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442. アンジェラの新曲

 アンジェラがオンラインミーティングの後、僕だけに話した策と言うのは次のようなものだった。

 これから作成するミュージックビデオの中で、この前の動画と同じようにLUNAライルが赤い目を使った命令を下すというもの。その命令だが、杏子に直接話しかけると言うものだ。内容はこれから詰めるが、『何か僕達に危害を加える目的があるなら、声明文でも公にして何がしたいのか明らかにしろ』的なものがいいのではないかというのだ。僕はそれを聞き、こう答えた。

「アンジェラ、まぁ、第一段階としてはこれでもいいと思う。何故僕らを襲ったりするのか、あの宗教団体と杏子が絡んでいるのか知りたいからね。」

「第一段階というと、これでは不足しているというのか?」

「うん、だってさ、これで捕まっても大した罪には問えないだろうし、また同じことを繰り返すよ。暗示にかかるかどうかを知り、その上で杏子の記憶を抹消するとか、完全に排除しないとイタチごっこになると思うんだ。」

「それもそうだな。」

 どちらにせよ杏子が僕らに対して好意的ではない攻撃を仕掛けているのは明らかだ。

 そして今回の警察の捜査から、もう一つの懸念も思い当たった。

「アンジェラ、さっきの警察の報告の件でちょっと気になったんだけどさ…。」

「なんだ?」

「アメリカの家から車で30分ほど離れた先のさびれた町って、僕がリリィの時に病院から拉致されたっていう清掃業者のあったところかな?」

「…。そうかもしれん。」

「僕もリリアナの記憶から全部見たわけじゃないけど、確か教会とは別の建物に戻って行ったんじゃなかった?」

「そうだ。でもそこは排除した。」

「拉致されたことは警察に届けてないんだよね?」

「あぁ、届けていない。その前に教会とその清掃業者の施設をぶっ潰したからな。」

「アンジェラ、もしかすると、その街には一般人に紛れた関係者がまだまだ残っているのかもしれない。」

 僕達は、少しでも脅威を排除する方向でミュージックビデオに暗示を盛り込むこととし、アンジェラはその日の午後から楽曲を完成させるために隠し部屋にこもったのだ。


 マリアンジェラの話では、携帯に電話をしても出ないので、リリィが一日二回軽食を持って地下のスタジオに持って行っているらしい。

 こんなに根をつめて楽曲を作っているのは初めてじゃないか?

 いつもはパパっと作詞・作曲をして『タタ~ッ、はいできました』的な感じなので、もしかしてスランプ?とも思ったのだが、リリィからは作曲しているのはいつもと変わらない感じだったよと聞いた。


 12月3日、金曜日。

 学校に行こうと思い、クローゼットで着替えているとガタンガタンと廊下から音がした。部屋から廊下に顔を出して覗くとアンジェラが隠し部屋から出てきたところだった。

「あ、アンジェラ、お疲れさま。」

「おう、ライル、今から学校か?」

「うん、そうだけど。もしかして3日間も寝ないでやってたの?」

「そんなバカなことはしない。私だって眠くなるからな。下にはベッドも浴室もあるし、着替えもリリィが持って来てくれていたから、きちんと休みながらやったさ。」

「ならいいけど、ずいぶん長くかかったって思ってたから。」

「あぁ、ちょっとな…。それは、お前が学校から戻ったら話すよ。」

「あ、うん。わかった。じゃ、行ってくる。」

 僕はそう言って学校の寮へと転移したのだった。


 先々週からいくつかのテストがあり、それの結果を受け取ることが出来た。

 いわゆる期末テストだ。そう言えば、カウンセラーが成績表がどうのと言っていたが、どうなっているんだろう。

 不安になったため、授業が終わった後でカウンセラーのオフィスに寄った。

 ノックをしてドアを開けると、約束していなかったため、先客がいた。

 少し離れたところにある椅子に座って待つように言われた。

 先に来ていた生徒の話が終わると、僕の番になった。

「こんにちは。今日期末テストの結果が出たのですが、追加で大学に送るんですか?」

「あ、ライル君。こんにちは。君の成績表はちょうど間に合ったからね、願書をオンラインで送った後に他の書類と一緒に送付済だよ。心配しなくても大丈夫だからね。」

「あ、そうなんですか…。だいたいいつくらいに結果って出るもんですか?」

「早い大学はそろそろ出てるんだけどね。あなたが願書出したところは3月末くらいにならないと結果が出ない大学ばかりだね。」

「なんだか不安で。」

「そうだねぇ。また、すごいところばっかり受けちゃってるから、心配だよねぇ。不安だったら、少し下の大学にも願書を出した方がいいかもしれないね。」

「はい。」

 僕は話を終えその場を後にした。成績表は送ってくれてたんだ…。よかった。

 僕は一度寮に戻り、イタリアの自宅に戻ったのである。


「わっ」

 自宅の自分の部屋のクローゼットに転移すると、わざわざ椅子を運んできたのか、椅子に足を組んで座るアンジェラと、その膝の上でアンジェラにべったりくっついて眠るマリアンジェラがいた。

「おっ、帰ってきたな。」

「なんでこんなところにいるの?ビックリするからやめてよ。」

「すまん、すまん。マリーが今日はライルに夕飯のときについててあげると言ってきかなくてだな。ベッドに連れて行ってもここで待ってると言い張るから、付き合ってたんだ。」

 アンジェラがマリアンジェラを抱きなおして、前に向かせ優しく頭を撫でで起こしている。

「マリー、ほらライルが帰ってきたぞ。」

「あ、おかえり~。」

「ただいま、マリー。」

 部屋着に着替え、マリアンジェラを抱っこしてダイニングに移動しながら途中で融合する。いつも不思議なのだが、マリアンジェラは指を噛んでも血が出ない。

 イヤ、出ているのかもしれないけど、一瞬で傷がふさがり、跡形もなくなる。

 実は、僕の体も上位覚醒してからそんな状態だ。僕の場合は実際の生身の体は無く、血が出るように見えるのももしかしたらそのように見せているだけかも、と思っているのだが、やはり傷がついても痛くないし、傷は一瞬でキラキラになり消える。でも、アンジェラは普通に擦り傷とかしているから、上位覚醒しているからと言うわけではない様だ。しかも、マリアンジェラは普通に生身の体を持っている。歩きながら、あっという間に融合し、まるでマリアンジェラが僕の中に溶け込んだように目の前から消える。


 先にダイニングに移動していたアンジェラが夕食の準備をしてくれていた。

 今日は煮込みハンバーグとシーザーサラダだ。

 温めなおした鍋を目の前に置いて、取り分けてくれる。

 あぁ、やばい。お腹が『ぐぅ~』って鳴った。

「今のはマリーのお腹だよ。」

 僕は言い訳をした。アンジェラが普段見せない様な満面の笑みで頷いた。

「さっきも同じ音を出していたからな。」

 どうやら夕飯を食べてから数時間経って、すでにお腹が空いていたようだ。

 柔らかくトマトソースで煮込んだハンバーグはなんだか懐かしいような味だ。

 そう言えば、かえでさんがたまに作ってくれたものに似ている。

「なんだかこの煮込みハンバーグ、懐かしい味がするよ。」

 僕が思わずそう言うと、アンジェラが返事をした。

「そうだろうな。これはかえでのレシピでリリィが作ったんだ。無性にかえでのハンバーグが食べたいと言って、メールで亜希子にレシピを送らせてた。」

「なるほどね。おいしい。リリィも料理が上手になってきたね。」

「ライル、お前もそう思うか?私もそう思っていたんだ。お前と分離してからだと思うが、ずいぶんと頑張っていて、感心することも多いぞ。」

「そっか。一応、奥さんで母親だしね。」

「そうだな。」

 一通り食べ終わって、マリアンジェラとの融合を解く、ちょこんと膝の上に出たマリアンジェラがテーブルの上の鍋の中を覗いてアンジェラに言った。

「ねぇ、パパ。残ってるの食べてもいい?」

「マリー、食べた後にちゃんと歯を磨くんだぞ。」

「うん。」

 返事する前に僕の隣の椅子に座り直し、アンジェラが取り皿やフォークを出してくれるのを待っている。

 お腹が激しく『ぎゅるるるる~ッ』っと鳴った。

「おほほほ…」

 上品に笑ってごまかしたのを見て、僕とアンジェラも顔が緩む。

「マリー、君は本当にかわいいよ。」

 マリアンジェラは嬉しそうに煮込みハンバーグを責めていた。


 マリアンジェラが食べている最中だったが、アンジェラが僕を待っていた最大の理由である、楽曲のデモ音源を見せてくれた。

 撮影は地下のスタジオで、楽器はアンジェラが演奏しているものと、シンセサイザー等を使用して疑似音を出しているものを使っているそうだ。

 その音にこだわってしまい時間が余計にかかったらしい。

 ピアノをベースにヴァイオリンとフルートなどの音も加え、クラシックっぽい構成にしている様だ。

 少し長いイントロが流れ、歌が始まる。


 ♪あぁ、愛の歌 歌う小鳥のように

 ♪いつまでも 君のすがた 目で追うんだ


 ♪あぁ、始まりは 忘れるほど遠い過去

 ♪くりかえす 何度でも 僕の悲しみが


 ♪傷つきたいことなんて 一度もなかったけれど

 ♪僕を守る 君に会えるのは

 ♪いつでも 僕が 生きる望みを失いかけたとき


 ♪あぁ、大切な~ 君のために

 ♪かけつけるよ どんなときも~

 ♪どんなことがあっても いつでも

 ♪君だけを、愛しているのだから


 ♪ラーララララーララララ~


「これって、もろにアンジェラの話では???」

「うっ、わかるか?」

「そりゃ、わかるよ。」

「私は作り話はできない性格でな。」

「そんな気がするね。まぁ、音楽も歌詞もいいと思うよ。この音源いいね。

 バンドじゃなくクラシック系の静かなメロディーが天使の姿を連想させる気がする。」

「だろ?そこに今回はこだわったんだ。それで、デモ動画を作ろうと思っているんだが、協力して欲しい。」

「うん、いいよ。どこで撮るの?」

「家の地下室と聖ミケーレ城とうちの裏の森にしようと思っている。」

「ふうん、もう案は固まっているの?」

「今、まとめているところだ。」

 僕が撮影の日程が決まったら教えてと言ったところで今日の話は終わりとなった。


 僕と一緒にマリアンジェラにも歯磨きをさせて、僕の寝室に一緒に戻った。

 今日も眠るために協力してくれるらしい。

「マリーいつもありがとう。マリーが来てくれると安心して眠れるよ。」

「えへへ。マリーも楽しい夢見られるから…。」

 そう言ってベッドにもぐりこんだ。

 僕はマリアンジェラの首筋に手を当て、夢へと深く落としていった。


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