そして見守っている。
『神々の住む場所』から出ることが出来ない彼らは、自分たちの命の欠片を託した天使の元となる核を産みだす。
「私の場合は、ルシフェルとの間に本当の愛を実感した時にだけ核を産みだすことが出来るんだ。それを、愛の女神に託すのさ。」
「愛の女神に?」
「そう、アフロディーテにね、天使の核を渡すんだ。そうすると、彼女がその核を取り込んで、肉体ではない部分を育ててくれるんだ。そして、どこかの世界に送り出す。」
「どこに行くかは決まっていないの?」
「うーん、どうなのかなぁ…。先に地上に下りた子が、その土地の人類と交わって子を生した時にだけ天使の核が必要になるんだ。でもね、普通はどの子もその場所で、病気や、事故や、戦争で死んでしまうんだよ。」
アズラィールは続けた。死んだ天使の核を持った者は、肉体が死ぬと、核だけが愛の女神の元に戻り、次の出番を待つのだという。その時に前世の記憶は全て失い新たな天使として生まれるのだという。
「ね、アディ。ライルとママの生まれたのが奇跡ってどういう意味?」
マリアンジェラは興味津々で聞いた。アズラィールはドヤ顔で言った。
「天使の核を持った者は全て男に生まれる。」
「「え?」」
バックアップとして必ず双子で生まれる天使だが、リリィ(ライナ)が生まれた時に初めて女の子の細胞に天使の核が入ったのだという。
「でも、偶然じゃないんじゃないかな…。ねぇ、お嬢ちゃん。」
アズラィールはあくまでも静かに穏やかに話してくれた。
「これはこの『神々の住む場所』の、とある噂であるけれども…。
ずいぶん前にね、ここには私達とは別の種類の神々も住んでいるんだが、そこに可愛らしいお嬢さんがいてね。でも、父親が決めた男神と結婚を強要されたんだ。そのお嬢さんは、真実の愛を求めて、両親の元から逃げ、誰も入ることの出来ない洞窟に引きこもってしまったそうだよ。
そのお嬢さんは、洞窟の中で神の役割を果たしているんだが、彼女はもちろん神だからね、全部の世界にアクセスが出来てすべてを知ることが出来るんだ。
その彼女が、真実の愛を知ってしまったのさ。そして、どうしてもその相手の所に行きたくなってしまったらしいんだ。」
「それで?ねぇ、どうなっちゃったの?」
「その相手に一番近いところに生まれるはずだった子が、不完全な状態で死にかけているのを見て、ズルしたんだ。」
「ズル?」
「そう、天使はね、絶対に男に生まれるんだよ。でもその死にかけている子は女の子の細胞に核が入ってしまい、成長できなかったんだ。死ぬ運命にあった。
それを愛の女神は、もう一度自分の中で育て、生きられるくらいの大きさまでになったときに、元の場所に戻したのさ。しかも、その女の子に自分の命の欠片を潜ませてね。」
僕とマリアンジェラは誰の事を話しているかわかった。
これは、リリィと僕のことだ。そして、アフロディーテはマリアンジェラその人だ。
アズラィールはさらに続けた。
「でも、結局育たないのは仕方がないことだったんだ。本来の成長ではあり得ないほど小さい体で、結局は死ぬはずだった。
けれどね、その子の奇跡はここからだよ。自分の双子の兄の中に同化して、ずっと隠れて生きて来た。時には表に出て、その子も真実の愛を求めていたんだね。」
話が長くなっちゃったな…と言いながらも、僕達の好奇心を満たすように話してくれるアズラィール。
「お嬢ちゃん。マリアンジェラ…、君は天使と天使の子として初めて産まれた存在なんだ。そして生まれた時から神でもある。」
「うっ。」
しまった。というような顔をしているマリアンジェラがかわいい。マリアンジェラがごまかすように言った。
「アディ、それで…うちのパパは?」
「あ、ごめんごめん。すっかり忘れてた。きっとルシフェルに拘束されていると思う。」
「「ええっ。」」




