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452. 能力の封印

 翌日、12月11日、土曜日。

 昨日はとてつもなく不安になるようなことが立て続けに起こった。

 僕、ライルは、朝目が覚めた時に思わず隣で眠っている姪のマリアンジェラがちゃんと呼吸をしているか確かめたほどだ。

 結果、呼吸もしていたし、マリアンジェラは抱きしめると暖かく僕はホッとした。

 いつまでも眠っていたかったが、アンジェラと話をする約束をしているため、早めに朝食を済ませてアンジェラの書斎へ向かった。


 徹夜したのだろうか、アンジェラは昨日と同じ服を着ており、仕事で使っているラップトップに何かを入力していた。

「アンジェラ…。まだ、手離せない?」

 僕が書斎の入り口から声をかけると、アンジェラは手招きをして言った。

「このメール一本だけ送らせてくれ。」

 僕は黙って頷き、書斎のアンジェラのデスクの前に壁際に置かれている椅子を移動し座って待った。

 一分もかからずその作業を終えたのか、アンジェラがラップトップを閉じ僕に向き直った。

「それで、お前の話から聞こうか。」

「アンジェラ、言葉でまず説明すると、昨日の夜遅い時間、ミケーレがジュースを飲んでただろ?あの時に驚きべきことがあったんだ。」

「驚くべきこと?特に変わった様子はなかったが…。」

「僕が見たことを記憶の譲渡で見せるよ。その後で、セキュリティカメラの映像をチェックしたい。」

 僕はマリアンジェラが床に落ちそうになって慌てたところから、ミケーレがジュースを飲み終わったところまでを見せた。

 アンジェラは見終わると同時に彼の額を触っていた僕の腕を掴んだ。

「これはいかん。ミケーレのこの能力は使わないように暗示をかけるべきだ。」

「僕も同感だよ。でもその前に確証を得たいんだ。セキュリティカメラの映像を見たい。」

 アンジェラはタブレットをデスクの引き出しから取り出し、アプリを操作した。

 僕とマリアンジェラが融合して食事を摂っているのが写っている。見た目は僕だけしかいない状態だ。僕は、ダイニングとアンジェラの書斎、そしてその外の廊下の映像を同時に再生しながら様子を見てくれとアンジェラに頼んだ。

 ダイニングからアンジェラが書斎に移動しているのが写っている。

 アンジェラが書斎で決済すべき書類に目を通しているのが確認できる。その時、廊下にミケーレが目をこすりながら歩いてダイニングに行く様子が写っていた。

 ミケーレがダイニングの入り口のところに来た時だ。ミケーレの体から紫色のオーラが一瞬出ていた。僕が『わあっ、危ない!』と叫んだ音が録音されたとほぼ同時だ。そしてすべての映像に一瞬ノイズが走り、再生された続きの映像には、ミケーレが廊下から一瞬で僕の膝の上に移動して僕が抱きしめているのが写っていた。

 ミケーレはその後、アンジェラの書斎に行き、『パパ、ジュース飲みたい。』と言ってアンジェラをダイニングに連れて来ている。

 アンジェラはミケーレが子供部屋に戻るところまでを確認した後、タブレットを置いて言った。

「これはヤバい能力だ。子供には手に負えるものではない。ライル、手伝ってくれるか?」

「もちろん。僕もこれはヘタするとミケーレだけが時間の狭間に取り残される可能性があるんじゃないかって思ったんだ。」

「あるいは、この世が終わるときだな。全てが誰も認識しないまま活動を停止するなんて、恐ろしいことだ。」

 僕はダイニングに行き、ミケーレに食事が終わったらアンジェラの書斎に来るように言った。


 ミケーレが来る前にアンジェラと新たに手にした絵本を確認する。

「派手な色だね。」

「確かに、そうだな。」

 昨日写真で見せられたページと全く同じものを次々とめくっていく。

「あっ本当だ、4が途中で終わってる。」

『4』で終わっていたページを僕が触っても何も起きなかった。

「何も出ないな。」

 アンジェラももう一回触るが、何も変化は起きなかった。

 そこにミケーレが来た。

「パパ、何?僕に何か用事なの?」

「あぁ、そこに座りなさい。」

 アンジェラが椅子に座るように促すとミケーレが椅子によじ登ってデスクの上の絵本を見た。

「あ~、これも触ったら字が出てきたの?僕も触りたい。」

 そう言ってもう文字が描かれている最初のページからベタベタと触りまくる。

「う、うわぁっ。すごい。この絵本、今までで一番きれいだね…。」

 ミケーレが大きな声で歓喜した。ミケーレが触ったページ、それぞれに色とりどりの花が描かれていく。薔薇、スミレ、ガーベラ、コスモス、百合…。

 文字が描かれていないページにも花々が描かれていく。

 他の絵本によると、ミケーレは『情熱の天使』と書かれていた。ミケーレは花が大好きなのだ。冬の枯れた庭園を花であふれさせることが出来るほどに…。

 絵本のページから花の香りが漂ってくる。

「す、すごい…。」

 僕は思わず香りまで出すことが出来る絵本の存在に驚きの声をあげた。

「あ…字も出てきた。」

『4 絵本で描かれた未来を変えるために未来へ行ってはいけない。』

「アンジェラ、これって…過去はいいけど、未来に行っちゃダメってことかな?」

「さぁ、未来を変えるためはダメという事なのか…。しかし、禁止していると考えておいた方がいいだろう。意図して行かない事だ。」

「うん、そうだね。気をつける。」

「パパ、もうおしまい?」

「お、ごめんな、ミケーレ。昨日の変な事をライルに聞いたんだよ。あれはきっとミケーレの新しい能力だと私とライルは考えているんだ。」

「あ、あの、ライルと僕以外が固まっちゃうやつ?」

「そうだ。それで、もし、ミケーレが一人の時にそんな事になったら困るだろ?」

「うん。ジュースも飲めなかったんだよ。」

「だから、この能力を大きくなるまで使わないようにライルに暗示をかけてもらった方がいいと思うのだ。いいか?」

「そっか、別にいいんじゃない?僕、使おうと思って使ったわけじゃないし。

 ドキッとしたら全部が止まっただけだもん。確かに、一人ぼっちでそんな事になったらどうしていいかわかんない。」

「よし、じゃあ、ライル。やってくれ。」

「うん、じゃあミケーレこっち見て。」

 ライルは赤い目を使いミケーレに『時間を止める能力は使わない』と暗示をかけた。ミケーレの目に赤い輪が浮かんだ。

「終わったよ。」

「ふぅ~ん。何も感じないんだね。」

「そうだね。」

「じゃ、僕これからマリーと温室に行ってくるね。」

「あぁ、気をつけるんだぞ。」

 アンジェラが優しい目でミケーレを見て、声をかけた。


 その後で、ようやく編集が終わったミュージックビデオを見せてもらった。

 長いイントロの部分では、ブランコにただ座っている女の子が遠目に映っている。

 歌が始まると少しずつそこに近づき、それが誰かわかるのだ。

 それは、僕が変化した小さいバージョンのLUNAだ。


 ♪あぁ、愛の歌 歌う小鳥のように

 ♪いつまでも 君のすがた 目で追うんだ


 ブランコに座ったり、ブランコの周りで花を摘んだり、スカートの下を気にしたり、髪に摘んだ花を挿したり、いつの間に撮っていたんだろう。

 まさしくLUNAを目で追ってる風の映像である。


 ♪あぁ、始まりは 忘れるほど遠い過去


 ここで、花が舞う中、ブランコを漕ぐLUNAにアンジェラの子供の頃に扮したミケーレが走って行って抱きつき光の粒子になって消えた。


 ♪くりかえす 何度でも 僕の悲しみが


 今度は大人のアンジェラが悲しみの表情でブランコに座っている場面だ。

 崖っぷちに座るアンジェラ、そこに翼を広げた大人のLUNAが近づき手を取るシーンが続く。


 ♪傷つきたいことなんて 一度もなかったけれど

 ♪僕を守る 君に会えるのは

 ♪いつでも 僕が 生きる望みを失いかけたとき


 ここで、城の庭園で撮影した翼を広げたまま歩く大人のアンジェラに、翼を広げて舞い降り、薔薇の花をアンジェラの髪に一輪さす。


 ♪あぁ、大切な~ 君のために

 ♪かけつけるよ どんなときも~

 ♪どんなことがあっても いつでも

 ♪君だけを、愛しているのだから


 真っ暗な中で少年アンジェラに変化している僕の顔がろうそくの火で映し出され、アップになる。赤い目を使った部分だ。

 そしてろうそくの火にピントが合い、後ろの景色がぼやけると、今度はピントが人物に合った時に少女LUNAぼくがアップになる。

 二人の映像が重なり合い、半分ずつが重なり合ってまるで一瞬、一人のように見える。その後、子供だった二人の顔は、大人の顔にすこしずつ変化する。最後に、アンジェラが青い薔薇を一輪、唇の前に持ってキスをし、目を閉じた。


 ♪ラーララララーララララ~


 最後に真っ暗になった場所にろうそくの火が揺れ、大きな白い羽がふわふわと落ちて、ろうそくの乗るテーブルの上に落ちた。

 ろうそくの火が消え、左下の方に小さな金色の文字で『Real Angel Project』と浮き上がり、それが金色の光の粒子になって霧散した。


 ミュージックビデオを見終わり、感想を聞かれた。

「正直に言うよ。」

「あぁ、頼む。」

「とても僕だとは思えないくらいかわいく映っていた。」

「だな。」

「そして、ストーリー性が高い、アンジェラがLUNAを求めてる感が伝わってくる。」

「そうか。本当はリリィにやってもらいたかったんだが、まだ調子が悪くてな。」

「まぁ、仕方ないし、それは妥協してよ。そして、このミュージックビデオって…『最高』だよ。」

 アンジェラが満面の笑みで頷いた。

「ライルのおかげだよ。明日アップ予定だ。」

「え?もう?」

「本当はもう少し前にあげたかったんだが、編集に手間取ってな。」

「よかった完成して。」

「あぁ、報酬はまた振り込むからな。」

「大丈夫なの?僕としてはどこにも出ていないけど。」

「撮影の補助をしてもらったことにするさ。」

「わかった。それがいいね。ところで、アンジェラ…徹夜したの?」

 なんだか少し目の下に黒い線が出来ているように見える。

「わかるか?実は3日ほど寝ていないのだ。」

「え?どうして?」

「主に動画を編集していたのと…」

「と?何?」

「実は、最近少し絵をまた描き始めているのだ。」

「絵?って油絵?」

「そうだ。昼間、子供たちが散歩に行ったり静かに遊んでいる時に絵を描いて、夜中に仕事をしている。」

「また、どうして?」

「ミケーレやマリアンジェラを見ていると、かわいくてな。この瞬間を残しておきたいという衝動に駆られるのだ。リリィの絵を描き続けていた時みたいにな。」

「でも、アンジェラ…体を大切にしないと。病気にでもなったら…。」

「わかっている。今描いているのが終わったらしばらく絵を描くのは封印だ。」

 苦笑いをしながらアンジェラがタブレットを引き出しにしまった。

 僕がアンジェラの書斎を出ようとした時、アンジェラが僕を呼び止めた。

「ライル、ジェイミーの事はどうするか決めたか?」

「いや、まだなんだ。」

「そうか…。」

「もう一度様子を見に行こうと思ってはいるんだけどね。」

「そうだな。」

 僕は、その後、アンジェラの書斎を出て、マリアンジェラとミケーレ、リリアナとアンドレと双子が野菜と卵を収穫している温室に向かった。

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