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492. 年末の親族旅行(7)

 目を開けた徠夢と留美は、すごい勢いで立ち上がり、アンジェラが抱きかかえる僕、ライルの前に駆け寄ってきた。

 徠夢が僕をアンジェラからむしり取る。

「私の息子だ。お前のではない。」

 え?こわっ。アンジェラも目をパチクリしながらたじろいでいる。

「わ、私にも抱かせて徠夢さん。」

 留美もうっとりした表情で僕を見つめてそう言った。

 徠夢は僕を留美には渡さず、頬ずりしては額にキスしたり、異常なほど執着を見せた。

 祖父の未徠が途中でたしなめて留美に僕を抱っこさせるように言うほどだ。

 僕が留美の手に移り、やはり散々いじくられた後で、マリアンジェラが近づいてきた。

「おじいちゃんと留美さん。これからはちゃんとライルにやさしくしなきゃだめだよ。」

 そう言ったマリアンジェラが僕を留美から引きはがそうとしたが、留美が僕を抱っこしたまま逃げた。

「私の赤ちゃん、誰にも渡さない。」

 はぁ?なんだかおかしくない?どうやら、今まで心の中でモヤモヤしていたものが一気に取り除かれ、本能のままに行動してしまっている様だ。

 マリアンジェラはあきれて、行動を起こした。

 僕の服を手に持ち、転移で留美の目の前に出現し、留美を睨みつける。

 留美の動きが止まり、留美が僕をマリアンジェラに渡した。赤い目を使ったんだろう。

 マリアンジェラは服を僕の上にのせ、僕の顔を覗き込んだ。

 僕の視界がぐらっと揺れて、いつの間にか普段の大きさに戻っていた。服もちゃんと着ているし、赤ちゃんの服は手に持っている。

「あ、あ、あれ?えっと…」

「ライル、ごめんちゃい。赤ちゃんのライルを見たら反応するみたいだったから、赤い目使って赤ちゃんにしちゃった。へへ。」

 そう言うことだったのか…全くわからなかった。本当に能力も使えなくなった。

 でも、今まではリリィと試しても僕には効かなかったのにな。正直怖い経験だった。

 今まで当たり前に使えていた能力が全て使えなくなるのだ…。


 目の前で大きくなってしまった僕を見て、少し留美が動揺している様だ。

「あ、私の赤ちゃんが…。」

「留美さん。僕はもう赤ちゃんじゃないよ。」

「あ、うん。そうだったね。」

 留美が正気を取り戻したところで、僕とマリアンジェラと留美の三人は大聖堂に戻った。大きくなった姿の僕に父様が駆け寄ってきてぎゅーっと抱きしめる。

「ライル、ごめん。今まで、本当にごめん。」

 そう言って頬をこすりつけてくる。ううっ…、ハズイ…。自分だっていつもマリアンジェラにやってるんだけど…自分がやられると、かなり恥ずかしいものだ。


 亜希子はそんな息子と孫の姿を見て、涙ぐんでいた。

「よかった…よかった…。」

 僕がコピーしてしまった離れていても体の状態を見ることが出来る能力、てっきりマリアンジェラがまた使えなくするのかと思いきや…僕にはまだそれが使えていた。

 リリィを見るとお腹の赤ちゃんが二人、スヤスヤと眠っているのが見える。

 僕はマリアンジェラに聞いた。

「マリー、ところで君のすごい能力は使えないようにしなくていいのか?」

「え?もう使えないはずだよ。ね?ママ…」

「うん、確かにもう透けて見えないよ。」

「僕には見えるんだけど…。」

「それはライルが自分で獲得した能力だからじゃない?」

 まぁ、見ようと思わなければ普通だから平気かな?なんだか視界がいつもと違って酔いそうで気持ち悪い。その時、ふと祖母の亜希子が視界に入った。

「あ、え?マジ?お、おばあさま…。」

「どうしたのライル…。」

「おばあさまのお腹に赤ちゃんが…。」

「「「えーーーっ!」」」

 本人も気づいていなかった。最近ちょっと太ったと思ってたくらいの感じで…。

 未徠は実年齢が57歳、亜希子は30代初めころに事故死とされていたが、実際は僕が事故から救い、未来に連れて来てしまったため、実年齢は35歳くらいだろうか…まだまだ妊娠してもおかしくはない。

「うひょ~、ママとおばあちゃま同時出産?すごーい。」

 マリアンジェラがテンションアップの様子で言った。

「おばあちゃま、つわりとかないの?」

 リリィが言った。亜希子が恥ずかしそうに答えた。

「うーん、今年は秋も暑かったから、食欲はないなぁ…とは思っていたけど。まさかね…。ひ孫もいるのに、赤ちゃんだなんて…。」

「亜希子…私はうれしいよ。」

 未徠が亜希子の腰に手を回し優しく言った。

「うっひょ、ラッブラブ~。」

 マリアンジェラのふざけた叫び声を聞き、皆で大爆笑した。


 その日の夜は、皆好きな場所で好きなことをして過ごした。

 アズラィールの泊っている部屋では、左徠とアズラィール、ミケーレとマリアンジェラがTVゲームで闘い。優勝はミケーレ、最下位は左徠。

 4歳児に負けて本気で悔しがっている左徠が子供っぽくて笑えた。

 未徠と亜希子、徠夢と留美はサロンでライルの弾くピアノを聴き、ゆったりと過ごした。そこにはルカと徠央もいて、お互いの家業について色々と話してもいた。

 ルカが過去に営んでいた商船会社と薬局は今はアンジェラの所有するライエンホールディングスの傘下に吸収合併され、順調に業績を上げているらしい。

 ルカはいいところのお坊ちゃんという感じの見た目と物腰やわらかな感じでかなり女性にモテる様だ。徠央は甘党の食べるの大好きぽっちゃり君だ。

 長年生きていると、個性が際立ってきて、似ているが違いがはっきりしている。

 そこにアンジェラとリリィが入って来た。

「あ、いたいた…。父様…。」

 私、リリィがそう言って徠夢に近づいた。

「どうしたリリィ…。」

 徠夢がそう言って立ち上がった。

「お正月にマリアンジェラがおせち料理を食べたいって言ってて…。」

「おせちか…、いつもかえでが作ってくれるから、買い物さえどうにかなれば頼めると思うんだが…。」

「買い物かぁ…年末に買い物に行くんだよね、そう言うのって…。」

「そうだな、正月はどこも店が開いていないからな。」

「あ、あの…。」

 留美がリリィと徠夢の会話に割り込む。

「どうした、留美…。」

「リリィはあなたの娘なんですよね?どなたが産んだ子供なんですか?」

「「はぁ?」」

 リリィと徠夢の息が合ってしまった瞬間である。


「あ…あれぇ?言ってなかったっけ?ライルとリリィの話…。」

「私は、ちゃんと、わかっているぞ。」

 徠夢は言った。そうだよねぇ…。留美さんは理解していなかったってことかな?

 気を取り直してリリィが言った。

「あの、小さいライルが来ていた時に留美さん会ってたよね?」

「はい。三歳のライル君ですよね。」

「あの時、同じくらいの大きさのライナって言う子いたの覚えてる?」

「…そういえば…あの子は今どこにいるの?全然見なくなってしまったけど。」

 徠夢が留美の肩に手を置き、静かに言った。

「ライルは、双子だったんだ。」

「え?うそ、一人しか産んでない…。」

「それが、違ったんだ。」

「え?どういうこと?」

 留美が驚いた顔で言った。

「それは、過去の記憶を見た方がいい。」

 アンジェラが言った。アンジェラがライルを呼び、ライナが家に来る前の記憶を留美に見せて欲しいと言った。

「いいけど…。本当にいいの?」

 ライルが、リリィ(ライナ)が生まれた時にライルの中に取り込まれていたこと、そして次にライルが能力を使って自分だけ離れたこと。離れた肉片を愛の女神が救い、現世で度々被っていることなど、本当にすべての真実を留美に見せたのだ。

 留美は震えていた…。目は開きっぱなしで、顔色が悪い。

「留美さん、大丈夫?」

 リリィが声をかけると、お化けでも見るような態度でリリィの手を払いのけた。

 リリィは落ち込んだ顔をして、アンジェラに言った。

「アンジェラ、お部屋に戻ろう。私…何か気分がすぐれないの…。」

 アンジェラはリリィを労わり、優しく体を支えてその場を後にした。


「留美、お前、ひどいじゃないか。」

 徠夢はひどく声を荒げ、留美に対して怒りをあらわにした。

 今までライルに対しては暗示がかかっていたが、リリィとは少なからず良い関係を保ってきた。それなのに、事実を理解しようともせず、完全拒否した留美を徠夢は許せなかった。

「留美、私たちは奇異なる者だ。それは間違いない。その中でもライルとリリィは特別だ。」

「でも…私は産んでいないわよ。」

「じゃあ、確認してみるといい。あの時の助産師が見つけた小さい女の子に、ライナと名付けて修道院に捨てたかどうか。」

 アンジェラが表情を変えずに言った。すごく冷たい空気が流れているような状況になった。留美だって知ることが出来た環境にいたはずなのに、本人が拒んだのだ。

 ライルが一言、捨て台詞のように呟いてリリィとアンジェラの後を追った。

「僕とリリィは一つの体を共有して生きて来たんだ。親がそれを愛せずに、誰が愛してくれるんだよ。」


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