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479. 囮大作戦(4)

 翌朝、12月27日、月曜日。

 徠紗の6カ月検診に同行するため、少し朝早く起きて準備した。

 イタリアの時間で朝7時には行かなければいけないからだ。

 5時には起き、シャワーを浴び、一度ユートレア城の謁見の間に置かれたままになっているグランドピアノを30分間くらい弾いた。エネルギーを補充するためだ。

 最近自分以外の姿に変化へんげすることが多いが、これが結構エネルギーを使うのだ。

 誰もいない、シーンと静まり返った城の中で、ピアノの音が響きわたる。

 さすがに早朝から家でピアノを弾くのは家族に迷惑かな…と思っての行動だが、ここに置かれているピアノはリリアナが500年前のユートレアで演奏を披露するために購入し、披露が終わった時点でここに引き上げた物だ。

 ユートレアの城は、朝と夕方に従者が来て、城内の清掃と点検を行っている。そのほかに庭師なども雇っていて、庭園はさほど広くはないが、いつも手入れが行き届いている。


 朝6時にはまだ誰も来ていない。なんだか石の壁に音が響いて心地よい。

 誰もいない世界の中でピアノを弾いているみたいだ。

 たっぷりとエネルギーを補充した所で、僕は一度庭園に出て一人で大きく息を吸った。

 冬のドイツは空気が冷たい。花も、草も枯れてしまい、常緑の低木がいくつか緑の葉を保っている程度だ。

 今年はあまりここに来なかったな…。空を見上げると、雪がチラついてきた。

 そういえば、しばらく封印の間に行っていない。

 僕は久しぶりに封印の間を訪れた。そこには、いつも変わらずこの世界を作った大天使アズラィールとルシフェルの石像が玉座に座っている。

 僕が世界を変えてしまう前はルシフェルしかいなかったけれど、今は二人揃ってこの世界を見守っている様だ。

 そう…以前はルシフェルに触ると涙の石が目から零れ落ち、それが色々な災いやきっかけとなった。でも、もう涙の石は出ない。もしかしたら、この二人の悲しみは取り除かれ、そして、僕も今、悲しみの中には無いからだろうか…。

 僕はアズラィールの頬に両手を置いた。

 いつもなら目を開けて何か言ってくれるのに、今日は目を開けなかった。

 だが、大天使アズラィール体全体から、黄金の光の粒子があふれ出て、僕の中に吸収された。僕は言いようもない幸せな気持ちになった。

 まるで、『いつもあなたを見ているわ』『愛しているわ』と言われている様だ。

 僕はルシフェルの石像にも同じように触れた。

 冷たい石像に触れているのに、手のひらがあたたかく感じた後に、今度は青い光の粒子があふれ出て、僕に吸収された。

『息子よ、お前は私たちの希望だ』『愛しているよ』と言われていると感じた。

 僕は何だか少しこそばゆいような幸せな気持ちで封印の間を後にした。


 あまりゆっくりも出来ないのだと思い出し、自室に戻るとマリアンジェラがベッドの上で目をこすっていた。起きたばかりのようだ。

「マリー、目覚めたかい?」

「あ、うん。もう少しで行く時間?」

「そうだよ。歯を磨いて、顔を洗って、少し何か食べないと…。」

「はーい」

 素直に起きて寝ぼけながらも準備をするマリアンジェラを少し補助して、僕は自分の変化へんげと着替えをした。

 枕元にマリアンジェラが用意した赤ちゃん用の着替えがあったので、それを着る。

 薄いカーキ色の上下が繋がったジャンプスーツの様なデザインだ。もしかしたら、夏休みのお出かけの時に子供達が来ていた『探検隊』風のお揃いの服の赤ちゃんバージョンかもしれない。

 赤いバンダナも添えられていたが、赤ちゃんの手ではうまく結べない。

 そこへマリアンジェラが戻ってきた。いつの間にかワンピースの上に厚手のジャケットを羽織っている。そして目の前で15歳の大きさに変わった。

「相変わらずすごいな…洋服を着たまま服まで大きさを変えられるって、僕は出来ないんだよね。」

「そう?着ているものもキラキラに変えられるから、自分の一部、自分の一部って思えば多分大丈夫。」

「今度試してみるよ。」

 マリアンジェラは大きく頷いた。

「あ、そだ。パパがサンドウィッチ作ってくれた。」

「そうか、よかったな。」

「うん。」

 マリアンジェラが僕の首に少しだけ外に見えるようにバンダナを巻いてくれた。

 そうこうしているうちに出発の時間だ。

 大きくなったマリアンジェラは僕の体をヒョイと持ち上げ、ひざ掛け程度の大きさのブランケットで僕を包んだ。

「お外寒いからね。」

 そしてマリアンジェラは僕を抱っこしたまま朝霧邸へと向かったのだ。


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