485. 記憶の色
すっかり年末旅行の方向に話がそれてしまい、マリアンジェラに徠夢と留美の洗脳の話を聞きそびれてしまった。
僕は子供部屋でミケーレと一緒にアズラィールからもらったクリスマスプレゼントのTVゲームをやっているマリアンジェラの所へ行き、質問することにした。
「マリー、今ちょっといいかな?」
「にゅ?ライルもやる?」
「いや、やらない。」
「どして?」
「聞きたいことがあって来たから、ゲームしたいわけじゃない。」
「…。わかった。ミケーレ、ちょっとストップ。」
ミケーレがポーズボタンを押して、ゲームを中断する。僕はマリアンジェラに父様と留美から洗脳を解いて欲しいと言ってきたと伝えた上で、どんな洗脳がなされたのかを聞いた。マリアンジェラは、少し俯いて考えた後、口を開いた。
「あのね…。マリーもねよくわかんないのよ。
でも、言えるのはね…、まず記憶を一部消されてるというか…思い出せないようにしてるみたいな…。」
「そんなことわかるのか?」
「多分、ライルもできると思うけど…。頭の中透明にして見てみようとしたら、少し色がついてるんだよね。その中で、オレンジのが幸せな記憶、青いのが安らぎの記憶とか言う感じで色が違ってるのよね。でね、黒いのが、誰かに意図的に消された記憶。」
「意図的に消された…。」
「そう。私とかライルが使える赤い目で何かを思い出せないようにするときにも同じことが起きると思っていいよ。その黒いのがね、二人にいくつかあって…中を覗き見したのよ。」
「そこ、見られるのか?」
「うん。ライルだって記憶の譲渡や、読み取りができるでしょ?あれと一緒だよ。」
なるほど…、脳の中の記憶の部位の色で判別しているのか…。
僕は触った人の直近の経験を記憶としてコピーすることはあるが、あくまでも表面に出てきている記憶、本人に印象に残っている事がわかると言う感じだ。
確かに、記憶をもっと取り出したいときには深堀りすることもあるが…、色では判断していなかった。
「じゃあ、マリーは父様達の黒い記憶を見たってこと?」
「そう。記憶はそこにそのままあるのよ。見ることは可能なの。でも本人は見ることが出来ない。だから黒を例えば、黄色に変えるとか言う感じかな。」
「黄色ってなに?」
「黄色はね、普段忘れ去ってる記憶が多いかな…。とりあえず黄色よ。何でも黄色だったら入れておけるのよ。」
「マリー、本当に君はすごいな…。」
マリアンジェラが恥ずかしそうに笑った。
「あ、でも気をつけてね…。本人が思い出したくないことも黒くなってる場合があるのよ。だから先に必ず、自分で見てから色を変えること。」
「わかった。確認次第では色を変えないってことだね。」
「そう、そうなの。」
「それで、父様と留美さんの洗脳はどうする?」
「ミケーレのお城におじいちゃん達も来るなら、そこでやった方がいいかもね。」
僕はそれを了承し、父様にメッセージを入れた。
『もし、聖ミケーレ城にくるなら、そこで洗脳を解くとマリーが言っているよ。』
すぐに返信が来た。
『わかった、こちらからは父さん夫婦、私と留美と徠紗、そしてアズラィールは参加だ。よろしく頼む。』
僕もすぐに返事をした。
『迎えに来て欲しい時間帯を言ってくれたら僕が行くよ。』
僕は父様と迎えに行く時間を約束して、マリアンジェラに礼を言ってその場を離れた。
脳の中の記憶域の色か…今までは外傷を治すことに必死で、色までは気が付かなかった。確かに思い出したくない本人が封印している記憶だってあるだろうからな…。
中を見てから解放するって言うのは当然だと思った。
わかってはいたが、マリアンジェラはやはり僕にない能力をまだ持ち合わせていそうだ。




