441. ハッキング犯人の出頭
11月30日、火曜日。
11月30日まではサンクスギビングでアメリカの僕の学校は休みだった。
ゆっくり過ごそうかと思っていた矢先、少し事が動いた。
そう、あのアンジェラの会社の本社サーバーをハッキングした犯人が逮捕されたのだ。
あの動画の効果があったのか?詳しく話を聞きたくて僕はうずうずしていた。
朝10時過ぎ、アンジェラが書斎でローマの事務所の人達とオンラインミーティングをしているようだった。
僕の事を呼んでいるというので、書斎に入ってきたところだ。
そこへ、電話がかかってきたのだ。アメリカの東海岸ではまだ朝4時頃だと思うが、警察も報告したいことがあったらしい。
最初に警察から捜査に関連した電話がかかってきたのは昨日の夕方だった。
それによると、警察の担当刑事の話では、2日前に自分が犯人だと名乗る男が二人、別々の場所で警察署に出頭してきたそうだ。
一人は、30代の男で、以前プログラマーの仕事をしていたが、現在無職…金に困って闇バイトの募集に応募したらしい。報酬は現金で郵送されてきたらしく、1万ドルが入っていたらしい。
その男は今回の画像の他にも経理の情報などのデータもハッキングしたが、ファイルの暗号化が外れず、それは依頼主に渡していないらしい。
もう一人は、20代前半の大学生。遊ぶ金欲しさに、もう一人と同じく闇バイトでハッキングをしたようだ。こちらの男は、アンジェラが住んでいる場所の特定できるようなデータを探すように依頼され、アメリカの家の購入に関わるデータを入手し、渡していた。そして、報酬は現金で郵送されており、同じく1万ドルが届いたらしい。後者は昨年の9月頃の話だと証言したらしい。
この二件とも依頼者がいるとして、警察で関連性も含め捜査を行っているのだが、まずは実行犯と依頼者とのやり取りを検証し、実際に届いたとされる現金の封筒や郵便の出どころを調べていたそうだ。
さすがに昨年の9月の分は封筒も捨てられており、追えなかったらしいが、最近の方はまだ封筒も現金も残っていたようだ。
それによると、封筒が送られたのはアンジェラが購入したアメリカの家から車で30分ほどのさびれた町の小さな郵便局らしい。
監視カメラなどはないが、郵便局員がその封筒を送った人物を覚えていたと言うのだ。覚えていたと言っても、知っている人物だというわけではない。
容姿がその辺りでは珍しい東洋人だったからだ。
郵便局員が言うには『髪はストレートで長く、色白で細い体型、手足の長い美人』だと言う。その説明を聞いてアンジェラは思い当たる人物がいた。
由里杏子だ。
アンジェラは以前もう一つの世界のアンジェラに杏子の所在を確かめてもらおうと描いた似顔絵を警察に渡した。そしてその郵便局員に確認してもらったのだ。
そして、その結果を知らせる電話が今入ったのだ。
「はい、私です。ええ、はい。あ、やはり。そうですか。はい、引き続きお願いします。」
アンジェラが電話を切った。
「ライル、あの似顔絵の女と郵便局で金の入った封筒を送った女は同一人物であるだろうと郵便局員が証言したそうだ。」
「そうか…杏子がこの世界にいるってことだね。」
「あぁ。そして私達を狙っているのだろう。」
「そうなんだろうね。逆恨みやめて欲しいけど。」
アンジェラは、そこで一旦僕との会話を中断し、オンラインミーティングに繋いだ。
「皆、聞いてくれ。ハッキングの犯人が捕まったが、実行犯だけだ。これからも操作は継続する。そして、これは捜査とは関係ないのだが、反響もあった様なので、この前の動画に使った楽曲を、本格的に形にしてまた同じ女優を使って動画を作成してオンデマンドで配信しようと思う。」
オンラインミーティングに参加しているスタッフから歓声が上がった。
『あの女優さんて誰なんですか』
スタッフから質問が出た。
「芸名はルナだ。後は公表しない。基本しゃべらせない、うちの動画にだけ出すつもりだ。」
『ほぉ…。』
意味不明のため息がスタッフから漏れた。
アンジェラには、一つ策があった。それがどのようなものか、オンラインミーティングが終わった後で、僕にだけ伝えられた。




