494. 予期せぬ帰還
親族旅行の第一夜の夜が更け、起きている者もまばらになったとき、マリアンジェラはライルの寝室の前に立っていた。
意地悪をしたわけではなかったが、ライルを彼の両親である徠夢と留美の前で強制融合し、幼児の姿にした。結局そのままアズラィールの部屋に連れて行き、ゲームを少しした後ライルは自分の部屋にすぐに引っ込んで言った。
「マリー、君とは絶交だ。」
その言葉を残して。
さすがにこれはショックだった。ライルの事を考えてやったつもりだったが、本気で怒らせてしまったらしい。外見は子供でも中身は大人のはずだ。
いつものしっかりしているライルなら、こんなことぐらいじゃ怒ったりしないのに…。
かれこれ30分以上、ドアの前で棒立ちだ。
正直、どうしていいかわからない…。それほどライルは怒っていた。ノックをしても返事もしてくれないのだ。
『ふうっ…』そうため息をついて、部屋に入ることをあきらめ、自分の部屋に入る。
『ぎー、バタンッ』大きな客室のドアがなんだか自分をすごくちっぽけなものにしているような錯覚に陥る。
もう、アンジェラ(パパ)もリリィ(ママ)もミケーレもそれぞれのベッドで眠っている。
自分でやってしまったこととはいえ、大失敗だ。思わず泣いてしまう。
声は堪えた。手に持っていたお気に入りの小さいブランケットで、泣き声が漏れないように自分の口を押えた。『う、うぇぇん。』
ふと、マリアンジェラは自分の目的が何だったのかを想い巡らせることに至った。
『私、今何しようとしてたんだっけ?』
なんだか、思考がずいぶんと後退した時だった。
見たことのないオオカミみたいな頭ボサボサの男の子が目の前に転移で現れてこけた。
そして、すぐに起き上がった。
鋭い目つきに、引き締まった体、でも、小さい、まだ子供…いや自分より小さい幼児だ。
髪は黒と金髪のまだら、そして、透き通る薄い色の碧眼…。
「だ、誰?」
「お、おねぇちゃま…た、たしゅけて…」
そう言うとその子は、よろめいてそこでべちょっと倒れ込んだ。
マリアンジェラは慌ててその子に駆け寄った。
『あっ…』その子の手を触ったところからその子の記憶が自分に流れ込む。
それは、ライアンとジュリアーノが合体した姿だった。
二人で力を合わせてここまで転移してきたのだ。
「ライアン、ジュリアーノ…。これは大変だわ…。」
マリアンジェラはライルに無視されていたことなど忘れてライルの部屋のベッドの上に転移した。
キョロキョロと周りを見回すが、ライルは見当たらない。
マリアンジェラがまた泣きそうになっている時、浴室のドアが開いた。
全裸にバスローブを羽織ったライルが出てきたのだ。
「うわっ。マリー…ドアの鍵かけてあっただろ?」
慌ててバスローブの前を重ねて紐を縛る。
「ライル、大変なの。この子…。」
「ん?変な髪の色だな…誰だ?」
「ライアンとジュリアーノが混ざってる。」
「え?」
ライルは慌ててその子の側に行き頬を触った。
「本当だ…しかもどうもヤバい状況だ。アンジェラを呼んでくる。マリーは二人の合体を解くようにやり方を教えてあげて。」
「うん。やってみる。」
ライルはアンジェラ達の寝室に転移しアンジェラの肩を揺すって声をかけた。
「アンジェラ…ちょっといい?アンジェラだけ来て欲しいんだけど。」
「ん?あ、あぁ。どうした?」
「ちょっと僕の部屋で話したい。」
僕はそう言うと起き上がったアンジェラを連れ、僕の部屋に転移した。
急に明るい部屋にきたせいか、アンジェラは目を瞬かせて眩しそうだ。
目が慣れ、周りを見渡し驚いた顔をし、一気に目が覚めたようだ。
「ライアン、ジュリアーノお前たち、ここで何をしている。」
「…うぇっ、うぇーーん。」
「な、泣くな。泣かなくていいから…。」
そこでマリアンジェラが代わりに話した。
「二人の記憶を見たらね、洗礼式の時に襲われたみたいで…。最初にリリアナが倒れ、次にアンドレが双子を庇った時に、背中から何かを打たれたみたいなんだけど、アンドレがとっさに、『二人で一人になれれば逃げられる、ジュリアーノの能力の使用を許可する』って言って倒れたみたい。そこにはニコラスもいたみたいだけど、記憶の中では見えなかったね。」
双子が泣きながらもコクコクと頷いた。
「よく二人で一人になる方法が分かったな。」
「パ、パパドーレがママにやってたの見た。」
ライアンがチューの形の口をした。
「そ、そうか…。よくやった。そして、よく戻ってこれた。よしよし。」
アンジェラが二人を撫でながら言った。きっとジュリアンい変身するところを見たのだろう。ライアンはアンドレの能力と同じ能力を持っていたと言うわけだ。
「ライル、悪いがリリィは今、体が大事だ。お前が行ってくれるか?」
「もちろんだよ。」
「パパ、マリーも行きたい。」
「マリー、危ないからライルに任せておきなさい。」
「一人だと心配だし、マリーには毒も薬も剣も、それに矢も効かないって知ってた?」
「え?知らないよ、どういうこと?」
「マリーはキラキラでコーティングされてるの。」
「それは聞いたことあるけど…」
「マリーだって血は出るだろ?いつも融合の時に指から出してるじゃないか。」
「あれは自分でやってるから出せるだけだよ。」
さっぱり意味が解らない。とりあえず、危険な時はすぐに逃げるという事で、マリアンジェラを連れて行くことになった。
アンジェラは未徠と亜希子に双子の面倒をみてもらえるように頼み、事情を話に行った。リリィはやはり体調があまりすぐれず、双子の世話は出来そうにない。
僕、ライルは双子に念を押した。
「ライアン、ジュリアーノ。いいか、よく聞いてくれ。
二人が危険な目に遭ったり怪我をしたり、いなくなったら皆こまるんだ。
絶対にいい子にして、おじいさまとおばあさまのいう事を聞くように。
あと、髪の毛はむしらないこと。いいな?」
「「あい。おにいちゃま。」」
危険な目に遭ったせいか、ずいぶん静かで素直である。
僕はアンジェラにその後の事を任せ、過去に出発する。
僕は平気だが、マリアンジェラにはコートを着せた。マリアンジェラはコートを着た状態で15歳の大きさになった。走ったりするときに遅れないようにと思ったのだ。
「さぁ、行こう。まずは、城の方からだ。」
僕とマリアンジェラは手を繋いで500年前のユートレア城の王の間に転移した。




