478. 囮大作戦(3)
元の姿に戻った僕は部屋着に着替え、封筒に入れたCDを倉庫の中のあの別の世界への入り口である絵画に載せた。
スッと封筒が消えて無くなる。
他に忘れていることは無かっただろうか?あ、そうだ。向こうの世界の石田刑事に一つ僕にできる事なら協力するという約束をしたんだった。
どこかに依頼が書かれた紙でも落ちていては困ると思い、絵画の周りを少し見回ってみた。特に目立っていつもと違うようなものはない様だ。
昨日の今日ではそうそう依頼はしてこないか…。頼むにしても、飛び切り難しいやつを用意して来たりするのかもしれないな。
結構目がマジだったもんな。そんなことを考えながら僕は倉庫を後にした。
今後はなるべく定期的に倉庫の中をチェックしよう。
できればアメリカの寮につけているような、動体感知のセンサー付きカメラとかがあると便利だな。
いつの間にか夕食の時間だ。廊下に出るとほんの少しだが、夕食の料理の匂いが漂ってきた。今日は早めに寝て明日の囮大作戦に備えたいところである。
ダイニングに行くと、もう皆テーブルに着いてアンジェラがお皿に取り分けてくれるのを待っている状態だった。
なんだか、ヒナに餌を与える親鳥みたいだ。しかもいい大人も三人も含まれている。
僕は、少しでも手伝おうと、メインディッシュ以外のサラダやスープ用の容器を出し、テーブルの上に置いた。
リリアナはテーブルによじ登ろうとするジュリアンを押さえている。アンドレはライアンにエプロンを着けている。
ミケーレはフォークとナイフとスプーンが入ったカゴを運び、皆に渡している。
「ミケーレ、お手伝い偉いな。」
僕がそう言うと、ミケーレが嬉しそうに顔をほころばせる。
マリアンジェラは戦闘態勢に入る直前で、フォークとナイフを手に持って皿を睨みつけている。何と戦うつもりだろう。
あ…横にもう一人戦闘態勢に入っているリリィがいた。
本当に赤ちゃん返りしているのだろうか?最近のリリィの行動がひどく幼稚で、困った感じに見えるのは僕だけなのか?
アンジェラは異常に過保護になって世話をやいているし…。
今日のメインはバジルとリコッタチーズのフィリングが入ったラビオリとサルシッチャというイタリア風の腸詰だ。
「うぉーっ、パパ、しゅっごい。長いねソーセージ。」
「いいだろ?グルグルになってて、いい色に焼けてるぞ。サルシッチャっていうんだ。」
「全部食べたい。」
「二本あるから、好きなだけ食べなさい。でも、最初は皆に取り分けて食べるぞ。」
「はーい。」
茹で上がったラビオリに粉チーズとオリーブオイルをかけて皆の前に次々と置かれた。
我慢できないジュリアーノはもう手を突っ込んでいるがぬるぬるしていて掴めていないらしく。うーうーと唸っている。
続いてサルシッチャを切り分け、イワシのカルパッチョサラダも取り分けられた。
「いただきまーっす。」
マリアンジェラの元気いっぱいの声で始まった食事は、にぎやかだった。
手づかみをあきらめたジュリアーノは大人しくフォークでラビオリを食べ始め。
割と小さめのラビオリはあっという間に子供たちのお腹に収まった。
「これ、お手伝いさんの手作りなの?」
リリィがアンジェラに聞いている。
「そうだ。あの大柄の方のお手伝いさんの実家がレストランをやっていて、そこで作られているのと同じレシピなんだそうだ。」
「これさ、徠神のお店でも出したらいいんじゃない?」
リリアナが急にそんなことを言いだした。
「茹でていないのがまだあるから、明日持って行ってあげたらどうだ?」
頷いたリリアナの満面の笑みったら…実のところ、リリアナは徠神の店にかなり行きつけている常連だ。絶対週に2,3回は行っていると思う。
30分ほど経った頃、マリアンジェラが僕の手を引っ張ってダイニングの外に出た。
「ライル、ごめんね。自分の食べるのに夢中になってた。くっつこ。」
僕はマリアンジェラのおかげで食事を摂ることができた。
今日のイタリアンも最高に美味しかった。
食事の後は、皆自分の部屋に戻り。それぞれの好きなことをして過ごした。
翌日の作戦をアンジェラが事前に父様にメッセージでおくっていたようだ。
さて、どんな結末になるだろう…。




