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445. 追跡(1)

 僕はまだモヤモヤした気持ちのまま自分の部屋に行った。

 マリアンジェラが僕のベッドですでに夢の中にいた。長いまつ毛を見つめてマリアンジェラの髪を撫でる。寝ていても見ていて飽きない。

 僕はマリアンジェラの首筋に手を当て、彼女の夢の中へと入って行った。


 マリアンジェラの夢の中では、ごく普通の日常が繰り広げられていた。

 少し違うのは、ライアンとジュリアーノが姿は赤ちゃんのままなのだが、いっちょ前に言葉をしゃべっている。

 とにかく落ち着きなく歩き回る二人にマリアンジェラとミケーレ二人がお兄さんお姉さんとして世話をやく、そんな夢だった。

 朝食の時にはスプーンを持たせ、パンをちぎって口に入れてあげ、口の周りが汚れたら拭いてあげている。

 外に散策に行くときには双子を真ん中に置き、左右はミケーレとマリアンジェラで手を繋ぎ四人で並んで歩く。

 しかし、ライアンがいう事を聞かず走りだそうとしたら、いきなりのいかづちが落ちた。

『ひやっ。マリーおねえちゃん、こわい』

『ライアン、走っちゃダメって言ったでしょ。』

『ぶー』

 そんなとき、ジュリアーノがスッ転んだ。『べちょ』とまるでリリィのスッ転び方にそっくりだ。

『ジュリアーノ、うちのママの転び方にそっくりだね。』

 ミケーレが言うと、ジュリアーノを起こしながらマリアンジェラも頷いた。

『だって、アンドレとリリアナの子供ってことは…うちのパパとママと全く一緒ってことよね?』

『そっか…。じゃあ、僕達と兄弟ってこと?』

『遺伝的にはそうなんじゃない?だってリリアナってママの一部でしょ?』

 そんなことまで知ってるんだな…。夢の中ながら僕は感心した。


 そんな夢の中で少し考えさせられる発言を聞いた。マリアンジェラがミケーレと学校に行く話をしていたのだ。

『ねぇ、ミケーレ。パパがマリーとミケーレも学校に行くって言ってたでしょ?』

『うん、言ってた。』

『ミケーレ、学校で大きくなっちゃったらどうするの?』

『え…困る。』

『だよねぇ…。』

 そうだ、ミケーレはまだ完全に能力をコントロールできていないのだ。

 アンジェラに話して何か解決策を考えてみよう。

 そのままたわいもないいつも通りの生活をして、砂浜でアサリを採ったりして楽しむ夢だった。

 夢からもうすぐ覚めそうな朝に近い時間帯、夢の中でマリアンジェラが僕に気が付いた。

『あれ?ライル…いつからいたの?』

『え?ジュリアーノがビリビリになりそうなところからかな…。』

『うしょ…結構前じゃん。いたならいたって言ってくれればいいのに。ライルとお手々繋ぎたかった~。ぶー。』

 かわいくむんむくれるマリアンジェラを抱っこして帰り道は5人で歩いた。

『ねぇ、ライル。犬の事なんだけど…。』

『え?犬?』

『うん。その飼い主が誘拐されたっていう犬。』

『え?なんでマリーがそんなの知ってるんだよ…。』

 マリアンジェラは右の口角をあげて、ニンマリ笑った。

『そりゃあわかるわよ。だって、抱っこしてもらったもん。』

『そういうものかぁ?』

『あ、それでね。その犬だけど、ライルはその犬に触れたんでしょ?』

『うん、洗ってあげた。』

『じゃあ、その犬のいるところに転移できるわよね?』

『そうなるね。』

『事件の起きた時間帯のその犬の場所に転移してみたら?』

『え?』

『車のナンバーを見るのよ。スマホで写真撮って、匿名で警察に送るの。』

『マリー、とても子供とは思えない発想だよ。』

『映画やドラマでよくあるパターンなのよね。スマホで撮影した中にヒントが隠れてる…なんちゃって。』

『そっか、直接は手を下してないけど…情報提供は可能かもね。』

 僕はなんだかマリアンジェラの意見に少し希望を見出したような気がした。

『マリー、じゃあ僕行ってくるよ。』

『うん、うまく行くように祈ってるね。』

 そう言うとマリアンジェラは急に大きな女神になり言った。

『あなたの優しい心に神の加護を…。』

 ピカッと眩い光が目の前を真っ白に染める。

『ビクッ』と体が驚いてしまった時に、僕は目が覚めた。

 あれ?僕、夢をみていたんだよね?スヤスヤと寝息を立てるマリアンジェラ。僕は

 現実に戻り、自分のやらなければいけないことを思い描きながら、即行動することを選んだ。


 僕は顔を洗い、身支度を整え、帽子を目深に被り、スマホを手に持ち、撮影の時に使ったキックボードを手にした。

 そしてスマホをキックボードのハンドルにガムテープで固定した。

 そのまま昨年の11月28日の午後4時20分の学校の寮に転移した。

 事件が起きたと思われる時間帯の30分ほど前だ。

 スマホの日付が変わっている事を確認し、学校の寮から外に出た。

 学校の門にはセキュリティのスタッフがいて、挨拶された。

「あ、ライルさん。外に行かれるの珍しいですね。」

「こんにちは。ちょっとキックボードに乗ってみたくなって…。」

 子供らしい行動に、微笑みながら門を開けてくれた。

「いってらっしゃい。」

「行ってきまーす。」

 僕は思い切りキックボードを走らせた。地図で確認したところによると、学校の寮から事件が起きたストリートの端までは約20分、そこからはスマホのビデオ撮影を開始する。ストリートの端から端まで行くのに8分かかった。

 折り返して、もう一度通ろうとした時、そのストリートの左側、手前から三軒目の家から『サム』と『ジェイミー』が出てきた。

 あまり近いとダメだ。少し待とう。

 スマホのビデオは継続して撮影中だ。もちろん、撮影ターゲットは『サム』と『ジェイミー』だ。

 30m手前をストリートの反対側を目指して散歩を開始したようなので、僕も少しずつ動き始めた。散歩を開始して5分ほどで、怪しい車が少し先のところで停まった。そこを『ジェイミー』たちが通り過ぎた直後、背後から男が『ジェイミー』の口をふさいだ。そして、もう一人女が『サム』を袋に入れた。

 男と女は『ジェイミー』の口にガムテープを貼り、後ろ手に腕もガムテープで縛り、袋に入れられた『サム』はリードごとトランクに放り込まれた。

『よし、車のナンバーが写ったぞ。』

 勢いよく走り去るグレーの錆びた車をキックボードを漕ぎながら見送った。

 ビデオをいったん止めた。

 そして、5分後の『サム』に少し離れたところへ転移した。

『サム』はまだ車のトランクの中の様だ。移動中の錆びたグレーの車はゆっくりと市街のあまり車の通らない道を走っていた。

 その数百メートル先で、運転席から男が降りたかと思うと、トランクを開け、『サム』の首輪を外し、『サム』を袋から出して道端の少し低いところに投げつけた。

 男は『サム』を殺しまではしなかった。ただ、『サム』が『サム』であることを証明できる名前の付いた首輪を外したのだ。


『サム』は気を失っていた。走り去った車を確認してから、僕は『サム』に首輪をつけ、怪我した部分を治した。僕は『サム』を道路に戻れる場所に置いた。

 これで君の名前は誰かに拾われればわかるからね。

 僕は『サム』から離れ、キックボードに乗ったまま、一本道の先を3kmほど転移で進んだ。さっきの車を追うためだ。

 車を見つけ、ビデオ撮影を開始した。距離を保ちながらの撮影だ、どこまで写っているかわからないが…。

 更に進むと、車は左に曲がった。そして、長い山道を、1時間以上も進んだ。

 このままじゃスマホの容量不足で動画が撮りきれないな。

 そんな事を考えている時、車が右の小道に入った。

 僕はその道には曲がらず、遠くから様子を伺った。

 錆びたグレーの車は、曲がった先の突き当りに立っている古そうな少し大きな家の前で停まった。

 そして、『ジェイミー』は車から外に出され、家の中に連れて行かれてしまった。


 ここが誘拐犯の住む家なのか…。僕はスマホのアプリで場所を確認した。

 そして一旦、アメリカの家の中にキックボードを持って転移し、玄関から外に出て学校の寮に戻った。

 その場で現在の時間軸に転移する。『ジェイミー』の安否を確認するためだ。

 僕は、さっき場所を突き止めたあの古そうな家の裏手に転移した。

 そして、意識を目に集中し、目的を『ジェイミー』とすることを意識した。

 目の前の窓も何もない壁が透けて、家の中が見える。

『うわっ』足元の土まで透明になり足が沈んでいく。2,3メートル沈み、足が埋まるのが止まった。イヤ、埋まると言うのは正しい表現ではない。

 足の下の物が消える現象というか、そこが無になると言う感じだ。

 僕は今土の中だ。そこから家の壁、そう、ここは地下室の裏手にあたる。

 そこから家の中を見ている状態だ。

 うっすらと物質の輪郭を残し、全ての物が透明に近くなっている。

 そんな中、地下室で『ジェイミー』を見つけた。

 彼女は生きていた。傷ついてはいないだろうか?

 怪我はしていない様だ。衣服は新しいきれいなものを身に着けている。

 地下室の部屋は、綺麗に内装されており、家具も用意されている。

 ただ、この空間で異様なのは、そこにもう一人いる人物、そう、そこにはもう一人の子供がいた。

 その子は男のなのだろうか…服装は男の子だ。しかし、髪は抜け落ち、顔は醜く歪み、体の動きもおかしい。もしかすると子供ではないのかもしれない。

『マーガレット、この本、読んで。』

『はい』

 命令という感じではないが、男の子が『ジェイミー』に『マーガレット』と呼びかけ、頼み事をした。

『マーガレット』は言われるままに本を読む。子供向けのお話だ。

 少しの間、僕はその様子を見ていた。『マーガレット』と呼ばれて返事をしている『ジェイミー』は、どうやらこの男の子の世話をしたり、話相手になっている様だ。トイレへの介助、着替え、食事の補助など。男の子は話は出来るものの四肢が不自由であるようだ。

 そこへ、誘拐した男と女が入ってきた。

『おはよう、ベン。よく眠れた?』女が聞いた。

『ママ、さっきマーガレットに本を読んでもらったよ。』

『そう、ありがとう、マーガレット。これは、今日のおやつよ。』そう言ってクッキーの缶を女は『マーガレット』に渡した。

 男は、地下の部屋に入ると内側から厳重に鍵を閉めた。

 上のキッチンで作った食事を運び込んだのだろう、地下のその部屋で、四人で食卓を囲み朝食を食べ始めた。『マーガレット』は食事も与えられている様だ。

 僕には何が起きているのかよくわからなかった。もう少し調べた方がいいだろう。

 僕は上の階のキッチンに壁をすり抜け侵入した。転移する場所として認識するためだ。深夜に戻って来よう。そして、男の記憶を読むのだ。

 僕は一度イタリアの家に戻り、着替えた。今日は平日だ、学校に行かなければならないのだ。

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