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467. ライルが大変だというのに…

 マリアンジェラはライルの手を握ってライルの方を見上げていた。

 徠夢が絡んできているのが少し気になり、徠夢を止めるために近くにいたかったのだ。しかし、それは予期しない方向へと進んでしまった。

 徠夢がライルの両頬を両手で挟むように触れ、自分の方へ視線が来るようにライルの顔の向きを変えた。

 それは、そんなに力ずくでも、強引でもなかった。

 だが、一瞬徠夢の方を真正面に向いたライルの、その深い海よりも濃い青の双眸に変化が起きた。

 瞳孔が開き、瞬きが止まり、金髪の髪が一瞬でプラチナブロンドへと変化し、髪が急に腰の長さまで伸びた。

 皆を驚かせないようにしていた変化へんげが解け、上位覚醒後の本来の姿になったのである。

 そして、そのまま正面に回り込んだ徠夢の方へと力なく倒れ込んだ。

「ライル!」

 マリアンジェラは狂ったように叫び、床に力なく横たわるライルの体を揺すって声をかけている。少し離れたところにいた未徠が駆け寄り脈をとっている。

 未徠が妻の亜希子に往診セットを自室から取ってくるように言った。亜希子も大急ぎで取りに行き、すぐに未徠の診察が始まった。

 ライルの体は元々色白であったが、ますます色が薄くなっている。

 未徠が、声を震わせて言った。心臓が動いていない。

 マリアンジェラは徠夢と未徠をよけて、ライルの体に抱きついた。そして、そっとライルの胸に手を当てて小さく息を吐いた。

「魂が、ライルの核が無くなっちゃった。」


 リリアナがジュリアーノをアンドレに渡して、駆け寄りマリアンジェラの背中をさすりながら言った。

「マリー、おかしいよ。そんなはずない。だってリリィが言ってたもの。もう、体はリリィが使っているから、ライルには体が、生身の体がないんだって。だから、核が無くなっちゃったら、体の形を維持できないはずだよ。」

「じゃあ、どこに行っちゃったの?」

 グスンと鼻をすすりながら、マリアンジェラがライルの顔を触った。

 ライルの体が金色の光の粒子に包まれ、サラサラと砂のように崩れ落ちた。

「わあぁぁぁ…。やだっ。ライル…。うぇぇぇん。」

 泣きわめくマリアンジェラと、また何かしてしまったんだろうかと自分を責める徠夢が二人で床に座り込んでしまっている。

「おじいちゃん、ろうしてライルを触ったのよ~。いっつもライルばっかりひどい目に遭わせて、もぉ、どうしてくれんの?マリーのライルを返してよ~。」

 その時、ホールの端っこに金色のキラキラが集まり始めた。

 マリアンジェラはライルだと思い走って行ったのだが…、そこにはアンジェラとリリィが現れた。

「マリー、どうした?泣いてるのか?」

 アンジェラがマリアンジェラを抱き上げ聞くと、マリアンジェラが泣きながら説明するためにアンジェラとリリィに記憶を見せた。

「うそ。これって…。どっかで見たことある光景…。」

 リリィがポツリとそう言った。

「あ…、うーん、わかったかも…。」

 皆が注目すると、リリィが元気よく言った。

「あの、血とかよだれとかに触っちゃうと誰かのピンチの体に憑依しちゃって、助けられないと自分も死んじゃうかも…なやつ。」

「「「えぇーっ」」」

「徠夢、お前手の平に血とかついてたりしないだろうな。」

 アンジェラが魔王みたいな怖い顔で徠夢に聞いた。

「あっ、えっ、あっと…。」

 しどろもどろで答えになっていない。徠夢の横にいたマリアンジェラが、徠夢の両手の手のひらを確認する…。

「血が…出てる。」

「あ、これは、さっき紙で切ったんだ。」

「おじいちゃん、ライルを殺すつもり?」

 マリアンジェラが目を三角にしてぎゃあぎゃあと騒いでいる。

 でも、リリィは落ち着いたものだ。

「マリー、うるさいよ。少し静かにしてちょうだい。それに、大丈夫なんじゃないの?ライルは体を持っていないから基本的に死なないって言ってたし。

 それにさ、探しようにもどこに行っちゃったかわかんないもんね。」

「リリィ、マリーが悲しんでいるのに、その言い方はないだろう?」

「そぉ?私はライルならピンチも切り抜けられるって信じてるから…。」

 そう言って、大皿に盛られているフライドチキンの方に小走りで移動して行った。

 マリアンジェラはその後何も言わなかったが、ものすごく怒っていた。

 そしてアンジェラに近づいて、こっそり言った。

「パパ、ごめん。マリー、ライルを探しに行ってくる。」

「マリー、やめなさい。もし、マリーに何かあったら、一番悲しむのはライルなんだぞ。ここで、待った方がいい。部屋に行って待とうか?」

「お部屋に行く。」

 アンジェラはマリアンジェラを抱き上げて、3階のライルの部屋に行った。

 アンジェラがライルのベッドに腰かけ、マリアンジェラは抱っこされたままだ。

 涙と鼻水でぐちょぐちょの顔をアンジェラがポケットからハンカチを取り出して拭いてくれた。

「パパぁ…。」

「大丈夫だ。ライルはすごいんだぞ。過去を変えてしまう前、私の父上を助ける時にも、機転を利かせて血を触って転移したんだ。今みたいに色々な能力が使えない小学生の時にだ。」

「そうなの?」

「あぁ、他にも何度も助けられた。数えきれないくらいな。」

 アンジェラは机の棚にあるノートや古い教科書に紛れて少し硬い表紙の本があることに気づき、それを手に取った。

 マリアンジェラと一緒にそれをめくってみる。

 それは、スクラップブックだった。小学生の時に作ったものだろうか…。

 アンジェラの雑誌の記事、『世界的なアーティスト、お忍びで来日』『アンジェラ・アサギリ・ライエン熱愛発覚』『アンジェラ婚約を発表』『アンジェラが突然の結婚』、べたべたと切り抜かれた記事や大きなページの物まで貼られていた。

 そして、アンジェラがライル達を初めて招待したライブへの招待状が挟まっていた。アンジェラがメールで送った結婚式の写真も挟まっていた。

「パパって世界的なあーちすとなの?」

「まぁ、そう言われているようだな。」

「あーちすとってなに?」

「歌を作ったり、歌ったりして、自分の気持ちを他のたくさんの人に伝える仕事をしている人だ。」

「ふーん。この写真…ママだね。」

「まぁ、そうだな。その時はライルが女の子になったと思っていたんだけどな。」

「ふーん。」

「ライルはマリーのだから、あげないよ。」

「あぁ、大丈夫だ。マリーのおかげで私にはリリィがいるからな…。」

「ん?」

 マリアンジェラがスクラップブックを触った。そこからは、一生懸命雑誌を切り抜いて貼り付ける徠夢の姿が見えた。

「パパ…これ、おじいちゃんが作ったやつみたい。」

「え、父上が?」

「ちがうよ。らいむおじいちゃん。」

「は?」

 アンジェラは目が点になった。あれだけリリィになったライルをイタリアに連れて行くことに反対し、リリィに何度もひどいことをした男が、こっそりこんなものを作っているとは…全く、世の中わからないものである。しかも、なぜここに置いてあるのか?ライルに見せたいのか?意味不明だ。


 その時、下のホールから大きな声が聞こえた。

「ぎゃー。」

 マリアンジェラがアンジェラを連れてホールに転移した。ライルが戻ってきたのかと思ったのである。

 残念ながら、ライルではなく、そこにはジュリアーノに髪の毛をむしられる男性がいた。運悪くリリアナに話しかけてしまった左徠である。

 アンドレはおろおろするばかり、リリアナはジュリアーノを引きはがそうと必死である。

「ジュリアーノ、やめなさい。悪い子はご飯抜きだぞ。」

 アンジェラの険しい美声がホールに響いた。シーンと張りつめた空気の中、ジュリアーノの手が止まり、ちろっとアンジェラを見て、左徠の髪の毛を離した。

「リリアナ、アンドレ、二人共もう少しジュリアーノに厳しくしなさい。甘すぎるからなめられるのだ。」

「…。」

「左徠、大丈夫か?」

「あ、うん。多分100本くらいで済んだと思う。焦ったよ…。」

 見た目がほぼ同年代の左徠とアンジェラだが、アンジェラは左徠の祖父の弟である。

 アンジェラはジュリアーノをマリアンジェラと反対側の腕に抱くと、ホールの並べられている料理の前の椅子に二人を座らせ、二人に食べ物を食べさせ始めた。

「ジュリアーノ、ここにいるのは皆お前の親戚だ。誰もリリアナを奪ったりしないから、暴力や意地悪はダメだ。いいな?」

「あい。」

 何故かクリスマスの大皿料理に天ぷらや茶わん蒸しやお寿司まで並んでいる。

 マリアンジェラが茶わん蒸しを手に取りスプーンですくって食べるのを見てジュリアーノも食べたそうにしている。

 マリアンジェラがスプーンですくった茶わん蒸しをジュリアーノの前に出して言った。

「ほら、あーんして。あーん。」

 ジュリアーノのが口を開けた。少しまだ暖かい茶わん蒸しを頬張り、イタリア生まれのイタリア育ちのジュリアーノは目をキラキラさせて言った。

「ブォーノ」

 ライルの事は心配でたまらないが、こういう時にまとめる力のあるのはアンジェラとマリアンジェラだと自分で思いながら自分の心に折り合いをつけた。

 皆、楽しむ雰囲気ではなかったが、帰るわけにもいかず、あまり騒がずに黙々と食べる雰囲気となった。


 リリアナはちょっと悲しい気持ちだった。自分はライルがリリィになっている時に分離した分身体だ。ライルから分離した時にほとんどの能力をリリアナも受け継ぎ、パワーでいうと、ライル以上のものを持っていたはずだったのだが…。

 実を言うと受け継がれていない能力があったのだ。

 それは、他の者の能力をコピーする能力…。そして、アンジェラや血縁者を無条件で助ける能力も…。

 リリィとライルがどんどんできることを増やしていく中で、リリアナは出来ることが限られていると感じていた。

 それに、用心深さではライルに劣り、度胸ではリリィの足元にも及ばない。

 それでも他の血族からすれば、何でもできるスーパーウーマンなのだが…本人は行き詰った感をぬぐい切れなかった。

『子供をコントロールすることも出来ないのに、能力以前の問題だけどね。』

 そんな事が頭をよぎった瞬間、肩をアンドレにポンポンとたたかれた。

「私達には私達のやり方でいいのではないか?」

 そう、ニコリとも笑わないでさわやかに言う王子に、リリアナも瞳を輝かせて返事をした。

「そうよ。だって私達は私達だもん。ね、アンドレ。」

「あぁ。」

 二人はまだ若いのだ。あと100年も生きれば何か変わるかもしれないが…。


 あぁ、ライルはどこにいるのだろう…。

 マリアンジェラは心の中で、とてつもなく大きくなる不安と共にいた。

 いつものように爆食いできる精神状態ではなかった…。


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