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498. ハツユメ(1)

 今日は、2028年1月1日、元日だ。

 夕食が始まる前の午後4時半にはすっかり陽が落ちていた。

 朝の日の出は午前8時過ぎと遅いのにである。


 おせち料理の残りを食べながら、普通のドイツやイタリアの料理が大皿で提供され、好きなものをプレートに盛って空いてる席に着く。

 マリアンジェラは揚げパン?菓子パン?の様な物をなぜか1つお皿の中央に置き、見つめている。

「マリー、どうしたの?チキンとかソーセージとか食べないの?」

 僕がそう聞くと、ニンマリ笑って言った。

「これね、ドイツのお正月料理なんだって。おかしいよね?」

 確かに、菓子パンって馴染みないかも。ぱくっと半分食べて、マリアンジェラが言った。

「なぁんだ、これ、普通のジャムパンだ。」

 どうやら、今日は世界の正月料理をいくつか並べているらしい。

 ちょっとくせのある食べ物が揃っていそうで、マリアンジェラは食べ慣れていない物を警戒して最小限を試食中らしい。

 次に持ってきたのは大きなサラミソーセージとレンズマメの煮物。

「むぅ…。微妙。」

 次に大きなパイを小さく切ったものを持ってきた。

「フランスだって、このパイ。ん、おいちい…けどごはんじゃなくてデザートだ、これ。」

 その他にも、ロシアのポテトサラダに、日本のお雑煮まであった。

 組み合わせによってはかなり微妙な感じだ。

 それとは別に普通のピザやフライドチキンなども置いてあった。

 結局、いつものテンションで食べたのは、普通の食べ物ばかりだった。

「やっぱ、マリーはパエリアが好き。」

 お皿にてんこ盛りのパエリアをパクパク食べながら嬉しそうに話すマリアンジェラを見ているだけでお腹いっぱいだ。


 そこへ父様と留美さんが来た。

 食後に庭園を散策しようと言う。

 僕は、マリアンジェラと一緒に誘いにのることにした。


 もう外は真っ暗だが、庭園は控えめにライトアップされており美しかった。

 ミケーレの能力による保温の効果は素晴らしく、上着など着なくても快適だった。

 いつの間にか父様と留美さんが手を繋いでいる。

 結局、二人は今は幸せなんだろう。

 父様が話し始めた。

「ライル、学校はどうだ。大学受験の結果は3月と言ったか…。金は足りているのか。」

「あ、うん。高校の方は卒業できそうだよ。大学は3月の終わりころにならないとわからないな。学費は今はアンジェラが出してくれているけど、CM出演や、CD出したから、その分の報酬はもらってるんだ。」

「そうか…。うちはそんなに大金持ちじゃないが、必要なら言うんだぞ。」

「うん、ありがと。アメリカの大学を卒業するときに、日本の大学を受けようと思うんだ。出来ればアメリカの大学も飛び級して、早めに卒業したい。」

「そんなに急ぐことはないぞ。」

「急いでいるわけじゃないけど…。15歳で高校卒業しても、日本では大学を受験できないからね。最終的には医者になりたいと思っているんだ。」

「そうか…。目標があるのはいいことだな。」

「まぁ、そうだね。」

 マリアンジェラも僕を見上げて嬉しそうに笑った。

 少しずつだが、自分たちの周りの環境も変わり、生活も変ってゆく。

 留美がマリアンジェラを見て言った。

「マリーちゃんとミケーレちゃんは今何歳なの?」

「マリーたちは今4歳なのよ。」

「あら、そう。すごく体が大きいのね。」

「パパがしゅっごく大きいからだって、みんな言ってるよ。パパは今195センチ。」

「確かに、アンジェラは最近また大きくなった気がするな。」

 父様が言った。僕はつい説明してしまった。

「あぁ、アンジェラは上位覚醒したからね。その時体にかなりの変化が現れたんだ。」

「ええっ?アンジェラも上位覚醒したのか?」

「あ、うん。隠しているけど、プラチナブロンドに髪色が変わっているんだ。

 僕もそうだけど、上位覚醒すると皆髪色がそうなるみたい。」

 そこで留美がマリアンジェラの髪を見て聞いた。

「マリーちゃんの髪もプラチナブロンドね。きれいな色だわ。」

「しょうなの。マリーは生まれた時から。この色なのよ。うふふ」

 髪色を褒められ嬉しそうだ。


 庭園の中ところどころにブロンズの動物の形をした置物がある。

 少し建物から離れたところに翼を広げた鷹の置物があった。

「こういうのどこから買ってくるんだろうな。」

 父様が言った。

「昔の王様が職人に作らせたんじゃないかな。」

「鷹か…。そう言えば、初夢に鷹が出てくるとどういう意味があるんだっけか。」

 マリアンジェラがポケットからスマホを取り出して検索して言った。

「鷹は『高い』って意味だって。」

「へぇ、そうなんだぁ…って、マリー、それ誰のスマホだ?」

「アズラィールじいちゃんの。」

「なんでそんなの持っているんだ?」

「ライルとマリーのツーショット撮りたいって言ったら貸してくれた。」

 過保護というか、放置というか…アズラィールはダメなじいちゃんである。

 そんな事を考えていたら留美が言った。

「今日の夜見るのが初夢よね。どんな夢見るかしら…初夢は叶うって言うし。

 マリーちゃんもどんな夢を見たか、明日教えてね。」

「うっひょ、ハツユメ…見たら叶っちゃうの?ラッキーチャンスだね。」

 意味不明の小さくガッツポーズをしたマリーを皆生ぬるい目で見ながら城内に戻った。


 夜10時過ぎ、皆それぞれの部屋に戻ったころ、マリアンジェラが僕の部屋にパジャマ姿で入って来た。

「いっしょにおねんねしよ。」

「いいよ、おいで。」

 嬉しそうにベッドに飛び乗ってモゾモゾと潜り込むマリアンジェラ。

 昼間ゲームで動き回ったせいか、眠りにつくのもあっという間だった。

 スゥスゥと眠るマリアンジェラの首筋に手を当てて、僕もマリアンジェラの夢の中へ便乗する。

 スゥーっと意識が遠のき、僕もいつの間にか眠ってしまった。


 暖かいクリーム色の光があるれる広いお花畑の中に、僕は寝ころんで空を見上げた。

 意識のどこかで、これはマリアンジェラの夢の中だとわかっている自分がいる。

 暖かい、リラックスした空間の中で、心地よい時間が過ぎていく。

 ふと、僕はいつものマリアンジェラの夢との違いに気づいた。

 マリアンジェラがいないのだ。

 僕はマリアンジェラを探すために、立ち上がった。

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