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490. 年末の親族旅行(5)徠夢の黒い影に隠れた記憶

 僕は眩暈めまいがした様な感覚のあとものすごい違和感を感じた。

 ん?いつの間にか大きくなっているマリアンジェラに抱っこされていて、赤ちゃんの服を着ていた。

『ま、マリー…どうして…』僕はそう言ったつもりだった。でも口から出たのは…。

「ま、まあぶ…ぶぶぅ。」

「もぉ、ライル…本当にかわいいの。チュッ」

 マリアンジェラに頬にチューされ、身動きが取れないくらいがっちりと抱っこされている。

 それを見たリリィが、洗脳を解くとかそんなのそっちのけで、アンジェラと祖父母の手を離して目の前に来た。

「マリー、今日こそ抱っこさせて。」

「仕方ないな…一回だけね。」

 渋々僕をリリィに渡す。僕がリリィを見上げると、よだれを垂らしそうなメロメロな笑顔で僕に頬ずりをしてくる。

「マジでかわいい。マリーとミケーレの赤ちゃんの時も超かわいかったけど、なんか種類が違う気がするわ。」

『リリィ、やめてよ』頬ずりするリリィにそう言ったつもりだが、僕の口からはまた変な言葉が出た。

「リーちゃ、だぶぅ。」

「きゃ~、何かしゃべってる。でもなんだかわかんない~。」

 そう言ってまた頬ずりをする。ダメだ、なぜ話せないのだ?助けて、アンジェラ…。

 アンジェラの方を見て、手を伸ばすと、アンジェラが気付いて近づいてきた。

「マリー、ライルはどうして話せないのだ?」

「あ、今ね能力を封印中なのと、言語能力も6カ月並みに調整したの。」

「どうやって?」

「あ、それは内緒。ライルもわかんないうちにこうなっちゃってて多分今すごい怒ってると思うけど…少しそのままでお願いね。」

 なぬぅ…。何かされたのか…よくわからない。全くわからない。

 転移しようとしたができなかった。大きくなろうとしてもダメ…。しばらくこのまま従うしかない様だ。

「ママ、赤ちゃん返して。」

「あ、ハイ。」

 僕はまたマリアンジェラに抱っこされた。


 マリアンジェラが大聖堂の一番前の席に父様と留美を座らせた。

 その前1mほど離れた場所にリリィ、アンジェラ、祖父母を立たせ、リリィの手に三人を触らせる。

「ママ、言う通りにやってね。」

「おっけい。」

「まずね、おじいちゃんと留美さんの頭のあたりを見て透かしてみて。傷治すときと同じ感じで…。」

「うん、できた。」

 マリアンジェラは僕を抱っこしてリリィの方に向いている。父様達には僕が見えない。

 マリアンジェラは僕の顔に近づいて小さな声で言った。

「振り向いたら、パパ、ママって言ってみてくれる?」

 なんだその変なプレイ…。マリアンジェラが父様達に少し近づいてくるっと反転し、僕を二人に見せた。

『パパ、ママ』と言ったつもりだが、またちょっと違って言葉が出た。

「だぁだ、まんま。」

 リリィの表情が変わった。僕も正直凍り付いた。

 父様と留美の頭の中、それまでは僕にも半透明に見えていたそこに黒い影が浮かび上がった。父様の頭には3つ、留美の頭には5つの黒い影。

「あぶぅ。」

「ね…見えた黒いところ。」

 リリィを触っている三人もリリィと同時に頷いた。

「赤ちゃんライルを見たら、はっきり出てくるの。記憶を消されたところが、反発しようとして戦ってる感じ。」


 マリアンジェラは、次に僕をアンジェラに抱っこさせてリリィの手を取った。

 マリアンジェラからリリィ、リリィから僕を含めた4人にあの黒い影の中の記憶を見せると言う。

 どうやって?と思っているとマリアンジェラの指先から白いレーザー光線の様な光が一筋出た。

「おじいちゃんと留美さん、目瞑ってて。」

 二人が目を瞑ると、最初に父様の1つ目の黒い影にその光線を当てた。

 一瞬で僕の脳内にその情報が入ってきた。


 それは、以前、過去を変えたことで変わってしまった現実を確認するために、なぜ今更父様と留美が結婚したかを聞いた時に、赤い目を使って聞いた情報に合致した。

 父様に留美からどうしてもデートしたいと言われたという日の記憶だ。

 当時大学生だった父様に女性が近づいてきた。女性は見たことのない人で、手紙を渡された。その手紙には留美の名前があった。内容は、『徠夢さんの事がずっと好きでした。もうすぐ海外に留学するので、最後に一度だけデートして欲しい。今夜6時に、ここに来てください。』という内容だった。

 徠夢は全く留美の事は知らなかった。こんな手紙を知らない人に頼むなんて非常識だ。一言文句を言ってやろう。そう思って徠夢は6時に指定の場所へ行った。

 その途中、後ろから声をかけられ女性に道を聞かれた。

 その時、女性の手元には黒い袋があり、そこから瓶を取り出してそれを見せた。

 そして言ったのだ。

「これからお前が会う北山留美の言う通りにしろ。私の事は忘れろ。」

 女はいつの間にかいなくなっていて、今何があったかも忘れた。

 徠夢は待ち合わせ場所で留美と会い、留美が注文したコーヒーがすでにそこに置かれていて、それを飲むように勧められた。

 気がついたらホテルの部屋で、留美はそこにはいなかった。そこにどうやって行ったのかも全く覚えていなかった。


 未徠と亜希子が思わずため息をついた。

 完全に徠夢はハメられたのである。

 父様が言っていたことはほぼ合っていた…しかし、違うところがあった。

 手紙を渡し、道を聞くふりをして暗示をかけた女のことだ。その女の存在自体を忘れているのだ。


 次にマリアンジェラは光線を父様の二つ目の黒い影に当てた。

 それは、留美が両親を伴いライルを連れて来た日の記憶だ。

 留美の両親はひどく怒っていた。娘をきずものにされた。責任を取れ。

 娘は留学中で将来があるから子供はお前が責任をもって育てろ。

 まぁ、普通に言いそうなことだ。ただ、違ったことがある。

 彼らが来る前に事前に電話がかかってきた。留美が徠夢の子供を出産した事実を告げられ、これから家に来ると言うのだ。

 その電話を受けた時は『俺の子かどうかもわからない』と思っていた。

 しかし、ライルを押し付けられ、無理やり抱かされたそのぬくもりと、愛らしい瞳…そして自分にそっくりなその姿を見た時に、徠夢の気持ちは180度変わった。

 その赤ちゃんが愛おしく、心の底から『愛』という感情があふれ出たのだ。

 徠夢の父である未徠は怒声を浴びせる留美の父親に平謝り、その間も徠夢はそんな話そっちのけでライルを抱きしめ、その瞳を覗き込んでいた。

「ばぁぶ。」

 徠夢は赤ちゃんの声を聞き、またギュッと抱きしめた。

『かわいい…、なんでこんなにかわいいんだ…。』

 徠夢は留美の両親の話など、ほとんど聞いていなかった。ライルは置いていかれ、父未徠がかえでさんにライルの面倒をみるように言っているのを聞いた。

「だぁだ」

 そう言って徠夢に手を伸ばすライルを見て、幸せな感情が湧き上がってくる。

 その時、インターホンが鳴った。

 かえでさんが対応したが、徠夢に来客だと言った。徠夢は赤ちゃんをかえでさんに渡し、玄関へ出た。

 そこには見知らぬ女がいた。

「どなたですか?」

「これ、見てもらえますか?」

 女は黒い布の袋から瓶を取り出した。

「お前は一生、ライルを、お前の息子を愛さず、疎ましく思い、ひどい言葉をかけ続けながら生きろ。私の事は今すぐ忘れ、思い出すな。」

 女はそう言ってその場から去った。

 徠夢は玄関から戻ってきたときにかえでさんに声をかけられた。

「あの方はどなただったんですか?」

「え?誰もいなかったよ。」

「あら、おかしいですね。」

 かえでさんがライルを徠夢に返そうとした時、徠夢の頭に嫌な気分が沸き起こった。

 ライルを見ると気分が悪くなった。『こんな子供、誰が欲しいと言った?』『どうしてこいつを俺が面倒見る必要があるんだ?』『いっそ死んでしまえばよかったのに』

 色々な悪い感情が沸き起こり、徠夢は手を引っ込めた。

「かえで、頼むよ。俺には無理だ。」

「徠夢、なにを言っているんだ。自分の息子に…。」

 徠夢は父親の言葉を無視し、その後ライルを抱くことは無かった。


 その記憶を見た亜希子が泣き崩れた。

「ひ、ひどい…。」

「こんな事があったのか…。」

 未徠も困惑を隠せない。


 徠夢の最後の黒い影にマリアンジェラが光を当てた。

 僕達の頭の中に父様の記憶が浮かび上がった。

 それは、僕が留美、いや北山先生を死にそうな状況から救った頃の記憶だった。

 ライルを引き取ってから9年が経ち、ライルには決して自分から話しかけることがないまま年月が過ぎた。

 徠夢はどんなひどいことを言っても何も反発もせず、いつも穏やかにおとなしく大人に手をかけさせないでいるライルをどうしてかわからないが、疎ましく思っていた。

 どうしても疎ましい気持ちが湧き上がる。

 そんな時、刑事が小型犬を連れて近所を聞き込みしていた。

 うちにもそれはやって来た。犬を見たライルが『それは担任の北山留美先生の犬だ』と言った。『北山留美』…、あのライルを産んだ女の名前だった。

 それまで息子の担任の名前を知ろうともしなかった。授業参観にも行かず、家庭訪問も連絡を無視した。まさか、接点があったとは…。

 その小型犬がライルに飛び掛かった。その瞬間、ライルが気を失い意識不明になってしまった。未徠が診察をしたが、体に異常はなかった。

 なにかあってはいけないと交代でライルの様子を見ることになった。

 その頃はもう大学は卒業し、大学の研究室に在籍しながら、外部の動物病院に勤務していた。ライルが意識を取り戻した後、不思議な事が起こり始めた。

 刑事がまた訪ねて来た。刑事に連れられて北山留美の両親が来た。

 ライルがその小型犬は北山留美の飼い犬だと教えてくれたおかげで捜査が進んだと言うのだ。

 お礼を言いに来た北山の両親は、まるで徠夢に初めて会ったように接し礼を言った。

 変な感じがしたが、無視することに決めた。

 その日、家に来客があった。見知らぬ女が訪ねて来た。

「いいものをお見せしようと思いまして。」

 女はそう言って黒い袋から瓶を取り出した。

「お前は北山留美と恋に落ち、結婚したくなる。私の事はすぐに忘れ、今後一切思い出さない。」

 女はそう言うと、すぐにその場を去り、徠夢はなんだか急に北山留美に会いたくなった。


 徠夢の黒い影に隠れていた記憶はここまでだった。

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