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504. ハツユメ(7)

 朝食を終え、僕、ライルは祖父未徠のリクエストに応えてサロンでピアノを弾いていた。

 マリアンジェラはアンジェラと共に庭園に散歩に行ってしまった。

 皆、コーヒーや紅茶を楽しみながら、ピアノの音色に耳を傾け、雑談をしたり、こんなところに来てまでネットゲームをしている左徠や、アズラィール…。

 徠央や徠神は今回この城で食べた料理からインスピレーションを刺激されたのか、店の新作料理や新作スィーツの開発をすべく、店を経営する者達で会議までしている。

 そんな中、ニコラスだけが、ポツンと一人で座っていた。


 僕の弾くピアノの側にリリィが一人でやって来た。

「あれ、どうしたの?散歩に行ったんじゃないの?」

「うん、途中で帰って来たの。」

「ふぅん。」

「理由聞かないの?」

「リリィは聞いて欲しいの?」

「うん。」

「じゃ、なんで途中で帰ってきたの?」

「初夢の話…なんだけど。ライルと話の続きがしたくて…。

 実は私も似たような夢を見たんだよね。」

「え?」

 僕は慌ててピアノを弾く指が乱れた。かろうじてその曲を弾き終え、ピアノから普通のテーブルに移動する。


 従者にコーヒーを頼み、なるべく他の人から離れている席に着いて話を始めた。

 リリィは夢から覚めたところから離し始めた。

「朝ね、ミケーレに起こされたの。『ママ、ママ…どうしたの?』って大きな声で揺すられて。」

 リリィの話はこうだ。ミケーレはリリィとアンジェラと同じ部屋で寝ていたが、朝トイレに起きた時にリリィの額の内側であの第三の眼の場所が白く光っていることに気づき、慌ててリリィを起こしたらしい。

 その時はすぐにはどんな夢を見たか、思い出せなかったそうなのだが、僕とマリアンジェラが起きてくるのが遅いとミケーレが心配しだし、部屋のドアをノックしても反応がなかったため、部屋に入って起こしたらしい。

 その際、僕の額がリリィと同じように発光していたため、ミケーレがひどく怯えてしまったらしい。

 ミケーレは最近では第三の眼をうまくコントロールできているようだが、その能力を使うときには、頭の中に未来が現実のように巡り、不安や恐怖で精神を圧迫することもあるのだという。

 今回の場合、僕とリリィが未来をほぼ同時に見たのではないか…とミケーレは考え、『何か悪いことが起こるのか』と心配しているのだ。

「それで、どんな夢を見たんだ?」

「私のは、目が覚めたら、クリーム色のお部屋で…隣にアンジェラが寝ていて。

 アンジェラが朝っぱらから仲良くしようってベッドの中でいちゃついてきて…。」

「え?」

「それで、仲良くし終わってシーツめくった時に、入り口の方からライルの声で、『うそでしょー、アンジェラとリリィ?』って…。」

 僕は自分の顔が真っ赤になったのがわかった。あれって、夢ならぬ普通の夫婦の営みを拝見してしまったのでは?リリィは続けた。

「あ、あれは夢だから。現実じゃないよ。あんまり変な想像しないで。」

 僕につられてリリィも真っ赤になった。

 リリィが話を進める。

 どうも、リリィは夢の中で大天使アズラィールの中に憑依した状態だったらしい。

 自分で発しようと思っても言葉も出ず、体も動かせなかったという。しかし、憑依の特徴である、触れている感覚や、温度などは自分の体と同じに感じるんだとか…。

 じゃ、もしかして、大天使ルシフェルといちゃいちゃした感触も覚えているのか?

「だから、エッチな想像はしないでよ。」

「え?いつから心が読めるようになったんだ?」

「読んでないけど、そんなに真っ赤な顔してたらわかるって。」

 は、はずかしい…。

 リリィは続けた。シーツをめくったところから、体がアズラィールになってたというのだ。おっぱいはぺったんこで、確かに男か女かわからなかったというのだ。

「あ、今、元々ぺったんこでどうやって見分けがつくのか?とか思わなかった?」

『ぎくっ。』

「そ、そーんなことないよ。そう言えばマリーが二人ともつるっつるだって言ってたな。僕は怖くて見られなかったけど。」

「そうなの…アンジェラもいつの間にかルシフェルに変わってたし、全裸で堂々と歩いてたけど…ついてなきゃいけないモノがなかったのよね…。」

 リリィが少し頬を赤らめた。僕は『ブッ』とコーヒーを吹き出しそうになってむせた。

『ゲホゲホ、げほっ。』

「大丈夫?」

「ゲホ…。」

「ライル、隠さなくていいよ。多分、同じ夢の違う人物で一緒に夢を見たんだよ。

 ライルは私とアンジェラが大天使アズラィールとルシフェルみたいに、どこか違う世界に行ってしまうって思っているんでしょ?」

 図星だ…。でもその質問には答えられない。リリィは僕の目を見て言った。

「私はね、ライルとマリアンジェラが行っちゃうんじゃないかって、心配してるの。」

「え?」

「私、気づいちゃった。私もライルと同じで他の人の能力をコピーできると思ってたんだけど、どうも違うみたいなの。」

「どういうこと?」

「今まで…今回私が妊娠する前まで、ライルと私、毎日のように融合してきたでしょ?分離する前はずーっと融合しっぱなしだったし。」

「うん。」

「私の能力って、きっとライルが獲得した能力を融合している時にのみ分け与えられる程度のものだったのよ。だから、最近発現したジュリアーノの能力なんかは持っていないの。ミケーレの第三の眼を最後に、私には新しい能力が増えていないわ。」

 言われてみると、そんな気もする。

 最後にリリィがショルダーバッグから何かをごそごそ手探りで掴み、出す前に言った。

「夢だから、現実に起きないだろうって思ったら大変な事になるんじゃないかって思う理由があるんだ…。」

「え?何?」

「これ、夢の中でちょうど手に持っていたら、目が覚めた時に握ってたの。」

「なっ…。」

 それは、夢の中で、ケーキの皿に添えられていたフォークだった。

 なぜ、それが夢の中の物と一致するかと言うと、マリアンジェラがケーキを食べる時に僕の目の前にそれを見せて言ったのだ。

『ライル、これ見て!フォークの柄の所が羽の形になってる。あ、裏にも…。』

 そして、裏側にも一対の翼をイメージする刻印が押されていたのだ。

 背筋が凍るような感覚が僕を襲った。

 ようやく手に入れた僕の安寧の日々が、もしかしたら一瞬でなくなるのかもしれない。

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