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487. 年末の親族旅行(2)

 マリアンジェラの食事が終わり、マリアンジェラと僕は一度僕の部屋に行き、そこで融合した。

 融合した状態の僕たちは、僕の姿で食堂に戻り、勢いよく食事を摂った。

「急にどうした、ライル…。」

 徠神が驚いて僕に聞いた。

「あ、うん。今だけ味がするようになったんだ。」

「ほぉ、味覚が変わるのか…不思議な現象だな。そう言えば、マリーはどこに行った?」

「わかんない。さっき一度部屋に戻ってたよ。」

「そうか…。お土産持ってきたのにな…。店の新作スィーツなんだ…。」

 その時、僕の胸辺りからマリアンジェラがポロンと飛び出た。

 きれいに『シュタッ』と着地すると、マリアンジェラは徠神に駆け寄った。

「新作…食べたい。」

「マリー、お前、今どこから出てきた?」

「あ、この辺から出てきたんだよ。すごいでしょ。新技。」

 徠神はよくわかっていないようだったが、まさかマリアンジェラが食べ物につられて融合を解くなんて思ってもみなかった。

 すごくドキドキしたよ。融合していること、僕はちょっと後ろめたい気持ちもあるのだ。

 出来れば同居家族以外には知られたくない。


 食事を終え、食堂の隣のサロンに移動した。ここは庭園を一望できる窓際にテーブルを置いたカフェみたいな感じになっていた。

 入り口近くのカウンターにいる従者に言えば、飲み物を用意してくれたり、ガラスケースに入っているスィーツを食べることもできる。

 徠神が持ってきたという新作がここのガラスケースに入っている。

 さすがに人数分は無理だったらしく、10個限定だと言っていた。

 そこで僕達はマリアンジェラの分の新作を受け取り、アンジェラとリリィと合流した。

「ママ、新作食べた?」

 マリアンジェラに聞かれリリィはチラッとカウンターを見た。

「まだだよ。だってさぁ、一番最初はマリーに食べさせてくださいっていう伝言があるから、さっき聞いたらまだダメですって言われたよ。」

「うしょ…。うれしい。」

 マリアンジェラは徠神に特別扱いされ、すごくうれしそうだ。

 マリアンジェラがもうお皿に新作を載せて持ってきたのを見た途端、リリィはダッシュでカウンターに行った。

「リリィ、走ったらあぶな…」

 アンジェラが声をかけた瞬間走るのをやめ、カウンターの前に転移していた。

 カウンターにいた従者は少し慌てていたが、事前に聞いていたのか動揺しながらも対応していた。

「アンジェラ…あれって大丈夫なの?」

「リリィがここに従者を連れて来た時に赤い目で仕込み済だ。元々知らない者達は、最後の日に送り返した時に全て忘れる設定だ。」

「そうなんだね。聖マリアンジェラ城に行った時よりずいぶん従者が多いと思った。」

「中には私たちの事をよく知らない者もいるからな。今回は少し実験も兼ねている。」

「実験?」

「そう、私達に忠誠を誓えるかどうか、というところだ。」

「ふーん。」

 僕はあまりたくさんの人に僕達の秘密を知られるのは良くないと思っているけど、従者の中にはアントニオさんやお手伝いさんや乳母たちのように、僕達には翼があったり、急に消えたりすることが出来るって知ってる人もいる。

 その人たちからは決して情報が洩れないとアンジェラは確信を持っている様だ。

 その時、僕達のテーブルに近づいてきた者がいた。

 アントニオさんだ。若い男性を一人連れて来ている。

「アンジェラ様、今よろしいでしょうか。」

「あぁ、どうした、アントニオ。」

「今日は私の後継者にと考えている者を連れてまいりました。」

「ほぉ、確かお前の孫だと言っていたな。」

「はい。私のせがれの三男で、クリスチアーノでございます。」

 アントニオさんが孫を紹介してくれたあと、その孫も自己紹介をした。

「初めてお目にかかります。クリスチアーノです。どうか、クリスと呼んでください。」

「よろしく頼むよ、クリス。」

 アンジェラがそう言った後、リリィが爆弾を落とした。

「アントニオさん、あの泥棒に入った孫って、クリスさんと関係あるの?」

 それにはクリスが答えた。

「あれは私の長兄でございます。本当に申し訳なく思っております。」

 アントニオさんも口を開いた。

「私の教育が遅かったため、フィガロ、あの男は思い違いをしてしまいました。

 私はすぐにクリスチアーノを含め私の後継を担う者達に、私が所有しているように登録されている全ての財産は、アンジェラ様のものであり、それを管理しているだけの存在であると知らせ、忠誠を誓えない者は一切の援助を絶つことを知らしめました。」

「面倒かけているようですまないな。」

「めっそうもございません。私がアンジェラ様にお仕えできている事が奇跡なのです。ここにいるクリスチアーノも、私と同様アンジェラ様たちにお仕えすることに喜びを感じております。」

 ここでまたリリィが爆弾を投下…。

「ねぇ、アントニオさん辞めちゃうの?」

「あ、い、いえいえ。まだまだ動けるうちは働かせていただきます。ただ、高齢になってきたときに備えているだけでございます。」

「ふー、よかった~。アントニオさんが作ってくれるイタリアンが食べられなくなるかと思った。」

 そ、そこ???という顔をアンジェラも僕もマリアンジェラもしちゃった気がする。

「ありがたいお言葉です。まだまだお子様たちの可愛いお姿も見守っていきたいと思っています。」

「アントニオ、ありがとう。これからもよろしく頼むよ。お前たちも城で楽しんで行ってくれ。」

「ありがとうございます。」

 アントニオさんたちはそう言って立ち去った。

 そうか…詳しい年齢は聞いたことないけど、僕がイタリアに住み始めた頃70代前半だって聞いた気がするもんな。後継者が急に若くなったら少し心もとない気もする。


 その後、マリアンジェラに誘われてスパに行った。

 洗い場は男女で別れているが、スパは水着着用で入るようになっていた。

 綺麗にライトアップされたスパは、ろうそくで足元を照らされ、ライトアップの色が違う3つの浴槽が少し距離を置いて作られていた。

 一つは青い色のバブルバス。もう一つは黄色やオレンジのライトアップがされている薬草の入ったぬるめの浴槽。そして最後の一つは少し熱めで、グリーンの色でライトアップされていた。浴槽一つ一つがプールより少し小さい位の大きさだ。

 脇にはドアがあり、その中はサウナになっている。

 おっちゃん達はサウナとぬるめの浴槽を行ったり来たりして汗を出していた。

 サウナとは反対側のドアからはマッサージの施術を行う小部屋へと行けるらしい。

 マルクスと徠神の肉体派コンビがマッサージをした後でマリアンジェラに話しかけてきた。

「どうだ、マリー。俺の肉体美を見ろ。」

「きゃははは、ほんとだ。ツヤツヤ、脂っこい。」

「それ、褒めてないだろう。」

「そう?徠神おじちゃん、つるピカで筋肉ムキムキだね。マルクスじーちゃんは黒くて筋肉ムキムキ、どうやったらそんなに黒くなるの?」

「これはな、上半身裸で畑仕事をしたらこうなるんだよ。」

「へー。マリーはあんまりムキムキは好きなじゃなーい。」

「ちっ、振られたか…。がはははは…」

 さすがマルクス、なんとも脳筋な感じである。


 スパを出て僕らが向かったのは卓球台だ。

 そこでずっとアズラィールと行動していたミケーレに会った。

「マリー、探してたんだよ…。」

「マリーも、ミケーレを探してたんだよぉ。」

 二人は息ぴったりに卓球のラケットを手にすると、卓球を始めた。

「うひょ、むずかしー。」

「これ、ゲームみたいにいかないね。」

 どうやらアズラィールに買ってもらったゲーム機のスポーツ系ゲームで卓球をプレイしたことがあるらしい。30分もやったら二人ともヘロヘロになった。


 ここはやはり洋風温泉旅館という感じだな…。そう心の中で納得しつつ、再びサロンへ。アズラィールとミケーレも一緒だ。

 そこで子供達がアイスクリームを食べている時、父様と留美が入ってきた。

 僕達を見つけ、近づいてきた。

「マリアンジェラ、あの、洗脳の件、よろしく頼むな。」

 父様が言うと、マリアンジェラも首肯して言った。

「わかってるよ。今晩、大聖堂でやるね。ライルとママにも来てもらう。」

「わかった。」

 父様達はすぐ横の席に座って軽くシャンパンを飲んでいる。

「あれ?徠紗は?」

「あぁ、さっき寝てしまったんだが、乳母が預かってくれると言ってな。」

「そっか、そう言えば、双子の乳母たちが来ていたね。」

「すごい助かるわ。」

 どうやら普段は子育てでいっぱいいっぱいらしい。ゆっくりできてよかったじゃないか。そこにアンジェラとリリィも来た。

「ママ、どこに行ってきたの?」

「マッサージ。肩の凝りもほぐしてくれるのよ。もう、秒で寝ちゃった。」

 アンジェラが従者を呼んでシャンパンとオレンジジュースとコールドプレートを持ってくるよう言った。

 すぐに運ばれて来たコールドプレートのハムを早速むさぼり食っているのはマリアンジェラだ。

「マリー、それだけだと塩辛いから、このパンかこっちのクラッカーにのせて食べなさい。」

「そのためのパン?」

「そうだ。」

「むふ。おいちい。」

 ミケーレは黙って観察中。マリアンジェラが思い出したように言った。

「ママ、今日の夜8時に大聖堂に来て。一緒にやって欲しいことあるのよ。」

「うん、いいよ。」

 アズラィールはビールを飲んで、時々コールドプレートのチーズとオリーブをつまんでいる。まだ午後2時半だ。サロンの窓からは庭園が見える。

 その庭園を見てアズラィールがアンジェラに聞いた。

「アンジェラ、なんでここの庭園はこんな年末の寒い時期に薔薇が咲いていたり、緑が濃いんだ?地面に暖房でも入ってるのか?」

「ふふ、父上、いいところに気が付きましたね。これはミケーレの能力の一つです。先日ここで撮影をした際に、ミケーレが咲かせてくれたのですよ。すばらしいでしょう。」

 ミケーレは褒められて耳まで真っ赤にしながら恥ずかしそうにしている。

「いや、でも咲かせただけじゃ寒さですぐ枯れるだろ?」

「そう、そこがすごいんです。」

 アンジェラは息子自慢炸裂、アンジェラが言うには、花を咲かせた場所は春の様な暖かな空気でしばらくの間保護されるのだとか…。保護されている期間は約一か月ほど…。

 そんなに雪深い地域ではないが、庭園の外側は思い切り冬である。

「ここも持ってあと数日です。ちょうどいい時に来ることが出来ました。ぜひ、外に出て散策をしてみてください。」

 アンジェラが満面の笑みで力説した。

 城の中に飾られた色々な色の薔薇の花もこの庭園で咲いたものを摘んで生けてあるそうだ。てっきり花を咲かせて終わりだと思っていたが、温室みたいにできるなんてすごい能力だ。

 そういえば、アンジェラってアズラィールには敬語で話してるのかな?

 自分より100歳ほど年下の父親にも敬意をはらうアンジェラ、僕の目からはものすごいファザコンに見えるのだが…。


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