497. 写真集発売と暴走する双子
いよいよ夜が更けて、新年のカウントダウンが始まった。
大人は皆思い思いのお酒や飲み物を持って乾杯をした。カウントダウンが終わると、城のある丘の上から見下ろせる小さな湖で花火が上がった。アンジェラが気を利かせて、丘のふもとの村に寄付金を出し、イベントとして打ち上げたものだ。
そんなに多く打ちあがったわけではなかったが、特別な時間を皆で共有しているような気分になった。
花火を広いサロンから見ながら皆で今年も良い年であるように願うのだった。
子供たちはそれぞれの部屋ですでに夢の中で、大人たちもちらほら寝室に移動し始めた頃、アンジェラはサロンの一角でワインを飲みながら、タブレットを使って仕事をしていた。
「アンジェラ、こんな元旦から仕事なのかい?」
アズラィールがアンジェラの顔を覗き込んだ。
「父上、あけましておめでとうございます。
はい。ミケーレの撮影した写真でライルの写真集を発売するのですが、実は今日が発売日なんです。」
「え?お正月から?」
「書店のイベントとコラボして、今日買ったら特典の写真が一枚ついてくるんです。」
「そうか…、売れるのかね?男子中学生を撮った写真集なんて…。」
「父上、ライルの人気をなめてはいけません。あと、彼は中学生ではありません。もう高校を卒業予定ですよ。」
「え?どういうこと?」
「昨年飛び級をしたので。3月には大学受験の結果も出るのです。」
「へぇ、ライル、やるなぁ。」
その時、アンジェラのスマホが鳴った。
どうやら、写真集の発売の件で東京支店の担当者から連絡が来たらしい。
「ほう、そうか…じゃあ事務所に置いてある在庫を使ってくれ。
足りなければ倉庫にあるものを持って行くぞ。え?倉庫は遠いから何時間もかかる?
お前は馬鹿か?必要なら今すぐにでも事務所に移動させる。必要数を言え。」
アンジェラが少し強めの物言いでスタッフをたしなめた後電話を切った。
アズラィールが苦笑いで突っ込む。
「アンジェラ…お前スタッフに怖がられてないか?」
「…?ん…それは、わからないが…。」
「それより、どうかしたの?」
「東京の事務所に近い書店で三店舗のみの発売だったのだが、用意した分が完売したらしい。今、事務所に置いてある分を運ぶように言ったところだ。まだまだ買うために並んでくれている人が多くいるようで、倉庫から運んだ方がいいかもしれないと言う話だ。」
「すげーな。」
「告知なしで初日にこんなに売れるとは大したものだ。」
「一体どんな特典写真をつけたんだ?」
アンジェラはスマホに保存されている写真を見せてくれた。
鏡に写った上半身裸で歯磨きをしているライルの写真だ。
「…。腹筋がめちゃくちゃ割れてる…。」
「ふふ、父上の腹筋が割れなさすぎなのではないか?」
どうやらセクシー系で釣った感じなのかもしれない。
結局、リリアナに頼んで倉庫から東京の事務所に写真集の在庫を物質転移で送ったらしい。あまりに好評で、ネットでの通信販売も受け付けることになったそうだ。
リリアナは物質転移の際、アンジェラの芸能事務所の窓からすぐそばの書店の前にできている長い行列を見て事務所の人に聞いた。
「あの列って何を買うために並んでいるの?」
「あれは、今お姉さまが運んできてくださった写真集を買うために並ばれているお客様ですよ。」
「え、マジ?」
言ってる側から、事務所のスタッフが運搬カートに乗せて写真集を配達に行くのが見える。リリアナは少しショックを受けた。なんだかライルを遠く感じた出来事だった。
リリアナが聖ミケーレ城に戻り、自分たちの滞在している部屋に戻ったとき、アンドレが子供達に絵本を読んであげていた。
お姫様が魔女の呪いで眠り続けているのを王子様のキスで目覚めさせるお話だ。
ジュリアーノがアンドレに言った。
「パパドーレ、ジュリアーニョはチュー、ダメ?」
「ジュリアーノ、チューはダメじゃないけど、相手も自分のこと好きじゃないとチューしちゃいけないんだよ。」
「ふぅん。」
次にライアンが言った。
「ライアン、パパドーレにチュー」
そう言ってライアンがアンドレの唇にチューをした。二人の体が青い粒子に包まれたかと思うと10歳くらいの少年になった。見た目はアンドレの小さいバージョン。
どっかで見た姿だ。アンジェラとミケーレが合体していた時とほぼ同じ。大きさが少し違うくらいか…。
「ライアン、ダメよ。能力をどこでも使っちゃ。出て来なさい。」
リリアナがそう言っても全く聞く様子がない。しかし、合体している時は二人の意思が一致しないと行動出来ないはずだ…。ところが、ライアン+アンドレは走ってどこかに行ってしまった。どうやら精神力ではライアンの方が勝っているようで、主導権を握られているらしい。
「全く、もう。」
リリアナはまた面倒な事が起きる前にと思ったのか、ジュリアーノを小脇に抱えるとすぐにライアン+アンドレの後を追った。
ライアン+アンドレはいきなりアンジェラ達が宿泊している部屋を『バーン』と開け、ミケーレを見つけると言った。
「おにいちゃま、いっしょに、あそぼ。」
自分より大きい子に『おにいちゃま』と言われ若干固まっている。
「ライアン?」
「キャー、うれちい。おにいちゃまわかってくれた。ライアンだよっ。」
「ライアン、どうして大きくなってるの?」
「パパドーレにチューしたらね、なったの。」
ミケーレは思わずマリアンジェラの方を見た。マリアンジェラがニンマリ笑って言った。
「ライアン、マリーが勝負したげる。これで。」
『バッ』と取り出したのはツイス〇ーだ。さすがに赤ちゃんとは出来ないのでライアンにとっては初対戦である。
「おねえちゃま、しょうぶ。」
ミケーレは興味なさげに傍観するつもりだ。
マリアンジェラはライアンの大きさに合わせて10歳くらいの大きさになった。
「おねえちゃま、すごい」
そこにリリアナが追い付いた。
「ライアン、だめだってば…。もう出なさい。アンドレがかわいそうでしょ?」
「やーの。これであしょびたいの。」
普段わがままを言わないライアンが珍しくだだをこねる。根負けして、結局一回だけと許可をした。
しかし、それが仇となった。ジュリアーノが、自分も参加したいのに大きくない子はできないので、かなりのしつこさでギャアギャアと騒いでいる。
そこにアンジェラが来て一言言った。
「リリアナ、そのサルをどうしかしろ。うるさくてかなわん。」
「アンジェラ、ごめんなさい。このゲームがしたいけど、ライアンみたいに大きくなれないって言ってわがまま言ってるのよ。」
「ライアンは大きくなれるのか?」
「あ、いや。アンドレにチューして合体しちゃっただけなんだけど…。」
「はぁ…お前たちはどうやらこんな小さい子供達にいいようにやられているのだな。」
「ごめんなさい。」
あきれて窘めながらも、アンジェラはミケーレに大きくなってジュリアーノと合体できるか聞いた。この合体の能力は今のところ黒髪の天使にしか発現していない能力なのである。もちろんライルやリリィにはコピーされているのだが…。アンジェラは自分がやるのはイヤだったのである。
「えー、パパ、僕はイヤだよ…。」
あっさり拒否られ、アンジェラは仕方なくライルに電話をかけ呼びつけた。
「何?どうかしたの?」
部屋に入ってくるなり室内の状況を見て固まるライルだった?
「この子誰?」
「ライアン+アンドレ。」
「こっちは、マリーだよね?」
「そう。」
「で、僕を呼んだ理由は?」
そうライルが言った時にはリリアナに抱っこされてたジュリアーノがライルに襲い掛かった後だった。何度も何度もライルの唇にむちゅむちゅとチューをする。
「ジュリアーノ、だめよ。ライルの方からしてもらわないと合体出来ないの。」
口の周りを手で拭いながら、『はぁ』とため息をついたライルだった。
「一回だけだぞ。」
そう言ってジュリアーノの唇に指を『ぷにっ』と押し付ける。
二人の体がピンク色の光の粒子と金色の光の粒子で混ざり合い、10歳くらいの線の細い目がぱっちりしたピンクブロンドの美少年になった。
「嘘…、かわいすぎる。」
リリアナが『キュンキュン』しながら感動しているが、そんなことお構いなしで、ジュリアーノ+ライルはツイス〇ーをやっている二人の所に近づき、行儀よく座って、終わるのを待つ。
「ジュリアーノ…」
リリアナが声をかけると、ジュリアーノ+ライルがリリアナの方を見て言った。
「大丈夫だよ、ママ。おとなしく待ってるから。一回やったら戻るね。」
リリアナはめちゃくちゃ大人びた言葉に少し動揺している。
ライアン+アンドレはつたない言葉だったのに…。いやいや、アンドレが負けてるだけだって…それは…。とミケーレの脳内でのつっこみを知っている者は誰もいない。
結局、一回では済むはずもなく、途中から徠神や左徠、アズラィールまで巻き込んで、総当たりの大会みたいになったのだ。
優勝はマリアンジェラ。二位はライアン+アンドレ、ジュリアーノ+ライルの同率だった。三位は徠神、四位はアズラィール、最下位は左徠だった。
順位が決まって解散する頃には、ライアンもジュリアーノも満足いったようだ。
当然のことながら、解除した時にリリアナが二人の能力を親の許可なく使わないように赤い目で暗示をかけた。
過去から戻ってきたときに暗示をかけ忘れた痛恨のミスという事である。
その日の夕方から、地下のスパとマッサージは筋肉痛のおじさま達で大盛況だったのは言うまでもない。




