453. 初めての体験
土曜日の朝、少し早く起きたせいもあり、時間はたっぷりとある。
アンジェラとの話を終え、子供たちのあとを追いかけて温室にやってきた。
思った以上に大騒動になっている。
ライアンとジュリアーノが走り回るニワトリを追いかけて遊んでいる。
捕まえたら、羽をむしってしまうようで、ニワトリも逃げるのに必死だ。
ニワトリを双子が、双子をアンドレとリリアナが追いかけていると言う感じだ。
ミケーレは自分のヒヨコであるピッコリーノがはねをむしられないように、しっかり手の上に乗せている。
その時、リリアナがライアンを捕獲した。
「アーナ、やーよ。」
ん?え…もしかして、今しゃべった?
「今、ライアンがしゃべったよね?アーナってリリアナのことじゃないの?」
「え、そうかな…。うそ、なんだかうれしい。」
リリアナ、いつになく嬉しそうにちょっと笑っている。その時、アンドレがジュリアーノを捕獲した。
「ドーレ、やーなの。」
「アンドレの事はドーレって言ったんじゃない?」
さすが、双子、ほぼ同時刻にしゃべった。
「でも、どうしてアーナとドーレなの?」
そこですかさずミケーレが口を開いた。
「リリィとリリアナを区別してるんじゃない?同じ理由でアンジェラとアンドレを区別してる。と僕は考えます。」
「うわ、確かにそうかもな。」
なんだか、赤ちゃんの成長って楽しいな。両手にニワトリのはねを握ってなかったら、めちゃくちゃかわいいんだけど。
その時、物陰からガサガサと音がした。
物陰から飛び出してきたのは、あのもう一つの世界でヒヨコのピッコリーノを食い殺した野良猫だった。野良猫はピッコリーノ目がけて飛び掛かった。
「わっ、危ない!」
僕は叫んだ。
そう、叫んだ。大きな声で。
ミケーレは恐怖の表情で肩をすくめ、野良猫は1m以上も飛び、他の者達は僕の声に驚き、こちらを向いた。
だが、ヒヨコは食い殺されることはなかった。
ヒヨコのわずか3cm手前のところで、野良猫は空中に浮いたまま静止していた。
僕以外の誰も、その場で動ける者はいなかった。
シーンと静まり返った中で、僕は野良猫の首を掴み、持ち上げた。
どうやら、ミケーレからコピーされてしまった能力を、僕が、意図せず発動してしまった様だ。僕は自分の胸に空いている方の掌をのせ、『大丈夫、大丈夫だから。』と自分に言い聞かせた。目を瞑り深く呼吸をして、目を開けた。
「きゃー」
マリアンジェラがニワトリにつつかれて悲鳴を上げた。
ミケーレは恐怖の表情のまま、ピッコリーノを両手で隠した。
僕が野良猫を片手で高く持ち上げているのに気づいたミケーレが僕に言った。
「ライル、あれ、使ったの?」
僕はミケーレの顔を見て、にっこり笑って言った。
「あぁ、すごい能力だ。マリーの次はヒヨコを助けることができた。」
ミケーレは誇らしげに僕の足にしがみついた。
その後、アンジェラの従者である執事のアントニオさんを呼んで、野良猫を地元の里親募集記事にのせてもらった。
きっとすぐに誰かに引き取られることだろう。
マリアンジェラとヒヨコが助かるためにはミケーレはこの能力を手に入れなければいけなかったのだ。




