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486. 年末の親族旅行(1)

 12月30日、木曜日。

 何事もなく、旅行の日を迎え、結局アンドレ達以外は全員参加することになった。

 朝、まずは日本の朝霧邸に行き、おじいさま、おばあさまと父様、そして留美と徠紗を迎えに行く。

 アズラィールは起きたばかりだったので、後でもう一度来るからその時左徠と共に連れて行くことになった。

「アズラィール、1時間後にまた来るから準備しておけよ。もうとっくに日本は昼過ぎてるだろ…。」

「ライルちゃ~ん、そんな意地悪言わないでよぉ~ん。昨日はちょっと飲んじゃってさぁ…。」

「まさか…合コンとか行ってるんじゃないよな?」

「え?合コンいっちゃいけないとかいう法律ないでしょ。」

 どうやら合コンに行っていたらしい。

「鈴にバラしてやる。」

「う、ライル…、それだけはやめてくれ。」

 そこに左徠が通りかかった。

「あ、もう行く時間?」

「アズラィールが今起きたばっかりだから、1時間後にもう一度来るよ。」

「あぁ、昨日結構飲んでたもんな。アズ、あの後、どっか行ったの?」

「あ、え?何の事?さあて、準備するかな~。」

「左徠も一緒だったのか?」

「うん、人数合わせで…。」

 アズラィール…真っ黒だな…。そんな時、アズラィールがふらついてこけそうになり、僕はアズラィールの手首を掴んだ。

 彼の記憶が僕に流れ込む…。『え?こいつ…馬鹿なのか?』

 僕は思わず本気でそう思った。なぜならば、アズラィールは泥酔状態でホテルに連れ込まれ、同級生の男に迫られたところで正気を取り戻し、危ういところで赤い目を使い、相手の記憶を消して逃げ帰って来たのだった。

「アズラィール、悪い、見えてしまった。」

「ラ、ライル…。」

「お前、男にもモテるんだな。」

「いや、いや、いや…女にモテたことないし…。絶対に言わないでよ。」

 僕は黙って首肯した。さすがにオカマ掘られそうになったと言うのは、黒歴史以上の何ものでもない。思わず顔がニヤケてしまう。

「ライル、何、何??二人で秘密なんてずるいよ。」

 左徠はそんな事を言ったが、僕はその場を一旦後にした。


 次に向かったのはドイツ組、フィリップ、ルカ、マルクス…、あれ、ニコラスがいない。

「ニコラスは?」

 僕が聞くと、マルクスが答えた。

「あ、ライル…。聞いてなかったか?ニコラスは500年前のユートレアで洗礼の義をするためにリリアナに連れて行かれたぞ。」

「そうだったんだ…。」

「1月2日の夜か3日に帰ってくると言っていたが…。もう行った後に誘われたから、とりあえず無視だ。」

「わかった。今回は双子の洗礼式らしいんだ。」

「ほう。そうなのか…。」

「父さんは一応、大司教らしいからな。ハハッ」

「そうだね。へへっ」

 フィリップとルカがニヤニヤして言った。

「どういう意味?」

「あんなポンコツ、なかなかいないって話だよ。」

 マルクスが代弁する。

「ポンコツ?」

「あぁ、すぐメソメソするし、不器用だし、なんていうか、よく生きてるなって感じだよな?」

「言えてる。いいところって顔とか、優しいってとこくらい?」

 息子二人にまで完全にディスられている。マルクスがそこで少し擁護した。

「顔だけじゃないぞ。あいつは18歳で、しかも一発で双子を孕ませたんだぞ。」

「…。僕、まだ子供なんで、そういう下ネタはご遠慮願ってるんですけど…。」

 自分の祖父をポンコツとかアイツとか言ってるおっさん(マルクス)、タチが悪い。

「ははははは…悪い、悪い。お前には100年くらい早かったな…。」

「イヤ、そんなでもないと思うけど…。」

 さすがに100年は…アンジェラじゃないんだから…。

 ん?そうか…アンジェラは100年以上リリィを想い、ずっと…と思うとものすごく恥ずかしくなった。

 最近はアンジェラは僕にとってもお父さん的な役割だ。

 家族の中で現在の僕の立ち位置は、長男で年の離れた妹と弟がいるという感じだ。

 下ネタオンリーに傾き始めたので、話を中断して皆を連れて聖ミケーレ城へと転移した。


 聖ミケーレ城では、先に到着した日本のおじいさま、おばあさま、父様、留美、そして徠紗が食事中だった。

 日本では昼食の時間帯だが、聖ミケーレ城があるドイツではちょうど朝食の時間帯だ。

 アンジェラが事前に手配した朝食と軽食の用意がなされた食堂でマルクス達も朝食をとることにした。

 ここで働いている人たちは基本的にアントニオさんが雇っている人たちが派遣されている。その中にいつものお手伝いさんもいた。

「あ、アニー。今日はこっちなの?」

 僕が話しかけるとニコニコしながら彼女も答えた。

「そうなんですよ、ライル様。半分仕事で、半分社員旅行みたいなもんですよ。」

「え?そうなの?」

 どうやらアントニオさんの提案で、この城の設備を時間帯によって従業員にも開放し、社員旅行も兼ねてリフレッシュしてもらおうという事らしい。

 本来休みのない従者たちにとってはラッキーな年末旅行という事であろう。

 聖ミケーレ城は聖マリアンジェラ城に比べ、敷地が広く、建物も倍以上の大きさだ。

 そして、地下には娯楽施設が完備されている。

 映画館、フィットネス、温水プールにスパとマッサージ…バーラウンジなど。

 基本的に高級ホテルに用意されているような設備は全てあるのだ。

 しかも、客室も異常に多く、従者たちもかなりいい部屋に滞在することが可能だ。

 今回は同居家族の参加も許可されており、僕達とは直接顔を合わせないが、結構な人数が来ているらしい。

「アンジェラ様の計らいで、私たちも楽しませてもらっています。」

「楽しんでもらえればいいけど、何か問題が起きたらすぐに言ってよ。」

「ありがとうございます。ライル様。」

 アンジェラの元で働く人たちはアンジェラの事が本当に大好きなようだ。

 その時後ろから声をかけられた。

「ライル様。」

「ん?」

 振り返ると、そこには『かえでさん』がいた。朝霧邸のお手伝いさんだ。

「あれ?かえでさんも?」

「そうなんです。先ほど、急ではありましたけど、リリィ様とアンジェラ様からお誘いいただきまして…。」

 嬉しそうに笑うかえでさんに、僕も笑みで返し『ゆっくり楽しんで』と声をかけた。

 後から聞いた話だが、ドイツ組の商家に努める従業員や、ユートレアの警備と清掃を行っている従者も来ていたようで、従業員同士でも盛り上がっていたらしい。

 かえでさんは日本語しか話せないけれど、大丈夫だったのかな?と思っていたが、ハンディ翻訳機が配布され、それを使って意思疎通もでき、逆に盛り上がったそうだ。


 城内を見て歩いただけで1時間以上かかってしまった。とにかく広い。

 地下のスパの隣には卓球台や打ちっぱなしゴルフのヴァーチャルゲームみたいなものまであって、みんな好きに遊べるようになっている。

 本当にアンジェラが言ってた通り、年末の親族温泉旅行みたいなもんだ。

 僕がアズラィールと左徠を連れて聖ミケーレ城へ戻ると、ちょうどアンジェラ達も到着したところだった。

「あ、ライル~。」

 そう言ってマリアンジェラが走ってきて僕に飛びつく。『ズッシリ』と重いタックルにパワーを感じつつ受け止めた。多分、彼女が重いのには僕達がまだ知らない理由わけがあるはずだ。

 ミケーレは大きなバッグに色々と持参したものがあるようだ。

「パパ、僕達のお部屋はどこ?」

「私たちは三階の一番奥の部屋だ。ライルはその右隣でその隣が父上と左徠の部屋だ。」

 ミケーレの質問に答えると、従者を呼び止めアズラィールと左徠の荷物を部屋に運ぶように申し付けた。

「さすが、我が息子…。貫禄がハンパないね。」

「ほんと、父親が酔っぱらって面白いことになりそうだったとは…」

 僕がそう言うとアズラィールは慌ててアンジェラの腕を引っ張り、『一緒に行こ』と言って、従者の後について部屋へと移動して行った。


 僕も少し遅れて部屋に行った。僕は一人部屋らしい。

 さすが城ってだけあって、全ての造りが豪華だ。

 大きなベッドが中央に置かれ、立派な天蓋がついている。

 さすがに前室とかはなかったが、室内に浴室とトイレもあり、全ての調度品も高そうだ。

 しかし、ほぼ使う事のない城を500年も維持するのは大変だっただろう…。僕の荷物を従者から受け取り、僕はまた日本に戻った。

 徠神の店に着いた僕は、店内のバックヤードから繋がる住居スペースへと移動した。バルコニーに荷物を持って集まった徠神、徠央、徠輝がいた。

「もうお店は大丈夫なの?」

「お、ライル。すまんな迎えに来てもらって。今日は朝から店の大掃除だけだったんだ。あとは1月3日まで店は休みなんだ。」

「そうか…だったら二泊じゃなくてもっと城でゆっくりしたらいいのに…。

 さっきちょっと見て来たけど、まるで洋風温泉旅館だったよ。」

「なんだそりゃ?」

「スパにマッサージに、卓球台に、映画館とかヴァーチャルゴルフ…。」

「誰が設計したんだっけか?」

「構造はアンジェラが依頼して設計図を送ってたけど…中身は後から追加したんだと思うよ。アンジェラにしては…ちょっと和風に傾向してる気がするけど。」

「楽しみだな、洋風温泉旅館…。」

 この三人は日本生まれの日本育ちである。温泉という言葉に反応している。

 戸締りを確認した後、僕は三人を連れて僕の泊る部屋に転移した。


「あ、ちょっと待って、ここ僕の部屋なんだけど、徠神たちの部屋どこか聞いてくるね。」

 僕はそう言ってアンジェラの部屋へ行き、ドアをノックした。

 ドアが開き、アンジェラが出てきた。

「どうした?」

「あ…徠神達を連れて来た。どの部屋使えばいいのか聞いてなかったからさ。」

「父上の部屋の向かい側の部屋を用意してある。」

「オッケー。ありがと。」

「あ、ライル。ちょっと待て。」

「ん?」

「お前、ちゃんと食事は摂っているか?」

「あ…どうだったかな…。」

「マリーと一緒に今すぐ食堂へ行け。なんだかお前の色が薄く見えるぞ。」

「え?色?」

 僕は徠神たちを部屋に案内すると、アンジェラ達の部屋に戻りマリアンジェラを連れて食堂へ行った。僕達の姿を見て、徠神達も一緒に食堂へ下りた。


 朝食と昼食が入り混ざったような色々な食べ物がバイキング形式で取り放題。

 そう、マリアンジェラが好きなやつだ。

「先に食べちゃっていい?」

「もちろん。」

 マリアンジェラの豪快な爆食いを観察しつつ、徠神たちと雑談をする。

「ライル、さっきちょっと聞こえたけど、食欲ないのか?」

「え?あ、あぁ…味がしなくなっちゃったんだ。それでなかなか食が進まなくて。」

「それは辛いな…。病気か何かなのか?」

「あ、いや。そんなんじゃないよ。ほら、リリィと分離したのは知ってるだろ?」

「あぁ、あの石になった後に石が割れて生まれ変わったってやつか?」

「まぁ、そんな感じかな…。」

「その後遺症なのか?」

「うーん、ちょっと違ってて、僕はもう体を持っていないんだよ。」

「何言ってるんだ、ここにこうして触れるじゃないか…。」

 徠神が僕の頭をぐりぐり撫でた。

「まぁ、ちょっと説明が難しいんだけど。これは今エネルギーを集めた物を僕の体として物質化しているものなんだ。」

「ん…よくわからんな。」

「わかんなくていいよ。」

 僕は味がしない食事を、ちょっとずつ口に運び、あまり周りから注目されないように努めるようにするしかなかった。

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