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506. 消えたマリアンジェラ

 アンジェラとマリアンジェラ、そしてミケーレが庭園から戻って来た。

 サロンに直通の階段を通り、三人で手を繋いで入ってくるなり、マリアンジェラはアンジェラの手を離して、僕、ライルの元に駆け寄ってくる。

「マリー、走ったら危ないよ。」

 僕が声をかけたが、全く聞かずに全力疾走だ。ところが、その動きがピタッと止まった。

「ママ…。それ…。」

 マリアンジェラがリリィの手元に置いてあった羽の柄のフォークに気づいたのだ。

 リリィが『しまった』というような顔をした。

「それ、どこにあったの?」

「あ、うーんと…私もよくわかんないんだよね。起きたら持ってたの。」

 マリアンジェラはじーっとそのスプーンを見つめてからリリィの顔を見た。

 そして、マリアンジェラはちょっと大きくなってきているリリィのお腹をさすると言った。

「ママって女の人だよね?」

「え?そうだけど…。」

 返事を待つ前にマリアンジェラがリリィのおっぱいをガシッと掴んだ。

「痛いよ…マリー。」

「あ、ごめんちゃい。」

 マリアンジェラはまだ不思議そうな顔で首を傾げている。アンジェラがマリアンジェラに追いついて側に来た時、マリアンジェラはアンジェラの顔を見上げてからアンジェラの股間に手を伸ばした。

「マリー、ダメ。夢の中の人はマリーのパパじゃないよ。」

 僕は慌ててマリアンジェラの腕を掴んだ。

「にゅ?そうなの?」

「うん、リリィに聞いたんだ。リリィも途中から僕らが見たのと同じ夢を見たんだって。でも自分の体じゃなかったって。それにアンジェラは夢も見ていないそうだよ。」

「じゃあ、このフォークはどこから来たの?」

 マリアンジェラがそのフォークを手に取った。

 その瞬間、フォークが金色に光りマリアンジェラ共々金色の光の粒子になって消えてしまった。


「マリー…うそ、どうして…。」

 リリィは衝撃で気を失いそうになった。アンジェラがリリィを支える。

 アンジェラ達が宿泊している部屋にリリィを運び、ベッドに寝かせると、アンジェラと僕は経緯を話し合った。

 僕は知らなかったが、アンジェラはすでに夢の内容を、リリィから記憶を見せられることで把握していた。しかし、フォークの事は聞いていなかったようだ。

「そんな物が夢の中から出て来たなんて…。どうやってマリーを探せばいいんだ。」

 僕は、マリアンジェラが消えた直後から彼女の現在地に転移を試みていたが、この地球上に存在していないのか、僕の能力は発動しなかった。

 僕は、今まで感じたことのない不安を感じていた。

 あのフォークは、さっきリリィも僕も触ったのだ。でも何も起きなかった。それなのになぜマリアンジェラが触った時にだけこんな事が起きたのだろう…。

 僕は激しく悔やみ、気分が落ち込んで行った。

 リリィも同様だ。自分がこんなものをあの場所に持って行ったことが原因で娘が消えてしまったのだ。

 ちょうど、正午になるかという時刻の出来事だった。


 僕は、一度自分が宿泊している部屋に戻り、もう一度頭を整理してみた。

 あれは、夢だったはずだ。

 だが、その場所からリリィはフォークを持ち帰って来た。

 あの場所は実在している場所なのか?

 大天使アズラィールとルシフェルはリリィが二度目の妊娠をした時に、名前を自分達と同じ名前にするように夢で訴えて来た。

 いや、あれは夢の中に侵入されただけで、夢ではなかった。監視カメラに光の塊がはっきりと写っていたのだ。

 もしかしたら、あれと同じような現象かもしれない。

 ここで考えていても何も起きないか…。

 僕はアンジェラの部屋を訪ねた。


 アンジェラはリリィの手を握り、ベッドの脇に置かれた椅子に座り、ひどく疲れた様子でいた。

「アンジェラ、ちょっといい?」

「あぁ、ライル…どうした?」

「僕の部屋で話したい。いいかな?」

「わかった。行くよ。」

 そう言って、リリィをそこに残し、僕とアンジェラは僕の部屋に行った。

 二人で、小さなテーブルを間に、向かい合わせに椅子に座った。

 僕から僕の考えていることをまず伝える。

「大天使アズラィールとルシフェルはここじゃないどこかの空間、あるいは世界にいるんだと思う。そして、この世界の事も把握しているんだと僕は考えてる。」

「…私にはよくわからないな。大天使アズラィールとルシフェルの石像は封印の間にあるが…それだけではないか。彼らが我々のために何かしてくれたことがあるか?」

 僕は言葉に詰まった。だけれど、もうマリアンジェラを探す手立てはあの封印の間の石像にしかないとも思っていた。

「僕、話したかどうか覚えていないけど、ルシフェルに僕の核を入れたんだ。自分から核を抜いてさ。そしてお願いしたんだよ。『僕を殺して』って。」

 アンジェラは目を瞑って両手で顔を覆った。アンジェラの両手がプルプルと震える。

 アンジェラの手の隙間から涙のしずくがポタポタと落ちた。

「泣かないでよ。僕は結局、ルシフェルに殺されたりなんてしていないんだから…。」

 そう言えば、僕は『過去を変えた』ことは知らせていたが、あの時、何があったのかは細かく伝えていなかった気がする。

「ルシフェルは僕に選択の機会をくれたんだ。アズラィールが殺される前の彼らの邸宅に僕を転移させた。だから僕は、アズラィールと矢の間に転移して代わりに死んだんだ。」

 アンジェラは涙を流しながら言った。

「私が、お前を追い詰めたのだろう?」

「違うよ。アズラィールが殺されたから、この世界が、いや…ルシフェルが狂ったんだ。ルシフェルの望みはアズラィールの復活。蘇らせることだったんだと思う。」

 僕は話を続けた。

 あの封印の間にあるアズラィールとルシフェルの石像には、夢で見た彼らの家に僕を連れて行く能力があるのだと思うからだ。


「ねぇ、アンジェラ。僕の核を入れたら、僕がなくなってしまうからさ、今回は、僕がそのまま入ってみようと思うんだ。アンジェラの能力の『合体』で、ダメならジュリアーノの岩でもどこでも入り込む能力…何でもいいからとにかくやってみたい。」

「しかし、お前に危険が及んだら…。」

「心配しないで。僕、生身の体が無いから、死んだりしないよ。」

 アンジェラはなかなか首を縦に振らなかったが、気づけばもうマリアンジェラがいなくなって3時間が経っていた。

 アンジェラは僕一人に責任を負わせることをひどく気にしていたのだ。


 僕は、アンジェラに封印の間に一緒に行ってもらい、僕が彼らの所に転移するまで見守っていたらいいんじゃないかと言った。

 もし、僕が別の場所に行った時の事を考え、リリアナに封印の間に同行してもらい、僕が転移した後は、リリアナがアンジェラを連れて帰ってくれるように頼んだ。

 リリアナはマリアンジェラがいなくなったことを知り、かなり不安になったようだ。

 アンドレにも事情を話し、リリィにはしばらく知らせないでおいてもらえるように頼んだ。

 僕と、アンジェラとリリアナは封印の間へ向かった。


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