450. 取扱説明書
同じ日、学校が終わってから寮の部屋でシャワーを浴び、家に転移で戻った。
朝は時間が無くてバタバタとした。記憶の譲渡でアンジェラに事情を説明したつもりだったが、わかってくれていただろうか…。
自室のクローゼットから寝室を通りダイニングへ行った。
僕のベッドにマリアンジェラはいなかった。
ダイニングにはアンジェラがいて、一人で赤ワインを飲んでいた。
「アンジェラ、ただいま。」
「ライル、おかえり。」
会話がそれ以上続かない。気まずい。そこにマリアンジェラが急に転移してきた。
「わっ、マリー、家の中で転移したら驚くだろ。」
「むぅ。ずっと待ってたんだから。」
マリアンジェラはものすごく機嫌が悪い。機嫌が悪いながらも僕と融合して食事を摂らせようとしている様だ。僕たちは融合し、僕が外に出た状態で夕食をとった。
今日は3種のインドカレーだった。子供でも食べられるように少し甘めのバターチキンとキーマ、そしてマトンのカレーだ。
アンジェラがカレーを温め、ナンを焼いてくれた。
サラダと一緒に三種類全部完食。
「ねぇ、これは誰が作ったの?」
「これは私が作ったんだ。」
「えー、すごいな。お店の味だよ。」
「そうか?そう言われるとうれしいものだな。」
「アンジェラ、そういえばさ、最近僕、リリィを見ていない気がするんだけど…。」
「あぁ、そうなんだ。先週からつわりがひどいようで、食事を他の者が食べているのを見るだけで気持ちが悪いと言って、ずっと寝ているんだよ。」
「知らなかった。」
「本人が言わないで欲しいと言っていたからな。」
「そっか…。でも、大丈夫なの?」
「あぁ、フライドチキンとトマトは食べられるらしいからな。大丈夫だ。」
「変なの…。」
僕たちはその後、朝起きた転移について話した。
僕は自分が考えていることをとりあえず説明した。
「あれはきっとミケーレがライナに会いたいって思っちゃったから起きたんじゃないかと思うんだよ。でも、このタイミングで絵本が見つかったのは偶然にしては怖いよね。」
「ライル、私も、今回は確実にミケーレがキーだと思うのだ。記憶を見せてもらって不思議に思ったのは、いつもならライルかリリィがいきなりタイムリープするときは、常に私に何かが起きて命の危険が迫っているときであろう?」
「今までは、主にそうだったね。」
「今回は誰も命の危険にさらされていないし、しかもお前の能力が制限されていたのであろう?」
「そうなんだ。時は超えられず、場所は転移出来た。そして変化の解除も出来なかった。」
「きっと、それが出来たら簡単に元の時間に戻ってしまい、見せたかったものを見せられなかったという結果になると思ったのだろう。」
「誰が?」
「さぁ、神か、我らの元になっているルシフェルとアズラィールか…。」
「ミケーレにライナがリリィだと認識させることと、絵本を捨てさせないための試練みたいな感じかな?」
「まぁ、そうだな。」
「それで何か進展あった?」
「あぁ、あの絵本だ。」
「アンジェラ、あれは白紙だっただろ?」
「これを見てくれ。」
アンジェラはタブレットで撮影した絵本の写真を開き僕に渡した。
そこには今までの絵本としてのストーリーというより、取り扱い説明書的な内容があった。
表紙はビビッドなショッキングピンクだ。天使の翼だけが一対描かれており、タイトルは『天使の書とは』だ。
次の写真を見ると、数字で『1』と書かれその後に続く文章があった。
『本物の天使が触らなければ描かれることはない』白い羽が描かれている。
そして、次の写真だ。そこには、『2』と書かれており、次の文章が続いた。
『異なる選択をした場合内容が変わる』黒い羽が描かれている。
そして、次の写真には、『3』と書かれており、また文章が続いている。
『未来を予想する話が描かれるものもある』
そして次の写真は、『4』と書かれたところで途切れていた。
「ライル、どう思う?」
「まるで、あの絵本のマニュアルだ。」
「そうだろ?」
「まだ途中なんだよね?」
「多分な。」
僕はアンジェラと明日の朝、一緒に絵本に触って見ることにしたのだった。
食事を終えた僕はマリアンジェラとの融合を解いた。
僕の膝の上にボロンとマリアンジェラが出た。勢い余って落っこちそうになった。




