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44. アンジェラの死

 今日、父様が家族全員に会議の招集をした。

 夕食の時間に食事をとりながら相談して決めたい事があると言う。

 皆、特に気にも留めず、徠人に至っては軽口で返していた。

「いつもみんな一緒に飯食ってるだろ、急にかしこまって気持ち悪いな、おまえ。」

 父様はこの家の長のはずなんだけど、苦笑いするのみだ。

 ぐちゃぐちゃ文句言ってたのは徠人だけで、アンジェラもアがズラィールもいつも通り夕食に集まってきて、ディナー会議が始まった。

 父様が会議の開始を宣言する。

「えー、じゃあこれから朝霧家の今後を決める会議を行います。」

「はぁ?何言ってんの徠夢。そんなの聞いてねえし。」

 徠人が文句を言い始める。

「まぁまぁ、とりあえず聞こうよ。ね、徠人。」

 僕が父様をフォローすると、徠人も渋々黙った。

 父様が続きを話し始める。

「実はね、ここ一か月くらい皆で生活してて、あることに気が付いたんだ。」

 ちょっと、みんなの注目が父様の方へ向いたっぽい。

「僕は獣医をしている。ライルは小学生。徠人は動物病院を手伝ってくれているけど、小学校も出ていない。アズラィールもこの時代ではそうだ。

 アンジェラは一応アーティストとして働いて収入もある。」

 そう前置きしたうえで、父様には珍しく、はっきり言った。

「徠人とアズラィールはちゃんと勉強をして、大学くらいは出なさい。

 お金のことは気にしなくていいから、努力すること。いいかな?」

 あ、徠人が逃げようとしてる。僕は徠人の服の裾を掴んだ。

「おまえ、裏切るのか?」

 いやいや、裏切ってないし。前から徠人は言われてたじゃないか。

 父様が話を続ける。

「アズラィールがこっちに転移してから、もう一か月以上経って、多分もうどこかに転移しちゃうってことはないんじゃないかと思っての話だよ。」

「父様。そういうことですね。確かに、アズラィールが最初に来たときは自分のいたその時代に帰って行くものだと勝手に解釈していましたけど、アンジェラも昔ここに来た時に三年後に行ってそのままだったし、考えようによってはアズラィールが日本の江戸末期に行ったのは事故だったのかもしれません。」

 父様はドヤ顔で話を続けた。

「そう、その通りだよ。ライル。この時代で生きていくには、それなりの勉強も必要だろう。さあ、徠人、アズラィールどうしたいのか自分の気持ちを聞かせて

 おくれ。」

 アズラィールが最初に口を開いた。

「僕は、医者になりたいと思います。僕がライルに助けてもらったようにはいかないと思うけど、誰かの助けになりたい。」

「偉いよ、アズラィール。時間はかかるかもしれないけど、元々薬の知識もある。きっと成功するよ。」

 僕は素直にアズラィールを褒めた。

 で、徠人はと言うと…。

「むー。このままじゃダメなのか?」

「徠人、動物病院は獣医がいないとできないんだよ。もし、僕が急に死んだりしたら、徠人の仕事もなくなるじゃないか。」

「ぐぅー、勉強は嫌いだ。」

 あ、やっぱりね。そうだと思った。

「徠人が僕と同じ年だったら、一緒に学校に通えるのにね。」

 僕がそんな安易な事を言ってしまったせいか、徠人はアズラィールやアンジェラにしつこく「若返る方法とか見た目を変える方法はないのか?」と聞いていた。

 僕はアダムが子供から大人の人型に変わったのを思い出していた。

「徠人、アダムの中にいたときに子供だったのに、急に大きくなっただろ?あれってどうしてかわかる?」

「そんなもん。わかるわけないだろ。」

「誰かの能力なのかも、って思ったんだけど。」

「おい、アンジェラ。そのチョーカーってどこで手に入れられるんだよ。

 それ2つ使ったら年が逆に若くなってくとか、ないのかよ。」

「なるほど~、面白いこと考えますね。この封印の羽はドイツに行けば多分手に入ります。アンナおばさんに聞いたことがありますよ。

 滅多に生まれない男児を守るために必ず男の子が生まれたら祝福と共に授けられるって。それで私も持ってるんです。

 徠人ももらう資格あるんじゃないでしょうか。」

「アンジェラ、どこで手に入るかもうちょっと詳しく知ることは出来ないか?」

「じゃあ、ドイツの親戚に聞いてみますよ。あと、私は来週水曜日から一週間ヨーロッパでツアーがありますので、留守にします。」

「そうか、気を付けて行ってくるんだよ。」

「はい、父上。」

 アンジェラが嬉しそうにアズラィールの言葉に返す。

「あ、それさ。外で言わない方がいいぞ。若い男におっさんが父上ってなんかいかれたプレイみたいだろ。な。」

 徠人、確かに君は正しいよ…。そこで父様が提案をする。

「そうだね。嘘になってしまうけど、こればかりは真実を通すと僕たちが狂ってる様に見えちゃうだろうから。アンジェラとアズラィールはドイツから来た兄弟ってことで、名前で呼び合う方がいいと思うな。」

「僕もそれに賛成。あと、父様。アズラィールの戸籍ってどうなりますか?

 このままじゃ大学に行けませんよね。」

「それもそうだな。アンジェラ、ドイツの方では今までどうしていたんだい?」

「それなら私の方で何とかできます。協力者がいますので。」

 そんなわけで、アンジェラの協力の元、まずはアズラィールの戸籍を作るところから準備をすすめることとなった。


 十月十九日火曜日、アンジェラがヨーロッパツアーに出発する日。

 朝から、部屋を出たところでアンジェラと徠人が出合い頭の衝突をしてしまったようで、アンジェラが鼻血を出したらしい。

 鼻にティッシュを詰めて、とても世界的なアーティストには見えない状態で機嫌悪そうに徠人に文句を言っていたが…。

「私の顔に傷でもついたらどうするんですか?責任取って代わりにツアーに行ってもらいますよ。徠人くん。」

 それこそ、ツアーで下手くそな歌を披露して大変なことになりそうだけどね。

 ドアベルが鳴ってアンジェラのマネージャーが迎えに来た。

 午前中のスペイン行きの飛行機でヨーロッパ入りするそうだ。

 アンジェラは一旦自分の部屋に戻り、鼻に詰めたティッシュを取って、スーツケースを引いてきた。鼻はまだちょっと赤いけど、大丈夫そうだ。

 みんなで玄関前でお迎えの車を見送った。

 なんだかアンジェラが今日から少しの間いないと思うだけでとても寂しい。


 アンジェラを見送った後、僕も学校へ行く。

 今日は徠人とアズラィールがアダムの散歩がてら一緒に校門まで送ってくれた。

 徠人は最近アダムのうんこをアンジェラかアズラィールに掃除させている。

 どういう上下関係が形成されているのか、すごく変な感じだ。

 校門の前で二人と別れ、教室に入ると、出た、僕の一番苦手な橘ほのかだ。

「ちょっと、朝霧君。どうして今日はアンジェラ様がいないの!毎日の心のよりどころとしていたのに…。」

「お前に関係ないだろ。アンジェラだって仕事があるんだよ。」

「え、どっかでコンサート?ライブ?いいなぁ、生で歌声を聞きたいわ。」

「知らないよ。お金出して行おまえもけばいいじゃないか。」

「アンジェラ様の歌声を生で聞けるのは限られた者にのみ許されるのよ。コンサートもライブも告知は一切なし、招待状が届いた者にだけそれは許されるのよ。」

「へぇ、知らなかった。九月に見たけど。」

「マジ?ねえ、マジ?」

「そんなのどうでもいいだろ。アンジェラはしばらく日本にはいないよ。」

「そういえば、あんたの叔父さんって言ってた人、なんであんなにアンジェラ様に似てるのよ。」

「おまえ、しつこいな。親戚だからに決まってるだろ。」

 橘ほのかがジト目で僕を見る。まじ、ウザい、この人。

 学校が終わるのが待ち遠しくなるよ。


 学校からの帰り道、徠人とアズラィールが迎えに来ていた。

 徠人は相変わらずの過保護丸出しで、僕に手を繋げだの、そっちは危ないだのうるさく言っている。

 僕は何となく、徠人が将来何になりたいのか聞いてみた。

「徠人は将来何になりたいの?」

「う~ん、何も考えてないな。お前が俺を養ってくれ。」

 そう来たか…。なんだか徠人らしいな。でも嫌じゃなかった。

 ずっと楽しく暮らせたら、それでもいいかなと思った。

「考えとくよ。」

「おう。たのむぞ。」

 アズラィールが横で爆笑している。なんだか今日も楽しいな。


 家に帰ると石田刑事が来ていた。

 あの拉致に関与した女性に会うかどうかの話をしに来たようだ。

 父様がかなり慎重ではあったが、その人が知っていることを全部聞き出したいということもあって、留置所での面談で、こちらからは父様、徠人、アズラィールと僕の四名が出向くことになった。

 こちらの条件は、面談の録画だ。

 石田刑事は関係者と打ち合わせて日程を土曜日、四日後の午後一時と決めた。


 すぐにその日は訪れた。

 こちらで用意した録画用のビデオカメラの他に警察が用意したものも複数回され、面談がスタートした。

 犯罪に関与したとは思えないほど、当人の女性心から謝罪をしている様に見える発言をした。

「天使様。お目にかかれて光栄です。そして、私の命を救っていただきありがとうございます。自分の意思ではなかったとしても、天使様を傷つけようとしたこと、本当に申し訳ありませんでした。」

 女は涙ながらにそう言った。

 そこで、徠人が厳しい一言を発する。

「あんた、無理やりその、なんとかって宗教に実験させられてたって本当か?」

「はい。」

「じゃさ、何で、こいつの事、いまだに天使様なんて言ってんの?名前知ってんだろ?」

「あ…はい。知っています。でも助けて頂いたことを思うとお名前では呼べません。」

 女は少し涙目になりそう言った。

「じゃあさ、こっちの二人、見てどう思う?」

「え、あ、あ、あ、ああああ…。」

 どうやら何かに気づいた様子だ。

 僕はパニックになりかけたその女の人にいくつか質問をした。

「あの、大丈夫ですよ。落ち着いてください。こっちが父で、こっちが従兄弟です。

 ちょっと聞きたい事があるんですが、どうして遺伝子なんか調べてたんですか?」

「はい、あの。サンプルAという遺伝子と全く同じ遺伝子を3つ見つけることが私たちに課せられた仕事でした。理由は天使様を探すことだと聞いています。」

「普通、同じ遺伝子は複数存在しないでしょ?」

「三つ子だと聞きました。」

 本当かどうかはわからないな。嘘ついてるかもしれないし。

 その時、普段はおとなしいアズラィールが発言した。

「目的はなんだ?」

 あ、ヤバい、目が赤くなっちゃってるよ。

「神を蘇らせるために生贄とするためです。」

「神とは何だ?」

「わたくし達を幸せに導くために天より降りてこられた尊き神です。」

「その神はどこにいる?」

「神聖な地、ユートレア神殿。」

「生贄とはどの様に供するのだ?」

「神の御前に十二体を集め、一度に魂を捧げるのです。」

「なるほど、十二人一度に殺すという訳だな?」

「はい。」

「今、何人集まっている?」

「九人です。」

 アズラィールがため息をつき、僕たちに小声で話す。

「こいつは黒だ。野放しはまずいよ。」

 だよね。脅されてたやつが神とか生贄とか知ってるわけがなかろう。

 僕たちは石田刑事に調査のし直しをお願いした。そして、ユートレア神殿と生贄についても調査をお願いしたのだ。


 翌日、十月二十四日日曜日。

 朝、アズラィールにアンジェラからメッセージが来ていたらしい。

 今日、日本時間の朝九時にイギリスのライブイベントの会場から生中継でライブが放送されるらしい。

 イギリスでは深夜零時、観客は入れずにメディアと撮影スタッフとイベントスタッフのみが現場に入るんだとか…。

 なんと、ライブ会場は海の上に設置したセットなんだって。

 しかも、滅多に生中継なんてないだろうから、よかったら見て欲しいって。

 そういえば、アズラィールはアンジェラのライブには行ってないんだったな。

 僕たちは全員で朝食を終えた後、ダイニングのTVをつけてその時を待っていた。

 ライブイベントが始まった。アズラィールは終始目が点。アンジェラのちょっとセクシーな衣装も気になったようだが、何しろいつものぐにゃぐにゃした感じは一切しないシャープな美しさだった。

 いよいよ最後の曲、これはこの前のライブで聞いたやつと同じだ。

 やっぱり、この曲が一番心に響く、でも翼が出ても平気なのかな?

 演出だと言い切ってしまえるのかな?

 なんて思いながら、見ていたら何やら変な人影が小型のボートでアンジェラに近づいてきた。

 演出?と思ったその時、その人物はステージに上がり刃物でアンジェラに切りかかった。

「ドスッ。」

 という鈍い音をマイクが拾い、スタッフの悲鳴が聞こえる。

 アンジェラはそのまま襲撃者ともみ合い海へ落下した。

 その時のアズラィールの恐怖の表情は忘れることが出来ない。

 たくさんのスタッフが、警備の人間がいるはずだ。

 しかし、一分、二分経ってもアンジェラの姿は海面に上がってこなかった。


 僕は、1つ賭けにでた。

 誰にも告げずにアンジェラの部屋へ行った。

 洗面台の側のゴミ箱を漁る。

 そして、徠人に頭の中で話しかける。

「ごめん。僕、行ってくるね。」

 アンジェラの血がついたティッシュを掴んで、僕の意識は自分の体を離れた。


 目を開けると真っ暗な水の中だった。

 アンジェラはやはり意識を失っていた。

 僕は、自分の肉体を置いたまま、アンジェラの中に転移したのだ。

 呼吸をせずに堪えうる残された時間を、力の限り海上へ浮上するために使う。

 体が、緑色に発色し、今まで感じたことのない力が漲る。

 急げ、一秒でも早く、海面へ。

 長い時間に感じた。でも海面へ到着することはできた。

 呼吸を整え、腹部の傷を癒す。

 海の水が冷たい、少し波が荒い。傷は、そんなには深くない。

 早く、血が大量に流れ出る前に傷口よ塞がれ。

 どうにか傷をふさいだ頃、救助のボートがきた。どうにかボートに引き上げられた。

 だめだ、アンジェラの意識が戻らない。脳にダメージがあるのか?

 僕は頭に手を当て治癒を試みる。

「お願い。アンジェラ。戻って!」

 あたまの中で僕は絶叫に近い叫びを吐いた。と同時に僕は意識を手放した。


 僕は目を覚ました。

 いや、ちがうな。どこか別の体に転移したのかな?

 手足も瞼も自由が利かない。

 目は半開きで、鼻にはチューブ、喉には穴が開けられていて呼吸器がついている様だ。

 あっ、誰か入って来た。

「ライル、どうだ今日の調子は?朝九時にならないと病室に入れないからな。さびしかったか?ごめんな。」

 そういって、僕の頬を触り頭にキスをする。

 え?だれ?このおじさん?って徠人?げげっ。

 どっからどう見ても五十歳は行ってる。ってことは、僕は二十年?くらい寝てたってこと?え?え?アンジェラはどうなった?

 情報がなさすぎる。

 そこへもう一人のおじさん登場。

「徠人、来てたのか?」

「あぁ。」

「今日でアンジェラが亡くなって25年か、まさかナイフに神経毒が塗ってあるとは世界的に有名なアーティストも、狂ったファンにやられちゃおしまいだな。」

「まさか、アンジェラがライルまで連れて行っちゃうとは思わなかったな。」

 え?あのナイフには毒が塗ってあったの?刺された時点でアウトってこと?

 あぁ、アンジェラ、助けられなくてごめんよ。

 そして、僕の意識は完全になくなった。


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