502. ハツユメ(5)
ルシフェルが進んだ先に僕、ライルとマリアンジェラも続いた。
底は、部屋全体が薄い若草色にデザインされた応接室のようだった。
「座りたまえ。」
ルシフェルに指示されて、ソファに座ると、白い布でできたシンプルなワンピース姿の金髪の女性、アズラィールが紅茶のセットとケーキをトレーに載せて運んできた。
「おなかすいてない?よかったら、どうぞ、召し上がれ。」
やはり、アズラィールの声は男か女かわからない。僕がそれについて触れようとした時、マリアンジェラが手を挙げた。
「はい、はーい。質問でーす。」
ひぇぇ…大きくなっている姿で、思い切り幼児丸出しの言動だ。
「ん、何かな…。」
「あのぉ、ルシフェルとアズラィールって、マリーたちのユートレアのお城の下にある地下のお部屋にいる二人と同じ人達?」
マリアンジェラがドストレートに質問した。するとルシフェルが答えた。
「あぁ、そうだ。今日は君たち二人に話があって来てもらったのだ。」
「え?お話?」
ルシフェルがすくっと立ち上がり、僕の側に立った。急に僕の髪を撫でて言った。
「ライル、お前が私の愛する人を救ってくれたおかげで、私は狂わずに済んだのだよ。
愛しい我が息子よ。」
「ルシフェル…。」
僕はそう言って僕の髪を撫でているアンジェラに瓜二つの天使を見つめた時、ものすごく胸が熱くなった。
そこに金髪の天使も近づき、同じように僕の髪を撫でた。
「そうよ、あなたが私を救い、私たちが壊れずに済んだ。愛しているわ。私の息子。」
苦しいくらいにこの二人の事が大好きだ。命を捧げてもいいほどに…。
その時、マリアンジェラが言った。
「えー、でも、ライルはおじいちゃんの息子だよ。」
「あははは、順番的にはそうだったわね。でも、私たちの息子たちには、いわば私達の魂のかけらを分け与えているのよ。だから皆私たちの子供達なの。肉体的に先に発生した個体のクローンを使っているだけ。」
「ほえ?じゃあ、マリーも?」
アズラィールがマリアンジェラに近づき、頭を撫でる。
「あらあら…おかしいわね…。翼があるのに私たちの子供じゃないなんて…。」
ルシフェルもマリアンジェラの頭を触り、少し苦笑いをして言った。
「お前は、愛し合う二人の天使から生まれた新しい命だね。そして女神の魂の欠片を持っている…。」
二人は僕達にわかりやすいように話してくれた。
アズラィールとルシフェルは、いわば僕達の世界で言うところの『神』と同じ様な存在なのだという事。
二人は、新しい星を作り、そこに生命を誕生させ、見守るという役目があるのだという。『創造主』という言葉が当てはまるのだと僕は思った。
新しい星に生命が発生し、文明が発達してくると、生命同士が殺し合うようになる。
その時に色々な意味で抑止をしたり、救済の命を担うのが僕達地上に下りた天使の末裔の役割なのだと。
しかし、実際には天使の末裔たちは、自分たちの正体など知るはずもなく、単なる特殊能力を持つ人間として一生を終えることも少なくないのだと。
二人は『地球』だけではなく、いくつもの惑星を造り、見守っている。それだけではなく、『地球』と全く同じ惑星を、違う次元でいくつも発生させ、天使の末裔の発生場所や個体差により結果が変わるかどうかも見守っているのだという。
いわゆるパラレルワールドである。いずれ、そのパラレルワールド上の星はいくつも消滅し、淘汰されていくのだという。
そこで僕は核心に触れた。
「あの、僕達に話があるって、この原理を教えてくれるためなの?」
僕がそう言うと、二人は顔を見合わせてクスリとうれしそうに笑いこう言った。
「私たちは、新たな神を指名しようとしているのだ。」
「神を指名?」
「そうだ、命を大切にし、慈しむ心があり、愛を知っていることが条件なのだ。」
僕は心の中で、その条件を満たしているのはどう考えても『リリィ』と『アンジェラ』以外に考えられないと思った。
ルシフェルは話を続けた。
パラレルワールドが淘汰され、たった一つ残ったときに、その星、その世界はルシフェル達の手から離れ独り立ちするのだと。
その独り立ちの時に、能力が高い天使の末裔から、資質を見た上で神への昇格者を選出すると言うわけだ。
「でも…、そうしたら、僕達の世界にその神に指名された天使がいなくなってしまうっていう事?」
「間違ってはいない。」
僕とマリアンジェラは見つめ合って叫んだ。
「「そんなの、ダメ!」」
僕らの強い口調に、二人はまたまた苦笑いだ。
そして、ルシフェルは最後にこう言った。
「女神の魂の欠片を持つ子よ、お前は長い長い時を経て、ようやく自分の求める者の場所へとたどり着いたのだな…。」
「ほぇ?」
マリアンジェラはお口が半開きで、なにを言われているのか理解できない様子だ。
ルシフェルが両手を体の前で合わせ、水をすくうような形で止めた。
すると、手から白い発行体が液体のようにどんどんとあふれ出た。
僕とマリアンジェラはその光から目を離すことが出来なくなっていた。頭が白い光りに埋め尽くされていく…そんな中でも僕とマリアンジェラは互いの手を握ったまま決して離しはしなかった。




