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439. ジュリアーノの暴走(1)

 11月28日、日曜日。

 サンディエゴでの二日目の朝。

 朝食を部屋に運んでもらい、食べ終わった後、僕たちは少し部屋でゆっくりしたあとで、すぐにイタリアに帰る予定だ。

 何しろ時差があるため、ここでゆっくりしてしまうと、翌日の朝になってしまう。

 転移という能力のおかげで移動に時間がかからず一泊で旅行ができるのはありがたいのだが…。

 せっかくアメリカ西海岸に来たのだからと、帰る前に海岸を散歩することにした。


 割とビーチは広く、ビーチの前には貸別荘がずらっと建ち並んでいる。

「へぇ、こういうところの貸別荘もいいね。」

 僕が言うとアンジェラがこっちを見て言った。

「ライル、一棟ほしいのか?」

「いや、そんなこと言ってないよ。こういうところを借りても楽しそうだねって言う意味だよ。」

「そうか…。」

 全く、下手に大金持ちだと何でも買って解決しようとするから困る。

 小さい別荘でも、ビーチフロントだと最低数億はするだろう…。僕もそんな物件をポンと変えるくらいの資産家になりたいな。単なる願望の域を出ないけどね。


 マリアンジェラとミケーレがサンダルを脱いで、海の水に足をつけた。

「ひゃ~」

「ちゅべたぁ~い」

 どうやら、季節外れの海の水は相当冷たいようだ。

 子供達は、ちょっと変わった貝殻を拾ったり、掘った砂に潜む変わった甲殻類で遊ぶのに夢中のようだ。

「ねぇ、ライル。ここにはきれいな貝殻は落ちてないね。」

「そうだな…。アサリの殻みたいのばっかりだ。ほら、マリーこれなんか、普通のアサリだよ。」

「ほんとだね。美味しそうだね。」

 そ、そっちか…地味な柄の貝の残骸を見つけて僕たちは苦笑いだ。


 その時、後ろで叫び声が…。

「こらぁ~、まて!」

 僕達が右後方を見ると、今、まさに大きく押し寄せる波の下にジュリアーノがダダダッと走って行ってしまった。

 しかし、周りに家族以外の人達もいるため、リリアナが転移や翼を使わず、慌てて駆け寄っているだけだ。

「あっ」

 そんな声をミケーレが発した。

 無情にも大きな波がジュリアーノを飲み込んだ。

 だめだ、間に合わない。僕が能力を使おうとして数歩前に出た時。ミケーレが冷静な声で言った。

「大丈夫。僕が行ってくる。」

「え?でも…。」

「ライル、知ってるでしょ?僕の周りには空気の層ができるの。僕が探して来るよ。待ってて。」

 リリアナが不安げな顔で頷いた。


 ミケーレが勢いよく海の中に走って行った。まるで、そこには何も存在しないかのように躊躇も抵抗もなく…。ただ、そこにいた人々には海の中に無謀にも入って行く二人目の子供としか映っていなかった。

 近くにいた一般人が警察に電話をかけている。

 それをリリィが制止した。

「あ、あの…うちの子、いつも海で泳いでいるので、多分すぐに戻ってきますから、少し電話は待ってもらえますか?」

 そんな事をいう薄情な親がいるものか、と言わんばかりの表情をされたが、ここで警察を呼ばれれば、大事になってしまうのは間違いがない。

 それに、騒ぎを聞きつけて集まってきた人が少しずつ増え、一部の人はアンジェラとライルの存在に気づいてしまった様だ。

 その時、アンジェラが動いた。

 勢いよく海に向かって走り、ひざ下くらい水につかったところで水中から子供を抱き上げた。抱き上げられたのはミケーレだ。そしてミケーレは、リードを掴んでいた。リードの先にジュリアーノがぶら下がりジタバタしている。


 周りに集まっていた人たちから拍手が起こった。

「ミケーレ、よくやった。えらいぞ。」

 アンジェラはミケーレを褒め、額にキスした。リリアナは駆け寄ってジュリアーノを抱きしめ、ミケーレに礼を言った。

「ミケーレ、ありがとう。本当に助かったわ。」

「えへへ、リリアナ、ジュリアーノすごいんだよ。砂の中に穴を掘って潜って行こうとしたんだ。ギリギリでヒモを掴んだけど…。もう離さないようにしてね。」

「もちろんよ。」

 見ていた人たちにはアンジェラが子供を助け、その子供がもう一人のリードを掴んでいたようにしか見えない。

 そして今回、不思議なことが起きていたのだ。

 アンジェラにはミケーレの声が聞こえたのだ。

『パパ、ジュリアーノが砂に潜っちゃって抜けないの。いっしょに引っ張って。』

 という声だった。だからアンジェラはミケーレを抱き上げたのだった。

 他の者には一切聞こえなかったが、二人は口からは言葉を発することなく会話したのだ。ミケーレもアンジェラからの『わかった、今行く。引き上げるぞ。』という声が聞こえていた。

 同じDNAのなせる業なのか、あるいは二人同時に発言した新たな能力なのか…。

 そして…ジュリアーノの手にイセエビの尻尾が握られていたことを知っているのはリリアナだけだ。

 そう、まだ誰も気づいていないが、ジュリアーノには数メートル~数十メートル先の物が透視できる能力があるのだ。海の中であろうと、砂の中であろうと彼にはイセエビが『おいで、おいで』と誘っているようにしか見えなかった。

 しかも、今回は砂であったが、岩でも、木材でも一時的にすり抜けることが出来るのだ。これはライナ(リリィ)が持っている能力と同じものだ。

 砂にもぐったのではなく、砂をすり抜けてイセエビをゲットしたのだった。

 後にミケーレの朝の散策で検証されることになるが、ジュリアーノにもミケーレの体を中心に発生する空気の保護膜に似たものがあったのだ。それは紫色のオーラでできており、短時間であればその中で呼吸も可能だ。


『世界のトップアーティスト、海で我が子を救助』なんていうタイトルで上げられた動画がその日のうちにネット上で話題に上った。

 その他にも『アンジェラに瓜二つの弟がいた』『アンジェラの弟はアンジェラの妻の妹と結婚していた』などという記事まで出る始末だ。

 どうやらアンドレとリリアナまで目立ちすぎてしまった様だ。

 その記事の中でひときわ話題を呼んだのが、『まるで妖精のような少女』としてライルと一緒に死んだアサリの殻を棒でつついているちびっこマリアンジェラの写真だった。ライルに抱っこされたり、手を繋いで歩く写真がたくさんネット上に流れた。

『ライルの隠し子?』とまで噂されてしまい。

 翌日、アンジェラの芸能事務所のオフィシャルサイトで、名前を伏せつつも、ネットで話題に上っている女の子はアンジェラの娘だと公表したのだった。


 しかし、これに対して怒りをあらわにした人物がいた。

 徠夢とアズラィールのおじいちゃんコンビだ。すぐに電話がかかってきて、散々文句を言われた。

『もっと変装とかして外を歩けよ。報道陣が家の周りでお祭りかってくらい騒いでるぞ。』

『こんなに騒がれては、今度来るときに怖くてマリアンジェラを外に連れて行けないじゃないか…。』

 どうやら孫娘の素顔がさらされるのは気に入らなかった様である。


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