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459. ジェイミーのその後(3)

 その日の午後、アンジェラがすぐに助産師の場所を部下に調べさせ連絡をくれた。

 僕がちょうどアメリカの学校の寮に移動した頃だ。

 僕は授業を終えてアニマルシェルターに行く前に行動を起こした。

 ベンの叔父の所に転移して、ちょうど仕事から帰宅した彼が車から降りようとした時に背後から首すじを触り眠らせた。

 僕はすでに駐車している車の運転席に座る彼の夢の中に入り込み彼を説得する。

 夢の中での僕はLUNAの子供の姿だ。

「おじちゃん、『マーガレット』って呼んでた女の子の事なんだけどね。」

 そう話し始めた僕に、夢の中の彼はハッとして警戒する。

「誰だ?」

LUNA(ルーナ)、他の人は僕のこと『天使』って呼ぶよ。」

 そう言って、僕は翼を出して見せる。

「天使…。」

「おじちゃん、『マーガレット』は本当は『ジェイミー』って言うんだよ。彼女、虫垂炎の手術を受けて快方に向かっている。」

「そうか良かった。それを教えに来てくれたのかい?」

「うん。あともう一つ、ベンの出生届を出して、外に堂々と連れて行ける様にしてあげない?」

「いや、もう手遅れだよ。今とても後悔しているが、今更どんな罪に問われるかと思うとそれは出来ない。」

「過去に戻って届け出られるとしたら?」

「そんな事出来ないに決まっているさ。これは単なる夢だ。でも何でそんな話をするんだい?」

「ジェイミーはもう帰る家がないんだ。おじちゃんが家族になってあげてくれたら、みんな幸せになれるのかなって、思ったの。」

「家がない…。皆で幸せに…」

 男は少し考えたが、僕に言った。

「どうせ夢だろうけど、もし叶うならそうしたい。」

「わかった。今夜迎えに行くよ。」

 僕はそう言い残し、彼を眠りから覚める様にして、その場を去った。男はハッと目が覚め、不思議な夢を見たと思った。


 僕はすぐにボランティアに行き、サムの世話をした。相変わらず他の人には警戒していて触らせてくれないらしい。

「サム、元気だったかい?もう少し穏やかに過ごしなよ。」

 僕が声をかけると悲しそうな声でクゥンと鳴いた。

 そこにアニマルシェルターの職員が来て知らせてくれた。

 首輪から持ち主に連絡を取ったが連絡がつかなかったと言うのだ。僕が過去に戻って首輪を着けたからだ。

 人に慣れていないため、シェルターでしばらく訓練してから貰い手を探すらしい。

 僕はサムにブラシをかけ、散歩に連れ出した。サムにジェイミーの事を話すためだ。

 僕がサムに、ジェイミーが見つかったと知らせるとサムはとても喜んだ。でも家がもうない事を知らせると悲しい顔になった。

『じゃあ僕はもうジェイミーに会えないの?』

 そう言うサムに僕は頭を撫でて言った。

「ジェイミーとサムが一緒に暮らせる様にするからしばらく待っていてほしい。」

 サムは僕の言う事を信じて待つと言った。


 ボランティアを終え、家に戻った。シャワーを浴び、クローゼットで小さいLUNAに変化する。

 マリアンジェラのお下がりの服を着て、翼を出して、ベンの家へ向かった。


 家の前でドアベルを鳴らすと男が出た。

「おじちゃん、迎えに来たよ。」

 男は慌てふためきながら息を切らして外に出て来た。

「夢じゃなかったのか?」

「じゃあ、ベンの生まれた日に行くよ。何年何月何日何時か教えて。」

「2018年9月3日午後8時だ。」

「じゃあ、その日の朝に行くから、この助産師さんにそこで電話して来てもらうんだ。そこにも当時のおじちゃんがいるけど、その日の行動は覚えている?」

「朝8時に仕事に行って6時に帰って来た。」

「わかった。じゃあ行くよ。」

 僕は男の手を取り転移した。

 夜だった景色が朝のひんやりとした空気と空が明るくなり、立っていた場所も家の裏に変わっていた。

 男は驚きの余り固まっている。

 僕は男の手を引いて建物の裏から玄関先を覗ける場所に移動した。その時玄関が開き、9年前の男が出て来た。

「おわっ!」

 男から変な声が出た。

「しーっ」

 僕がくちびるに人差し指を当てて静かに言うと男は慌てて口を押さえた。

 9年前の男は車に乗って仕事に出かけた。家に入り僕が渡したメモの所に男が電話をかけた。

 助産師を手配して待った。その間に手続きに必要な物を家の中から用意させた。間もなく助産師が到着して男は家での出産に立ち会った。

 夕方6時に過去の男が帰宅した時には、鉢合わせしない様に車の中で眠らせた。

 無事出産した後で、助産師に書類をもらい、届け出を済ませ、持ち出した書類を元に戻して記憶の一部を過去の男にコピーする。

 そして二人で元の日時に戻ったのである。

 当然の事ながら過去を変えたためきっと変わってしまっている事もあるだろう。


 男が玄関から家に入ると元気よく男の子が飛び出して来た。

 ベンだ。なんだか様子が違う。

 そう、ベンの障害は出産時に受けた外傷が7割、先天的なものは片目が見えない事と体が小さい事くらいだったのだ。

 助産師の適切な対応で彼の人生が大きく変わり、医療も受けられ、福祉のサービスや教育も受けられる様になっていた。

 お陰で彼らの暮らしも安定している様だ。家の周りも良く手入れされている。


 男は過去の記憶と同時に変わった現在へと至った経緯も頭の中に溢れて来た。

 男は僕を振り返ってお辞儀をした。僕は彼に手を振ってその場から家に戻った。


 結局のところ、誘拐は実行されず、ジェイミーは犬の散歩の途中怪我をして記憶を失い、サムはその際に崖から落ちて野良犬になり、ジェイミーの身元が判明した時には叔母夫婦が離婚して戻る家がなく、児童養護施設に入っていたジェイミーをベンの叔父ボブが引き取りたいと申し出たのだ。


 複雑な家族構成だが四人は幸せに、とても平和に暮らしている。先週ジェイミーが虫垂炎で入院し、明後日が退院の日だ。

 もう地下室などではなく、普通の部屋に暮らすベンは明るく優しいいい子に育っている。

 ジェイミーの事をとても可愛がり優しく接する家族はジェイミーにも心の拠り所となっていた。


 ジェイミーが退院の日、僕は普段金曜日にはボランティアはしないが、その日は特別にアニマルシェルターに行き、サムを連れて散歩に行った。

 そしてベンの家を訪ねた。

「ジェイミー、いますか?」

「どなた?」

 男に聞かれた僕はこう答えた、

「天使の遣いです。ジェイミーの犬のサムを連れて来たんだ。」

 男はジェイミーを連れて慌てて玄関に出てきた。

「ジェイミー、これ君の犬のサムなんだ。帰るところがないからまた君の所で世話してあげてくれないか?」

 ジェイミーはサムに抱きつき、色々な事を思い出した。

 男は快くサムを受け入れてくれる事になった。

 アニマルシェルターに引き取りに来てくれる事を約束してその日はサムを連れてシェルターに戻った。


 翌日、シェルターの職員からメッセージが届いた。

 サムの飼い主が引き取りに来て、サムを連れて行ったというものだった。

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