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447. 追跡(3)

 僕が自室のベッドに戻ったのは朝の4時頃だった。

 どうやら出かける前に子供部屋のクローゼットをライナの姿で物色していたのをミケーレがこっそり見ていたらしい。

 あぁ、またなんか面倒だな…。そう思いながらマリアンジェラの寝顔を眺める。

 まつ毛がぴくぴく動いてまるで居眠りしている子猫の様だ。

 さっきは夢の中でここについてたクリームをなめたんだっけ。そんなことを考えながらマリアンジェラの口元を触った。

「にゅ?」

 半目になりながらマリアンジェラが起きてしまった。僕の横に正座して目をこすっている。

「ごめん、マリー起こしちゃったか?」

「らいじょうぶ。もうごちそうさましたとこらった。」

「そっか。」

「ん。でも仕返ししないと気がしゅまない。」

 そう言うと、マリアンジェラがいきなりむくむくと15歳の夢の中にいたサイズになった。

「仕返し?」

 マリアンジェラは返事もせず、僕に抱きついて、唇にキスをした。

「んふっ。」

「ま、マリー…。」

「ふぅ。仕返し終了。」

 そう言ってしゅるるとまた小さくなった。僕はなんだか置いてけぼりになった気分だった。多分、今の僕は顔が真っ赤だ。

「マリー、なんで急にキスするんだよ…。」

「ライルだってマリーのココをペロッってしたじゃない。」

「あれは、夢の中だろ?」

「ふぇ?夢の中なら何してもいいの?現実はだめにゃの?」

「しかも、わざわざ大きくなって…。」

「高さ調整しただけだもん。」

 マリアンジェラはちょっと怒った顔で立ち上がった。そして僕の頬にキスした。

「ほら、小さいと立たないとチューできないにょ。」

 言った後は顔がニヤニヤしている。キスする口実だったようだ。

 最後は、僕に抱きついて小声で言った。

「ママとパパには内緒ね。」

 全く、ませた子供である。結局抱きつかれているうちに、マリアンジェラの体温の温かさで僕もいつの間にか寝てしまった。こんなこともあるのか…とちょっと不思議に思った。


 朝6時過ぎ、アンジェラが僕達を起こしに来た。

 アンジェラの声で目が覚めた僕は目の前に広がるお花畑を目にして目が覚めた。

 イヤ、違った。マリアンジェラのネグリジェパジャマがめくれて、花柄のパンツが丸出しのお尻が僕の顔の前にドカンと鎮座していたのだ。

 あまりの寝相の悪さにアンジェラもあきれていた。

「マリー、そんなんじゃお嫁さんに行けないぞ。」

「パパ、それセクハラ。」

 朝から親子漫才炸裂である。


 僕は朝食を終えた後、アンジェラの追加の動画撮影のために地下の隠し部屋に来た。今日はミケーレはいない。

「で、どんなのを撮るの?」

「この前暗闇でろうそくの前で撮った動画あるだろ?あれを子供の姿で撮りたいんだ。申し訳ないが、私の子供の頃の姿になって欲しい。」

「服は?」

「これでいいだろう。」

 アンジェラは少し小さい服を持って来ていた。この前アンジェラが着ていたのと全く同じデザインのサイズ違いだ。

「ミケーレくらいの大きさ?っていうか、ミケーレになればいいのかな?」

 そう言って、僕は最近のミケーレになってみた。

「おぉ、ミケーレに見えるな。もうちょっと大きくなれるか?」

 うーん、ドイツで会った時のアンジェラ少年を思い出して変化する。

「いいな。8歳くらいか…。」

 服もぴったりだった。

「ではこの前と同じように暗闇からろうそくに火をつけるぞ。そしてアップになるから、その時に赤い目で暗示をかけてくれ。」

 暗示の内容は紙に書かれていた。

『由里杏子は速やかに犯行声明を出し自分が行った犯行を明らかにすること』

 撮影は開始された。少年姿での撮影の後、今度はLUNAの少女バージョンでというリクエストだった。

「無茶ぶりしないでよ。マリアンジェラの姿にだったらなれるけど。」

「それはダメだな。あくまでも世の中にいない人物でないと…。」

「それだとライナくらいかな…昨日やったばかりだからできるよ。」

 僕はライナに変化した。

「ちょっと小さい気がするな…。もう少し大きくなれるか?」

 僕は、その時思い出した。リリィとして僕の中で成長し、度々表面に出てアンジェラを助けていたリリィの姿を。

 僕は8歳くらいのリリィになった。

「髪と眉とまつ毛をLUNAと同じにできるか?」

 手鏡を見ながら変化を繰り返す。結局、先に大人のLUNAになってから顔を子供のリリィに変えた。

 アンジェラが思わずグニャリとした笑い顔を見せた。変態リリィオタク参上だ。

 アンジェラが嬉しそうに僕の唇にグロスを塗ってくれる。そして髪を結い始めた。

「あ、そだ。今朝行ってきた結果だけど、記憶を見せるよ。」

 僕は待っている間にアンジェラの腕を掴み記憶を見せた。


 まずは男のものだ。それはあの大きな古い家での家族の事を知ることが出来る内容だった。

 あの男は生まれた時からあの家に住んでいた。男の父親はあの辺りで会社を経営する少し成功した男で、羽振りは良かったようだ。母親は家で子供を二人、あの男とその妹を育てた。しかし、父親が浮気相手と旅行中に事故に遭って亡くなり、父親が経営していた会社は父親の兄弟に取られてしまう。

 母はその後、近くのドライブインでウェートレスなどをして金を稼ぎ子供を育てたが、40代で体を壊し他界した。男は当時高校を卒業する頃だったが、親が死に大学は行かなかった。妹はあの一緒にいた女だ。

 妹は軽い知的障害があり、仕事には就いていなかった。妹を養うために男は肉体労働の仕事を必死でやった。

 ところが、ある日悲劇は起きた。男が留守の時に妹が押し入った強盗にレイプされてしまったのだ。男は妹を一人で家に置いていたことを悔やみ、それからは常に連れて歩いている。しかし、悲劇はそれで終わらなかった。

 妹は強盗レイプ犯の子供を身籠ってしまったのだ。

 男は妹が妊娠したことを誰にも知らせず、地下室に住まわせ、外から鍵をかけた。


 妹は出産したが、生まれてきた男の子は生まれながらに体にかなりひどい障害を持っていた。四肢が不自由なだけではなく、顔半分が歪み、片目は最初から眼球がなく、産み落とした後も産声さえあげなかった。

 そんな子供だが、妹はかわいいと言い大切に育てていた。

 幸か不幸か、その子供の知能は正常で、成長していくにつれ、文字を覚えたりもした。だが、男はその子ベンを外には出さなかった。

 あくまでも地下室の中で生活させていた。そんなベンが母親に一度だけお願いをしたのだ。

『ママ、僕、ともだちがほしいんだ。』

 その言葉から二人は犯行に及んだ。ベンと同じか少し小さい女の子を物色していたのだ。たまたま犬の散歩をしている『ジェイミー』を見かけたのだ。

 可哀そうではあるが、身勝手な犯行であることには変わりはない。


 次に女、男の妹の記憶だ。男のものと近いが、知的障害があるせいかそんなに悲観的ではない。父親が死んだこともわからず、母親が死んだことはわかっているがそれほど悲しかったわけでもない。兄がいていつも守ってくれているのは幸せに思いなぜか自分に子供が生まれたことが不思議だと思っている。

 男は現在30歳ほどで、女は25歳くらいだ。男の子は推定8歳~9歳。

 男は大工や内装などの仕事を請け負いでやっており、いつも妹を連れて出かける。

 ベンと『マーガレット』は地下室に外から鍵をかけて出られないようにしてあるのだ。とりあえず、生活する分の金には困っていないが、裕福なわけではない。


 次は男の子の記憶だ。ベンは自分のいる地下室が世界の全てではないと知っている。それは絵本などで森やビルや空がどこかにあると気が付いたから。

『ともだち』という言葉も絵本で読んで覚えた言葉だ。

 まさか、自分のこのせかいが異質で許されるものではないとは知らずにいる。足は引きつり、自由に歩くことは出来ない。腕も引きつってフォークを持つことも上手にできない。片目も見えないが、他の人間との比較をしたことがないので、それを負い目に感じることもない。


『ジェイミー』は、今、実は少しホッとしている。かわいがっていた犬に会えなくなったのは残念だけれど、ここでの生活はそんなに悪くないと思っているのだ。

 なぜか、『ジェイミー』は生まれた時に実の母親を亡くした。

 実の父親は育児には耐えられず、母親の妹に『ジェイミー』を預けて失踪した。

 叔母さんは口を開けば『ジェイミー』のことを邪魔者扱いし、叔母さんの夫は叔母さんが見ていないところで『ジェイミー』を殴ったり蹴ったりした。

『ジェイミー』は叔母さんの家から消えて居なくなりたかった。

 そんな時、誘拐されたのだ。連れて来られた時は恐怖で何も考えられなかったが、男と女は暴力をふるったり邪魔者扱いをしなかった。息子のベンに優しくしてほしいとだけ願う母親からは、いつもお菓子をもらったり、かわいい服を買ってもらえた。男は愛想は無いが、女を妹として大切にしており、最近はその男も時には微笑んでくれるようになった。

 ベンは見た目は気味が悪いが、意地悪なことを言ったりもしないし、優しい言葉もかけてくれる。男と女がいないときはトイレの介助や食事の世話は『マーガレット』がやっているのだ。

『ジェイミー』はあの家に連れて来られた時に自分の名前を言わなかった。

 だから、ベンが『マーガレット』と名付けたのだ。


 アンジェラの頭の中に、これらの情報が流れ込み、アンジェラの表情が一気に曇った。

「ライル、やっかいだな、これは…。」

「そうなんだ。誘拐は犯罪であることは間違いないけど、警察に通報するとなるとジェイミーを家に帰さなければいけないだろ?」

「うーむ。」

 アンジェラもライルと同じように思った様だ。

 事件が解決しても誰にもメリットがないのだ。

「どうしたものか…。」

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