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476. 囮大作戦(1)

「うわぁっ」

 思わずバランスを崩して転びそうになった。

 僕は自分の世界に戻ってきた。最初に目に飛び込んできたのは、倉庫のあの別の世界に繋がる絵画から5mほど離れた場所で、小さい子供用のプラスチックの机とイスに座って仲良くお絵描き中のマリアンジェラとミケーレだ。

「あ、帰ってきた!」

「ライル!」

 二人が僕に飛びついてぎゅっと抱きつく。

「ただいま…。こんなところで何やってたんだ?」

「ライルのことお迎えに行きたいって言ったら、パパにダメって言われたの。」

「そう、それでね。ここまでだったら入ってもいいって言うから、ここで待ってたんだ。」

「ごめん、じゃあ、ずいぶん待たせちゃったね。」

「しょんなことないよ。お昼ご飯食べて、パパに触った時にはじめてわかったから、3時間くらいだもんね。」

「うん、そうだね。ライルがどこに行ったか聞いても教えてくれなかったもん。」

「あっちの世界で徠紗が誘拐されちゃってたんだよ。」

「パパに聞いた。こわいね。」

「あぁ、でも無事に帰ってきた。」

「よかったね。」

「さぁ、二人とも。倉庫から出るよ。」

 そう言って、僕は子供用の机を持ち上げた。二人は自分の座っていた椅子を持ち上げて移動した。


 子供部屋に運び、片付けていると、マリアンジェラが抱きついてきた。

「抱っこ」

「え?赤ちゃんみたいだな、マリー。」

「むぅ。赤ちゃんじゃないもん。」

「マリー、ヤキモチ妬いてるのか?僕は徠紗を抱っこなんかしていないぞ。」

「ほんと?」

 本気でヤキモチ妬いていたらしい。口が尖がっている。ははは…。

「あ、そうだ。あっちの世界の瑠璃リリィに僕のCDを送らなきゃ。約束したんだ。」

「ふぅん。」

 僕はマリアンジェラを抱き上げて、頬をくっつけた。

 頬をちょっと赤らめたマリアンジェラだったが、『ぶっ』と吹き出し『がははは』と豪快に笑い始めた。

「どうしたのマリー。」

「ちょ、ちょっと、ライルわざと記憶を見せたでしょ…。ぶっ。」

「わかった?」

「うん、うん。わかった。JC瑠璃リリィって、ジャージはいてるの?」

「そうなんだよ。すごいだろ?」

「うん、うん。それに…ブラザー…、緑色のとっくりセーター着てたね。」

「マリー、トックリ…ってそんな言葉誰に教わったんだい?」

「え?未徠おじいちゃんが言ってたよ。とっくりセーターは首がチクチクするって。」

「ぶっ。」

 思い切り二人で大爆笑だ。

「なんだかあっちの世界の人達ってこっちと性格が違うね。」

「そうなんだよ。面白いだろ。あ、アンジェラに報告しなきゃ。」


 僕はマリアンジェラを抱きかかえたままアンジェラの書斎を覗いた。

 アンジェラはまた誰かと電話をしていた。アンジェラが僕に気が付いて手招きをする。

 書斎に入りマリアンジェラを膝に乗せ椅子に腰かけた。アンジェラは会話中だった電話をスピーカーに切り替えた。

 電話の相手は父様だった。

「徠夢、ライルが今戻ってきた。一緒に話した方が良さそうだ。」

「そうか。無事でよかった。心配していたんだ。」

「ただいま帰りました。向こうの世界の徠紗は無事保護しました。」

 僕がそう言うとアンジェラが頷いて僕に質問した。

「拉致したやつらはどんなやつらかわかったか?」

「いや、まだそこまでは…僕はサポートに徹したから、犯人には触ってないし…。

 でも、監禁場所は変わる前の世界で僕が拉致されたのと同じ父様が研究に通ってた大学のキャンパスに隣接する大きな洋館だったよ。」

「あの宗教法人が持っている古い洋館だな…。」

「そう、でも実行犯は見たことがない連中だった。ところで、父様の方でなにかあったの?」

「ライル…聞いてくれ。昨日クリスマスパーティーで撮った写真を現像に出して取りに行ったら、盗まれたんだ。袋の中身が空っぽで…。」

「父様…そんなの現像してどうするのさ、ハズイ。」

「いや、それはその…飾ろうと思ってだな…。」

 アンジェラは見たことのないようないやらしいニタニタ顔で笑いを堪えている。

「それで、徠紗は大丈夫なの?」

「あぁ、そっちは大丈夫だ。実はな11月に赤ちゃんの検診はあったんだが、ちょうどリリアナが双子を連れて来てたから、予定を変更して違う日にすることにしたんだ。

 実はそれが明後日だというんで、出来ればライルに一緒に来て欲しいんだが。」

「そうか…もしかしたら同じことが起きるかもしれないからな。」

 アンジェラも同意した。アンジェラから僕がそっくりそのまま徠紗に変化して、検診に行くのはどうだと言う提案が出た。

「いわゆる囮だな。安全が確認出来たら本物が検診を受ければいい。それをどうやって入れ替えるかだな。」

「僕が赤ちゃんになるの?徠紗に?うーーーん。だったら、僕自身の小さかった時の姿になるから、二人同時に連れて行ってよ。」

 そこでマリアンジェラが僕の膝の上で手を挙げた。

「はい、はい、はーい」

「どうしたマリー。」

 アンジェラに聞かれ、マリアンジェラが上目遣いで言った。

「ねぇ、パパぁ…マリーも大きくなって一緒に行っていい?おばあちゃんとかを守るのマリーできるよ。」

 確かに人数が多いとカバーするのが大変ではある。

「そうだな…、今回はお願いするとしようか…。」

「うっほほほ。やったー。」

「マリー、遊びに行くんじゃないんだからな。」

 僕が言うとマリアンジェラは僕の手を掴んで言った。

「うん。わかってるよ。」

 検診の時間は日本時間の明後日、午後三時とのこと。僕とマリアンジェラはその日の朝七時にイタリアから日本の朝霧邸に行き準備をすることになった。


 僕はその後、もう一つの世界で起きたことを記憶のコピーでアンジェラに見せ報告したのだった。

 アンジェラはキャビネットの引き出しを開け、僕のCDを一枚とジャケット撮影の時に撮った写真を数枚取り出した。

「これも送ってやれ。」

 マリアンジェラが写真をむしり取って言った。

「これはダメ。マリーが預かっとく。」

 ヤキモチを妬いている様だ。口が尖がっている。わかりやすい。

 僕はCDを封筒に入れ、メモに『約束のCDだよ、瑠璃リリィに渡して』と書いて同封した。後で倉庫に持って行こう。


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