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508. 神々の住む場所(1)

 僕、ライルは美しい庭園の中にいた。そこには噴水があり、蝶が舞い、小鳥がさえずっている。

 どこに転移したのだろう…。周りの景色を見える範囲で確認しようと思うが、やはり自分の意思では目線さえも変えることは出来ない。

 その時、少し離れたところから声が聞こえた。

「たのもー!」

『ブッ…これって…マリーか?』可笑しくてたまらないが、僕は今アズラィールの体に入っていて笑う事さえできない。

 声に反応して、アズラィールは表のエントランスの方へ回った。

「あら?さっきのお嬢さんね。戻ってきたの?」

「あのね、戻るつもりは全然なかったんだけど、多分、これ、返しに来た。」

 そう言ってマリアンジェラは、柄が羽の形のフォークを差し出した。

「あ…、それ、あなたのママが掴んでいたやつね。触っちゃったの?」

「うん。そう。」

「そう言えば、さっきは大きかったのに、今度はずいぶんと可愛らしい大きさね。」

「マリー、大きくなれるの。」

「すごいわね。」

「さっきと違うところに出ちゃって、散々飛び回って時間かかっちゃったのよ。

 だから、もう帰りたいんだけど…。どうやって帰ればいいの?」

「そうね…困ったわね。体ごと来ちゃったのよね?」

 僕は、どうにかして外に出ようともがいていた…。その時マリーが言った。

「おばちゃん、手にいっぱい血がついてるよ…。」

 アズラィールは「えっ?あら?」と少し驚いて、慌てて自分の胸に手を入れて小さな丸い球を取り出した。それは、七色の核だった。

 僕の意識はそこで消失した。

「そ、それ。ライル…。おばちゃん、ライルをどうしたのよ。」

「私は知らないわよ。私は何もやってないもの。」

 アズラィールはそう言うと、マリアンジェラの怒り具合に動揺してその核をマリアンジェラに手渡した。

 マリアンジェラは七色の核を愛おしそうに撫でた。そして、絶望の中、ライルの核にキスをした。

 七色の核の周りに金色の光の粒子が集まり始め徐々に実体化する。


『あ、あれ?』

 僕が目を開けた時、僕はきれいな庭園で地面に足を投げ出して座る小さなマリアンジェラの膝枕で目を覚ました。

 僕は状況に少しついて行けなかった。

 マリアンジェラが僕にしつこくタコチューを繰り返している。

「マリー、ストップ。顔がよだれでビチョビチョだよ…。」

「やったー、マリーのお姫様キッスでライル王子様の目を覚まさせることに成功!」

 ドヤ顔でいうマリアンジェラに、少し離れたところでしゃがんで覗きこむアズラィール。僕はハッとして自分の体を確認した。

 よ、よかった…、服着てた。

 僕は上半身を起こし、マリアンジェラをギュッと抱きしめた。

「マリー、心配したんだよ。」

「ライル…。ごめんちゃい。フォーク触ったら場所が変わって、ライルのところに行こうと思っても出来なくて、すごいいっぱい飛んで、やっとここのお山を見つけたの。」

「よかった無事で…。」

「でも、あのおばちゃん、手が血だらけで、ライルの核を体に入れてたんだよ。」

 マリアンジェラがアズラィールをキッと睨む。

「お嬢ちゃん、私は何もしていないよ…。でも、その子、ライルの核から見えたよ。

 君、僕達の分身体の中に入ったんだろ?」

「分身体?」

「あ…これは言っちゃいけなかったのかな…。まぁ、いいや。」

 アズラィールはそう言って少し説明してくれた。

 封印の間にあるのは二人の分身体であり、僕達の世界、いや他の世界にも、それぞれ配置されているのだという。

『神』である二人は、自ら外に出ることは無いが、あの場所からすべての事柄を監視し、問題のある場合には本体である今、ここにいるアズラィールに情報が流れてくるのだそうだ。

 でも、今日のは例外だったらしい。僕が自分の核を入れたことで、本体の制御が効かず、分身体が勝手に行動したという。

「リリアナを殺そうとしたんだ。」

「あ、あぁ…あれはね。殺そうとしたんじゃなくて、排除しようとしたんだ。」

「同じじゃないか。」

「あ…言い方悪かったね。あの個体は実在しない黒い核から作られたクローンだろ?

 以前から排除しなきゃと思っていたんだよ。でも実際黒い核を握りつぶしたら、あの個体の今までの行動とか、愛とか?そう言うのがあふれ出て来たから、新しい核を与えたのさ。だからもうクローンじゃなく、あれは独立した個体というわけだ。」

「え?じゃあ、大丈夫なの?」

「あぁ、じわじわと変化は現れてくるさ。」

 マリアンジェラは僕に触ったときに記憶を見ており、まぁ納得したという感じで頷いた。

「ところで、おばちゃん。なんで『ぼく』っていうの?」

「あ、あぁ…さっきライルに入られて、影響を受けちゃったかな?ハハハ…

 私は、男でも女でもないんだ。だから『おばちゃん』でも『おじちゃん』でもない。」

「なんて呼べばいいの?」

「普通に名前で、アズラィールとか…アディとか…。」

「アズラィールってマリーのじいちゃんと同じ名前だよ。じゃ、アディって呼んでいい?」

 大天使アズラィールもマリアンジェラの迫力に押され気味だ。

「じいちゃん…。ハハハ…。イヤな名前被りだな。」

 ずいぶん気さくな大天使だ…。

『ぎゅるるるる~』マリアンジェラの腹の虫が盛大に鳴った。


 その後、アズラィールの提案で、一度邸宅の中に入った。

 アズラィールは血で汚れた衣服と手を洗い流しにどこかに行き、戻ってきたときには髪をアップにして女性らしい格好をしていた。マリアンジェラは不思議そうな顔で聞いた。

「アディ…男でも女でもないってどういうこと?」

「私やルシフェルは生き物ではないからね。」

「生きてないの?」

 マリアンジェラが驚いた顔で言った。

「うーん。説明が難しいな。死ぬというか、消滅することもあるから、そういう意味では生きているのかな?でも生き物、動物の様な方法で子供を作ったりはしないし、別に何も食べなくたって消滅することはないよ。」

 アズラィールはケーキとお茶を用意して、振舞ってくれた。

「他に食べたいものがあったら言ってね。」

「え?なんでもいいの?」

「うーん、タイミングによるかな…。」

「???」


 不思議な話を聞きながら、僕もケーキを食べる。

「あ、味がする。この前もシチューの味がした。」

「ライル、君はもう私達とほぼ同じ状態なんだよ。体を持っていない、けれど実体化している。そして、男にも女にもなれる。この場所では君は普通の存在で居られるよ。」

 この時は、アズラィールの言葉がどういう意味か…、よく分からなかった。


「あ、大切なことを忘れていた。アンジェラが…ルシフェルの中に入って…。」

 僕はすっかりアンジェラの事を忘れていたのだ。


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