46. Next Step
十月三十日土曜日。
今日は朝食時に第二回目の家族会議だ。
父様が、アンジェラに頼んでいたアズラィールの戸籍をドイツの協力者に頼んで作ってもらったということだ。
アズラィールは今回アンジェラの弟となっているそうで、十九歳ということにしたらしい。
国籍はドイツで、アンジェラ・アサギリは芸名で現在の本名はアンジェラ・アサギリ・ライエン。
アズラィール・アサギリ・ライエンということになった。
ちなみに、アンジェラは現在二十五歳設定らしい。
これには徠人が食いついていた。。
「百歳もサバよんでるってひどい話だな。しかも江戸時代の日本生まれのくせになんじゃ、その名前は…。」
「仕方ないじゃないか。ずっとドイツで暮らしてたんだしっ。」
「はーい、喧嘩してると父様の雷が落ちますよ~。」
相変わらずな二人。
アンジェラからはもう一つ、封印の羽の飾りを人数分都合してきたと言って4つ持ち帰った。
「あれ?アズラィールは持ってたよね?っていうか、うちの書庫にあるけど。」
「あれは、父上の父親マルクスの物だからね。」
「そうだったね。」
「封印しなくても問題ない人もいるけれど、もらえるときにもらっておこうと思ってね。
2つ一度に使っても効果は一緒らしいので、徠人くんが言ってたような使い方は出来そうにないね。それよりもね、こういうのに詳しい親戚を訪ねたら、今回、僕らの一族で
どんな面白い能力があるのかって話を聞くことが出来たよ。」
「そんなにいっぱい能力者はいるのかい?」
「いた。と言った方がいいでしょうね。参考までにですけどね。代表的なのは、赤の精神支配で、強弱はあるようですが、たまにいるようです。
次に青は、変化や変身、身体能力強化。次に黒で、未来予知や予言。
紫の魅惑や幻影、思考読み取り。白は回復や治癒。金は不明。だそうです。」
「緑はないの?」
「能力のない人は能力者に触られた時に、瞳が緑に見えることがあるようですよ。」
「じゃあ、金色はどうして不明なの?」
「親戚の話では、金色なんて聞いたことない。それは悪魔の目玉だ。って笑われました。」
「えー?やだな、それ。」
「じゃ、アンジェラはもっと何かに変身できるかもしんねえな。ちょっと、それ外して試してみろよ。ほらっ。」
「ちょ、徠人。やめて下さい。」
なんとなく、能力の系統があるようだ。
アンジェラの話では紀元前から能力持ちは一族に存在していた様で、中には悪事に手を染めた者もいたそうだ。
能力を封じる羽飾りは、たまたまその金属で作った腕輪を着けていた少年が覚醒しなかったことから、他の者にも試したところ同じ結果が得られたらしい。
悪いことに利用されないように封印する場合もあるし、覚醒しないまま一生を終える場合があるというのは本当らしい。
どうしたら覚醒するのか、わかっていないということだ。
そこで、僕と父様の仮説を話した。
「僕も父様も動物の命を救った後で覚醒が起きたんだ。
何か思い当たる出来事はあった?」
徠人が、首をかしげながら口を開く。
「あ、俺。もしかしたら徠夢の身代わりになっちゃったからかな?誘拐された日、おまえが新聞を取りにいくはずだったろ?」
「あ、あー、そうか…。」
「アズラィールは、きっと僕を落雷から助けたからだよ。」
僕がそういうと、アズラィールは笑って言った。
「ライル、そうかもしれないね。でも、そうしてなければ今ここにアンジェラも君たちも存在していないってことだよ。あれでよかったのさ。」
「で、徠夢は?どうしてなのよ?」
「あぁ、動物病院でまだ見習いだった獣医の時に、車にひかれて死にそうだった猫を手術したんだ。」
「ほぉ。なるほど。で、アンジェラは?」
「戦争でね、味方の兵士を助けたんだ。」
「ということは、やっぱり誰かの命を助けたら覚醒するってことかもしれないね。」
「そうだな。」
そこで、僕はアンジェラがいない間に面談をした誘拐犯の話をアンジェラにビデオを見せながら報告した。
「アズラィールが聞いたら、急にペラペラしゃべりだして、結構色々聞けたんだよ。」
誘拐犯の所属する組織は宗教団のものらしいということや、天より降りてこられた尊き神への生贄として十二体の天使を集めているらしいこと。
今九体集まっていること、遺伝子が同じ天使じゃなきゃダメだと言ってること。
場所はユートレア神殿と言っていたことを教えた。
「その残り三体ってのが、徠夢、ライル。アズラィールと考えて間違いないな。」
「徠人君、それはどうして?」
「それは、僕から説明するよ。」
父様がこの前僕と徠人に話してくれたDNA検査の結果の事を話した。
「えぇ?じゃあ、別の人間から生まれてるのに、同じDNAってこと?」
「あぁ、だから最初は僕とライルがアズラィールのクローンじゃないかって思ったりしたんだけど。そうでもなさそうなんだ。」
「それはどうしてですか?」
「だって、江戸時代にクローンはないだろうと思うんだよ。不思議なことはたくさんあるけれど、もしかしたらアンジェラと徠人も何か別の理由でDNAが一致する可能性があるんじゃないかと思うんだ。」
「うわ、それ嫌だわ。俺。」
「それはこっちのセリフですー。」
やっぱり同じDNAなんじゃないでしょうか…。
「そして忘れちゃならないのが、今まで行方不明になった僕たちの一族がもしかしたら九人、どこかに囚われているかもしれないということ。」
父様は更に話を続ける。
「あんまり乗り気じゃないけど、アズラィールの息子の徠神、徠牙。
徠神の息子徠央、徠輝。そして、徠央の息子で左徠と未徠。未徠の息子は僕、徠夢と徠人、そしてライル(徠流)だ。日本だけでも10人が生まれていてそのなかで、金髪碧眼は全部で八人。ここにいる三人以外に五人いるはずなんだよ。
事故で死んでいると言われている未徠と五歳で病死したとされる左徠が本当に埋葬されているのか調べてみないか?」
父様は未徠の遺体を見ていない、すでに焼かれた後だったと説明した。
「でもどうやって調べるの?」
「そう、そこなんだよ。ライル。みんなにもいい考えがないか聞きたかったところがそこなんだ。」
「なんだよ、徠夢。丸投げ~ってことかよ。ちっ。」
「それは、非常に難しいですね。すでに何十年も経っている場合が殆どですから…。」
「はいっ。はいはいっ。」
徠人が意味不明の挙手をしている。
「はい、徠人くん。何でしょう?」
「どうして俺は麻酔を打たれて、二十四年も眠らされていたんでしょうか?」
「父様と間違えて誘拐したことに気づかなかった。とか?」
「大きくなるまで待ってたとかかなぁ?」
「あるいは植物人間になってたから覚醒してるかどうかわからなくて使えなかったとか?」
「DNA鑑定なんてここ数年で出てきた技術ですからね、そういう違いはわかっていなかった可能性もありますよ。」
全部もっともらしい話だ。
仮説だが、本来いるはずのドイツから日本に行ったアズラィールのいる場所は見つからなかった可能性もある。
アンジェラもそうだと言える。飛行機も何も使わずに転移したのだから。
じゃあ、なぜ父様ではなく僕だったのか?
簡単な方を狙った可能性がある。もしかしたら、一人いなくなっても次にまた子供をもうける可能性もあるからね。まだ若いし。
僕たちは父様の提案は理解しつつも確認の方法が見つからずその日の話し合いは終わったのだった。
その日の夜、夜中にドタバタとものすごい音が聞こえた。
アンジェラの部屋だ。
慌てて駆けつけると、ドヤ顔でチョーカーを手にする徠人と全身に羽が生えて、ベッドにひっくり帰ってるやたらとでかい白鳥がいた。
「ちょっと、ひどいな、徠人。アンジェラにチョーカー返しなよ。」
「くくく、くっ。これ、コントロールできないのはつらいな…。」
ん?ちょっと待てよ…。アンジェラは実は動物に変身できるんだ。
それって、チョーカーつけてないときに触ったら、僕にも出来るようになるのかな?
僕は父様を呼びに行った。
「父様~。ちょっといいですか?相談があるんですけど。」
皆を呼び、同意を得た後、アンジェラ以外の全員が見守る中、白鳥のアンジェラを揺さぶって起こす。
「ねぇ、アンジェラちょっと起きて。」
「グワッ。」
目が開いたアンジェラ白鳥の体を掴んで、目を覗き込む。
アンジェラの目が碧い炎でつつまれ、白鳥も青い光に包まれた。
ドックン、ドックンと鼓動の音が大きくなる。今までに感じたことのない感覚だ。
そこで、アンジェラにはチョーカーを着けてあげる。
全裸で元に戻ったアンジェラが枕で大事なところを隠したまま、徠人を追いかけてものすごくたたいてた。
「父様、試してみてもいいですか?翼が生えるだけではない、何かになれるのかどうか。」
「やってみるのはいいけどね、戻れるのかが心配だよ。」
「あ、じゃあアンジェラにもらったチョーカーを持ってくるので、戻れなかったら首にかけてください。」
それなら大丈夫かも、ということで、みんなが見守る中実験を行う。
全裸になっちゃうのはちょっと恥ずかしいので、自分の部屋のベッドの上でシーツにくるまって
実験スタートだ。
最初はこの前から出来るようになった、翼だけ出す。
特に問題はない。
「じゃあ、犬はどうかな。」
シーツをかぶる。うーん。犬をイメージする。
「あ、出た。」
耳と尻尾が生えた。難しい。元に戻すのは大丈夫そうだ。
例えば、大人の人間とか?出来るのかな?
シーツをかぶる、う~~ん。
「あ、あれ?」
徠人がシーツに頭を突っ込んでチェックする。
ちょっと、なんで徠人がチェックしてんの?
「え?おい、ちょっと大きくはなってるけど、おまえ、それ翼が出てるし、おっぱいも出てるぞ。はっ?大事なものが無くなってるじゃないか!」
「いやー、見ないでぇ。」




