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468. ダメな父親されど父親

 僕、ライルは、日本の実家である朝霧邸で行われているクリスマスパーティーに参加中だった。僕の父親である徠夢が酔っぱらっているのか何なのかわからないが、ぼくの両頬に手を置いて、彼の方に向けた時、急に目の前が一度真っ白になり、そして真っ暗になった。頬を触っていた父様の手も、横の椅子に座って、僕の手を握っていたマリアンジェラの手もいつの間にかなくなっている。


 あれ?僕、夢でも見ていたのかな?

 いや…こっちが夢か?ん?なんだか、見たことのあるような風景だ。

 あ、航空機の座席だ。目の前のモニターに、かなり古い映画が映し出されている。

 しかも、チューチューワールドの会社が作っているアニメーションだ。

 物忘れの激しい小魚を探すって話だったか?


 ん?え?横の方を見ようと思ってもそちらに向くことが出来ない。

 まじか…。この状況からすると、誰かの血液か体液に触れて魂だけがその者に憑依している状態に違いない…。

 体のコントロールも抜け出すことも出来ない。もちろん、能力を使うことも出来ないのだ。

 子供っぽいアニメはつまんないし、なぜここに来たのかさえ解らない。

 この体は父様なのか…。

 おっ、映画を一時停止して席を立った。トイレに行くようだ。

 うー、マジか…。トイレに入りブツを出して、用を足した。思いっきり触った感覚が手に感じる…。動かせないのに感覚はあるとか、勘弁してほしい。うぇ~。

 最後に手を洗って鏡を見る。

 やはり父様らいむだ。角度を変えて自分の顔を見てウィンクとかしてる。

 こいつ、自分の事大好きなんだな。


 父様が席に戻った。隣の席の男が入れ替わりに席を立った。

『アサギリ、俺もちょっとトイレ行くわ。』

『おぅ。』

 席に座る前に横によける。男が通路に出てから席に座った。父様が機内モードになっているiphone7をポケットから出し、時刻を確認した10月15日(土)23:40。

 どうやら夜に飛ぶ便の様だ。隣の席の男が戻ってきた。また通路に一度出て、その男を奥へ通す。

『サンキュ。あ、そういやアサギリ。お前って子供いるんだろ?ハワイなんかに旅行に行ってて大丈夫なのか?』

『ま、大丈夫だろ。あいつの世話はお手伝いさんがいつもやってるし。あいつ、泣いてるのとか見たことないし。オヤジには何も言ってねぇし、お手伝いさんには沖縄に行くって言ってきたんだ。』

『え?嘘までついて旅行かよ。しかも、泣かないって、それヤバくね?』

『ぎゃあぎゃあ泣くよりいいだろ。』

『ひでぇ父親だな。』

『別に欲しくて産ませたわけじゃねぇし。』

『それ聞いたら、子供グレるんじゃね?』

『ははは…。』


 最低な父親だ。沖縄に行っていたと聞いていたが、海外だったから電話が繋がらなかったんだな…。

 こいつは、親族で一番のクズだ。

 なんだ…わざわざこんな会話を見せるために僕を父様の中に憑依させたのか?

 機内販売がやってきた時に、父様は航空機の形のキーホルダーを買った。

 それを前の座席についているポケットに半分挟んだ。

 つまらん、無駄な時間だ。そう思った時、予期しないことが起こった。

『プーン』とアナウンスの告知音がなり、『この航空機はこれから先、十分程度、気流の悪い場所を通ります。シートベルトをお締めになり、座席から立たないようお願いいたします。』とアナウンスがかかった。


 その後、少し『ガガガ』『ゴゴゴ』と空気の抵抗を感じるような飛行をしていたが、それは突然起こった。航空機がエアーポケットにでも入ったのだろうか、まるでエレベーターが落下するかのように体が、下に引っ張られる。

 航空機の中ではあちこちで悲鳴が上がり、上の棚の扉が開き、割と大きな荷物までもが落下している。

『うわぁ』

 父様も声をあげた。そして、前方からスーツケースが飛んできて、父様の頭に当たった。

 一瞬真っ暗になった。そう、父様が気絶したのだ。

 隣の父様の友人と思われる男が叫んでいる。

『アサギリ、おい、しっかりしろ。』

 僕に体のコントロールが渡った瞬間だった。頭からダラダラと血が流れる。

「くそ、痛いな。」

 僕はそう言いながら、少し俯き気味で、自分のコントロールがきくようになった手で陥没した頭蓋骨とめくれた皮膚を癒す。脳にも少し損傷がある。

「アサギリ…おい。大丈夫か?」

「あぁ、平気だよ。」

「本当か、すごい血が出てるぞ。」

 その時、航空機が二回目の落下を始めた。アラームが鳴り響き、酸素ボンベが落下する。そして、今度は飲み物などを運ぶワゴンが後方から勢いよく飛んできた。

『ぎゃー』と叫ぶ声があちこちで聞こえる。そして、そのワゴンは運悪く窓ガラスに当たり、ガラスにひびが入った。

『ガゴッ』たまたま人がいない場所だったが、窓ガラスのひびが空気の圧力でどんどん大きくなっている。

『助けてくれー』あちこちで声が聞こえる。割れた窓に航空機内の固定されていないものが吸い込まれていく。このままでは、航空機内の気圧のコントロールが奪われ、温度がマイナス何十度にも下がり、全滅するだろう。

 僕は、シートベルトを外し立ち上がった。

 隣の男が僕の方を見て慌てて腕を掴んだ。

「アサギリ、危ないだろ、何やってるんだ。」

 僕は、父様の体から出ることを試みた。僕の体を、エネルギーの集合体である体を呼び出すのだ。僕は自分の立っている場所から、父様の体が力なく足元に崩れるのを見た。僕は自分の体を呼び出せたのである。

 父様の横に座っている男は、目を見開いたまま言葉を失っている。

 僕は父様を元の座席に座らせ、シートベルトを締めると、食事の配膳をするためのスペースへと走った。

 そして金属製のお盆を5枚ほど重ね、割れた窓のところまで移動した。

 航空機がまた大きく揺れた。数個の荷物が割れた窓目がけて飛んでくる。その途中に小さい子供を抱いた母親がいた。

「あ、危ない!」

 僕はとっさに叫んだ。

「はっ。」

 飛んでくる荷物が空中に浮いたまま静止している。あぁ、ミケーレの能力だ。

 どれくらいの時間、持つかわからない。僕は急いで割れた窓の場所に行き、重ねたお盆を握って一枚の分厚い板にした。そして、割れた窓に押し当て、僕の手ごと機体に埋め込む。グググッと金属の端が完全に樹脂製の機体の内側にめり込み、窓が閉まった状態になった。

 そのまま休まずに、今度は空中に静止しているいくつかの荷物を床の上に置き、すでに怪我をしている乗客の傷を癒した。僕は最後に血だらけになった父様のセーターを脱がせ、代わりに自分が着ていた少し黒っぽい赤のパーカーを着せた。


 仕上げに航空機の外に出た僕は、機体に触れたまま数十キロ先の気流が落ち着いているところまで転移し、機体の傾きを修正した。

 まだ、時間は止まったままだ。

 父様の座席まで戻り、航空機の形のキーホルダーを手に取った。その時だ。

『ゴゴゴ』という音がいきなり聞こえ、時間が動き出した。

 父様はまだ気を失ったままだ。窓の方へ歩いて行ったはずの僕がいきなり横の席の脇に立っていて隣の席の男は震えている。

「おにいさん、この人、僕の父様とうさまに言っておいてくれる?僕は『あいつ』じゃなくて『ライル』っていう名前があるんだよ。」

 僕はわざと翼を出して彼に見えるようにした。そして、キラキラと共にその場から消えた。

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