457. ジェイミーのその後(1)
12月15日、水曜日。
ここ三日ほど、家ではアンジェラがミュージックビデオ関連の対応に追われ、リリィはつわりで部屋にこもり、イタリアは天候がイマイチで散策ができないため、子供達も家の中にこもり、ストレスのせいか子供たちは家の中で大騒ぎをするというバタバタした日々を送っていた。
僕、ライルはと言うと、昼食を子供達に食べさせるのが終わったら、すぐにに学校の寮へ行き、昼休みも家に一回戻り夕食を手伝い、学校が終わったら家に帰り、子供たちの世話をする毎日だった。
今日は水曜日なので、動物愛護センターであるアニマルシェルターに行く日だ。
先週捕獲された『サム』に会うのは一週間ぶりの事だ。
そうだ、『ジェイミー』がどうなったかも気になるな…。『サム』に会う前に調べに行こうか。
まだイタリアは早朝、アメリカは前日の深夜だ。
僕は病院の監視カメラに映っても自分の正体がばれないように、この前撮影の時に変化した女の子の姿になりもっと小さく三歳くらいの大きさに調整した。そして、以前マリアンジェラが着ていた小さい服を着て、パーカーのフードを被り、ジェイミーの現在位置から少し離れた場所に転移した。
そこは、以前僕がリリィの姿の時に高熱で運ばれた病院だった。
自分は意識がなかったため、これはリリアナとアンジェラの記憶から断片的に出てきた情報だ。確か地下に駐車場があった。
僕が今立っているのは建物の裏だ。意識を集中すると足がまた地面にスッとめり込んでいく。地下迄、土の中を下がるのだ。
そして高さのレベルを地下駐車場に合わせ、エレベーターの側の壁の中を移動する。誰がいるかわからないところにいきなり転移するより安全だ。
ここはまだ深夜0時過ぎ。病院の中は静まり返っている。エレベーターの中にスッと出た。
エレベーターで上の入院病棟へ移動する。
降りた階で廊下から部屋の前に貼られた名前のプレートを確認しながら進む。
5つ目の病室に『ジェイミー・S・マグナム』の名前を見つけた。
あぁ、やっぱり身元はすぐに調べられたんだな。
そう思いどうやって中に入ろうかと思っていると、その部屋から看護師が急に出てきて僕にぶつかった。
『ドン』と僕が尻もちをつくと、看護師は手を差し伸べて引き上げ起こして詫びた。
「ごめんね、お嬢ちゃん。ずいぶん遅い時間にこんなところにいるのね。迷子?」
僕はその看護師の手から情報を入手した。
「あのトイレの場所を探してて…」
僕が言うと看護師は親切にトイレの前まで連れて行ってくれた。
僕はトイレの中から家に転移して戻った。
看護師の記憶から、『ジェイミー』は記憶が無いとされており、事件として扱われ、すぐに身元が判明したが、その保護者である叔母は、すでに夫と離婚して行方がわからない状態となっていた。
現在は、保護者不在の子供として市が負担し病院に入院している。
病名は虫垂炎だ。手術を受け順調に回復していると言う。
いいのか悪いのかわからない結末だな。
残念だけど、『サム』には帰る家がないということだ。『ジェイミー』も退院すれば児童養護施設に入ることになるだろう。
複雑な気持ちのまま自室のクローゼットでマリアンジェラのお下がりの服を脱いでいると、後ろから捕獲された。
「ライナちゃん、またみーつけた。しかも今日はとっても小さくてかわいいね。」
ミケーレだ。うれしそうだが、現実は甘くない。
「だから、僕だってば、ライルなの!」
そう言って元の姿に戻る。
「ちぇ。またライルか…。」
しまった。子供用のカボチャパンツが股間に食い込む。慌てて小さくなって、着替えを続行。
「ミケーレ、あっち行っててよ。エッチ」
ミケーレは、男の状態で小さくなった僕には興味ないらしく、『あ、おしっこしに行く途中だった』と言ってさっさといなくなった。
僕は洗面台を見てハッとした。また髪色が戻っていない。リリィと一緒でデフォルトが変わったせいか、意識しないと金髪にならないのだ。
時計を見れば6時半、朝食の準備を手伝わなければ…。




