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446. 追跡(2)

 全ての授業とスポーツの時間を終え、一度イタリアの家に帰った。

 マリアンジェラはまた僕のベッドでスースーと寝息を立てて眠っていた。

 起こすのはかわいそうだ。僕は起こさないようにそっと部屋を出てダイニングに移動した。


 ダイニングにはアンジェラがいて少し怖い顔をしていて、目だけこっちを見た。

「アンジェラ、ただいま…。どうしたの?」

「ライル、お前、どこに行っていた?」

「え?学校だけど…。」

「朝だ、学校に行く前、どこに行っていた?」

「あっ、あの…去年の11月28日。」

「誰でもいいから、どこに行くか言ってから行くようにしろ。食事も摂らず、朝から見当たらず、気配がないと言ってマリーが泣いて酷かったんだ。」

「あ、ごめん。何も考えてなかった。」

 僕が謝るとアンジェラはそれ以上何も言わなかったが、どうやら今朝はアンジェラも僕に撮影に付き合ってほしかったようだ。

 僕は今日見てきたことをアンジェラに記憶の譲渡で見せた。

「何という事だ…。アメリカは子供の誘拐が多いと聞いているが、この子は介護をさせられているのか。」

「明日の朝、アメリカの夜中に忍び込んでこの大人たち、そしてこのベンとジェイミーの記憶を見てこようと思う。」

「そうか、だが、その姿のままでは行くことは許可できん。お前は有名人だという自覚が足りない。今、この時代に存在しない姿に変化へんげしていくべきだ。

 できるのだろう?」

「まぁ、そうだね。アンジェラのいう事は理解できるよ。」

 家宅侵入などでカメラに映っていた場合は言い逃れできないのだ。

 僕はアンジェラの了解を得て、うちにいた頃の小さいリリィ、ライナの姿で翼を出し、活動することにした。

 万が一カメラに写っていても翼を持ち、瞬時に消えれば心霊現象かトリックだと思われるであろう。実際のライナは臓器売買グループに売られた後に消息を絶ったことになっているのだ。


 もう一つ、アンジェラに報告をする必要があった。

 僕が今回、『ジェイミー』が誘拐された家で使った能力のことだ。

 あれは明らかにジュリアーノが持っている能力を僕が複製したのだと思う。

「アンジェラ、ジュリアーノの能力を僕もいつの間にか使えるようになっていて、それがすごいんだよ。」

「どうすごいんだ?」

「さっき、僕の記憶を見せただろ?あれは、僕が土の中に入ってるんだ。そして壁越しに見たり聞いたりしている。僕の周りには何も存在しない様な状態で、もちろん汚れたりもしない。」

 アンジェラは複雑な表情を浮かべたが、最後にはこう言った。

「新しい能力が発現するときには、何かしらその能力を使ってやらなければ達成できないことが起きるという事だな。」

 そうなのだ、僕に翼が生えた時は、子供だったアンジェラを救うためだった。

 そんなことを思い出しながら、この件に関与したのもきっと運命なんだと思う。

「アンジェラ、明日の撮影は午前10時からでいいかな?」

「あぁ、もし間に合わないようなら連絡をくれ。」

 僕は、夕食の残り物を少し食べ、明日のために備えた。


 数時間、マリアンジェラの夢の中で一緒に過ごした。

 ホテルのビュッフェでスィーツの食べ放題を堪能する夢だ。

『マリー、僕、もう食べられないよ…。』

『何言ってんの…もう一回お皿に盛りにいくわよ。』

 15歳の大きさに変化中のマリアンジェラが、両手にスィーツ山盛りの皿を持ち、溢れるスマイルで次から次と食べまくるのを見ている自分…。自然と僕も笑顔になる。

 ふと、スィーツを口に運ぶマリアンジェラがフォークを持つ手を止めた。

『ライル、そろそろ行く時間じゃない?ちゃんとパパにメッセージ入れてから行ってよ。マリー、本気で怒ってんだから。』

 顔にクリームをつけて、ぷんぷん怒るその顔もまたかわいい。

 僕は口の横に着いたクリームをペロッと舐めとって、マリアンジェラに言った。

『じゃ、ちょっと行ってくる。あんまり食べすぎると良くないよ。』

 マリアンジェラは顔を赤くして舐められたところをそっと触った。

『うん、気をつけて行ってきて。神の加護がありますように…。』

 また真っ白な光の中で僕が思わず目を瞑ったが、直後夢から覚めた。

 マリアンジェラはああやって、僕を夢から出しているのかもしれない。


 僕は三歳くらいの大きさのリリィであるライナへと姿を変えた。

 子供部屋のクローゼットに行き、マリアンジェラが少し前まで着ていた洋服を引っ張り出して着た。翼を出して鏡の中の自分を見る。

 どっからどう見てもライナだ。そして、どっからどう見ても天使だ。

 僕はその場から、『ジェイミー』が『マーガレット』として過ごしている家のキッチンへ転移した。

 しまった…くつを履いてくるのを忘れた。

 足跡がつくのが嫌で、空中を飛びながら移動する。

 翼さえ出していればバサバサ羽ばたかなくても空中に浮遊することが可能だ。

 いくつかあるドアの前で、土の中でやったのと同じく物質を透過して先を見る。

『ここは書斎か…。』

 思ったより家の中は広くて立派だ。あんなボロい車に乗っているのに。

 ドア越しに中を覗くこと3つ目であの男女の寝室を見つけた。二人とも完全に寝ているようではある。念のため、ベッドの枕元の壁の中から両手を出して、二人同時に首筋を触った。より深い眠りに落とし、朝まで目覚めないようにするためだ。

 二人が完全に寝入ったところで、壁から抜け、ひとりずつ額を触り記憶をコピーした。それはほんの数秒ずつで、僕はその内容を見て、非常に複雑な気分になった。

 次に地下の『マーガレット』とベンの寝室を訪れた。

 二人はあの地下室の大きな部屋に別々の端にベッドを置いて眠っていた。最初にベンの方だ。そして『マーガレット』の記憶をコピーする。


 僕は四人の記憶をコピーし、家に戻った。

 自分の部屋のクローゼットに戻り、子供の服を脱いでいると、後ろからいきなり捕まえられた。

「つかまえた。」

「え?」

 あわてて振り向くと、そこにはミケーレがいた。

「ライナちゃん、いままでどこに行ってたの?ずっとずっと探してたんだよ。」

 僕はどうしていいか微妙に悩んだ。けど、変な期待をさせてはいけない。

 その場で元の姿に戻る。

「うわっ。」

 いきなりの大きな男の出現にミケーレもあせった様だ。

「ごめん、ミケーレ。僕だよライルだ。ちょっと調べることがあって、リリィの子供の頃の姿になっていたんだ。」

「え?ライナちゃんってママの子供のときだって言うのは本当なの?」

「うん、本当だよ。ミケーレやマリアンジェラのお母さんになりたくて11年前の僕の中に入っちゃったんだ。ずっと三歳の大きさのままではお母さんにはなれないだろ?」

 ミケーレは悲しそうな表情をしたが、納得できないのか、捨て台詞を残して部屋に戻って行った。

 パンツ一枚の姿でクローゼットに置き去りにされた僕は、なぜかミケーレより落ち込んでいる気がした。

 ミケーレって、もしかしてライナの事が好きだったのかな?

 僕は部屋着を着て、アンジェラに戻ったことと、撮影に行った時に内容を教えるとメッセージを送った。

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