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477. 囮大作戦(2)

 一夜明け12月26日、日曜日。

 翌日の囮大作戦に向け、準備をすることになった。

 何を準備するのかと言うと…僕、ライルの変化へんげの練習と着るものの調達だ。


 マリアンジェラは僕を引っ張って、朝食後にリリアナを訪ね、ジュリアーノとライアンがもう着られなくなった赤ちゃんの服を物色中である。

「ねぇ、リリアナ…これどれでも持って行っていいの?」

「うん、いいわよ。リリィのところで生まれたら使うって言ってたけど、それまで好きに使っていいって。」

「徠紗と同じくらいのサイズってどれかな?」

「あ…おじいちゃんとこのちびっ子は…これくらいかな?」

「サイズ書いてある?」

「あった。6Mから9Mって書いてある。」

「それでいいんじゃない?生後半年から9か月って意味でしょ。うちの王子たちはもう一歳児の服でもパツパツだけど。ところで、この服、徠紗に着せるの?」

「あ、ちがうちがう。これねぇライルに着せるの。」

 僕が困った顔をしていると、リリアナが興味を持ったようで、聞いてきた。

「ライル、ねぇ。」

「何?」

「会ったこともない人にでも化けられるの?」

「ちょっと、その悪意のある言い方やめてよ。基本的に会ったことないと似せられないかな…。触ればより似せられると思うけど。」

「ねぇねぇ、じゃあ…小さいライルにはどうやってなるの?」

「…。あ…そうか、3歳の僕しか直接会ったことないな。」

「にゅ?本物にってこと?」

「そういうことだね。」

「じゃ、ちょっと行ってこようよ。」

「え?今?」

「そう、今…。」


 マリアンジェラはバババッと服を選ぶと、それを自分の部屋に運び、リュックに詰めて背負った。

 そしてアトリエに行き、僕の手を引いて、まずは今から15年と二カ月前に転移した。

 リリアナからうちの子達は生後3か月で6カ月くらいの大きさだったと聞いたからである。

「あっ…。」

 そこには、床に倒れて気を失っているアンジェラがいた。

「パパ…。どうして?」

 僕が慌ててアンジェラを抱きかかえると…うううっ、ものすごい酒臭い。

 ただの酔っ払いなら寝かせて置けばいいかと思ったが、どうも具合が悪そうだ。

 能力を使い体の中を見てみたが、特に病気などは見つからなかった。

 仕方がないので、アンジェラの電話からアントニオさんに電話をかけ、そして『具合が悪いから病院に連れて行ってくれ』と言った。

 物陰に隠れてアンジェラがアントニオさんに連れて行かれるのを見守り、その後で朝霧邸に転移した。

 三階は物置になっていた。見られないようにコソコソと二階に下りた。

 僕が以前使っていた部屋のドアを開け、二人で侵入した。

「ひゃぁ~」

 変な声を出したのはマリアンジェラだ。

 そこにはベビーベッドの柵を捕まって立ち上がっている赤ちゃんの僕がいた。

「あう?」

「にょほほ~。かわいすぎる…。死ぬ~。」

 マリアンジェラは完全に自分の世界に入っている。

「あ、ダメだよ。マリー触ったら…。」

 マリアンジェラは、僕の制止を聞かず、赤ちゃんに触った。

 ブワッと爆発の様な白い光が触った手からあふれ出た。

「キャッ」

 マリアンジェラが驚いて思わず手を引っ込めた。赤ちゃんは何事もなかったように柵を掴んでこちらを見ている。

「ライル、今の何だろ?」

「普通に考えたら能力のコピーだろうね。」

「え?大丈夫かな?」

「さぁ、どうかな…。でもマリーが持っていて僕が持っていなかったのは『浄化』の能力くらいだろ?」

「うん、そうかな…。」

「『浄化』の能力が増えただけなら、そんなに心配しなくていいんじゃないか?」

「でも、ライルが触ると、今のライルと同じ能力になっちゃったら大変じゃない?」

「触んなくても多分『変化』は大丈夫だよ。自分自身なんだし。さぁ、泣いちゃったりする前に帰ろう。」

「お願い、一回だけ抱っこしたい。」

 マリアンジェラはリュックを僕に渡し、15歳の大きさになると、赤ちゃんを抱き上げた。マリアンジェラは赤ちゃんの顔をすごい近くで見て呟いた。

「お目目が、素敵ね。」

 その時、赤ちゃんライルが急にマリアンジェラの方へ近づき、『チュ』とキスをした。

「あぁ~ん、うっそぉ。ほっぺじゃなくて、お口に…。」

「マリー、はい終了。僕のファーストキスを奪わないで…。」

「チッ」

 マリアンジェラは渋々赤ちゃんをベビーベッドに戻し、元の子供のサイズに戻った。僕はマリアンジェラを連れ、元の時間の自宅に戻ってきた。


「マリー、どうしてさっき一度、昔のこの家のアトリエに行ったんだい?」

「え?そう言えば…場所と時間をいっぺんに移動する方法を知らないのよ。」

「えぇ~…。ビックリ。」

 その後、やり方を教えてマリアンジェラもできるようになったのだが…後からアントニオさんに聞いたら、アンジェラは当時の芸能事務所社長に無理やり接待をさせられ、強い酒をがばがば飲まされて急性アルコール中毒になってたらしい。

『浄化』すれば、治せたかも…。いずれにせよ、偶然あの場に行ったことで命を救ったことには変わりない。


 家に戻って来てから、待っていたのはマリアンジェラ先生のダメだし連続の変身練習の時間だった。

「いきなりで出来ないと困ると思うの。だから練習しよ。」

 そう言われ、素直に聞いたのが仇となった。僕の部屋で、二人で練習が始まった。

 さっき見た赤ちゃんになろうとするのだが、マリアンジェラが毎回ダメだしをする。

「はい、ダメ~。そんなに目細くなかった。」

「はい、ちがーう。そんなに首太くなかった。」

「うっそ、腹筋割ってんじゃないわよ。」

「ちょっと、どこ見てきたのよ。赤ちゃんがそんなに足長いわけないじゃない。」

 パンツ一枚で小さくなったり戻ったり何気に疲れる。

 ようやくマリアンジェラの希望通りの赤ちゃんになるのに15回以上試行錯誤を繰り返した。やっとパンイチから脱出。赤ちゃん姿でマリアンジェラに服を着せてもらい、ちょっと恥ずかしさも感じつつ。鏡で自分の赤ちゃん姿を確認した。

「確かに…かなりいい感じにしあがっているね。」

 赤ちゃんの姿で普通にしゃべるのにはかなりの違和感がある。気をつけよう。

「でしょ、でしょ。赤ちゃんのコンテストがあったら間違いなく一位だと思う。」

 ドヤ顔で言われ、僕は複雑な気分だった。

 マリアンジェラが気に入った服を着せられ、完成した赤ちゃんライルを、マリアンジェラは、自分は大きくなってひょいっと抱っこした。

「ん~、かわいい。」

 マリアンジェラは本気である。目が笑っていない。イヤな予感がする…。

 僕を抱っこしたままちょっとズルい顔で笑うと、いきなり転移した。


 そこは、ダイニングのソファの前だった。

 ダイニングのソファに座って、タブレットで動画を見ながら、クッキーをバリバリ食べている真っ最中のリリィがいた。『うわ…また食べてる。』

「あ、マリー。どこ行ってたの?おいひいよ、これ…って、そ、その赤ちゃんどうしたの?」

「かわいいでしょ。ふふ、マリーの赤ちゃん。」

「ちょ、ちょ、ちょっと、抱っこしたい。やだぁ、かわいい~。どっから拉致してきたのよ…。」

「うふ。ないしょ。拉致じゃないし。」

「ちょっとだけ、抱っこさせて…。」

 結局、二人で僕を取りあう始末だ。そこへアンジェラがやってきた。

「何を騒いでいるんだ…。マリー、なぜでかくなっている。ん?」

 マリアンジェラが抱っこしている僕にアンジェラが気が付き、バッと僕を奪い取った。

「どこから拉致してきた?」

「ひどい、パパ…。これ、ライルだよ。」

 アンジェラがぎょっとした顔で僕を見つめる。

「ライルは小さい時、こんなに愛らしかったんだな…。」

 そう言いつつ、何をしているのか聞かれた。

「明日、朝霧で病院に行くから囮になるって言う話だったろ?」

 僕がアンジェラに抱っこされながら普通に言うとアンジェラが驚いて僕を落っことしそうになった。

「落とすなよ。」

「悪い、こんなに小さくてかわいいのに、言葉が話せると怖いな。」

「かもな。」

 アンジェラに抱っこされてる僕をリリィが近づいてきてまじまじと見る。

「本当にかわいい。どうしてこんなにかわいいのに父様は見向きもしなかったんだろう?」

「…。子供を作るには早かったんじゃないか?」

 アンジェラは僕を見つめながらそう言った。

「そろそろ下ろしてくれない。この姿だと皆にいじられて大変な事になりそうな気がする。」

 そう言った矢先、リリアナとアンドレが双子を連れて来た。


「ちょっ、誰これ?抱っこさせて。」

 リリアナがリリィと全く同じ反応をして僕をアンジェラからもぎ取る。

「やだぁ~、超かわいい。」

 そう言いながら頬ずりしてぎゅっと抱きしめられた。リリアナの無駄に育ったおっぱいが押し付けられて苦しい。

「うっ、死ぬ…。」

 思わず声が漏れ、リリアナがこっちを見て一言…。

「ライルなの?」

「そうだよ、練習中だったのさ。」

「いや、マジでかわいいわ。もう一人や二人欲しくなっちゃうわね。」

 その視線の先にはアンドレが、ロックオン。赤い顔して、頷いている。

 おいおい、子作り宣言かよ~。現在ジュリアーノにてこずっていることなど忘れた感じだ。双子まで僕に興味を持ったようで、触りたがった。

「赤ちゃん、痛くしないようにね。」

 リリアナが言うと、しゃがんだリリアナに抱かれた僕をじーっと見つめてライアンが言った。

「ライアンもおにいちゃまになった?」

「え?あ…残念、これはね、本当は赤ちゃんじゃなくてライルお兄ちゃんだから、ライアンはまだお兄ちゃんじゃないね。」

 リリィがそう言うと、ライアンとジュリアーノが二人で同じ方向に首を傾げてきょとんとしている。

 僕は間が持たず、思わず自室に転移してベビー服を脱いで元の姿に戻った。

 ちやほやされるのも疲れる。

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