435. サーバーダウン?
11月27日、土曜日。
朝食を終えたあと、アンジェラは散策に行かず、書斎で動画の反応を見る予定となっている。せっかくの休みなので、僕は散策に行くことにした。
もう、海は寒いから最近はもっぱら温室と森の方に行くことが多いようだ。
今日はリリアナとアンドレ、ライアンとジュリアーノもいる。
双子には犬のリードのような紐がついていた。
「リリアナ、すごいなこの紐、まるで犬の散歩…。」
「ライル…仕方ないのよ。賛否両論なのはわかってるわ。でも、一瞬でも目を離すとぴゅーってどっかに飛んで行っちゃうんですもの。ミケーレとマリーがどれだけおりこうさんだったか、今になってわかるわ。」
「そんなに違うの?」
「そ・ん・な・に・違うのよ。同じDNAからできてるとは思えないわよ。」
それを聞いてアンドレが頭を掻いて言った。
「人生経験の違いとかなのか…?」
「いや、それ違うと思うけど…。」
僕は一応フォローしたよ。生まれた時から覚醒しているだけで、普通の能力とは比べ物にならないのだから…。
ミケーレは独自の能力を有していて、それはまだ未知数だけど、マリアンジェラは僕とリリィから受け継いだ、他の個体が有する能力をコピーすることが出来るのだ。
それは、普通の人間からも同様に能力をコピーすることが出来る。正直に言って万能とも言える能力だ。
マリアンジェラは独自の能力『浄化』や、相手の心を読み取る能力も持っている。
ヘタな嘘なんか言えないのだ。
まだ、本人が幼いせいもあって、全ての能力を使いこなしているわけではないが、いずれ、僕やリリィなんかより上をいくのであろう。
そんな事を脳内で反芻していると、温室に着いた。
ミケーレが嬉しそうに走って中に入って行く。
「ピッコリーノ…どこにいるの?」
ミケーレが言うと、もうヒヨコよりニワトリの小型版くらいになったピッコリーノがすごい勢いで走ってきた。
「ピィー」
ミケーレがピッコリーノを抱き上げ、頭を撫でる。かわいがっているんだな。
どうやらピッコリーノはメスだったようで、もっと大きくなれば、たまごを僕達に供給してくれるだろう。
ミケーレの最近の日課は、ピッコリーノの寝床の掃除、エサやり、そして遊んであげることだ。ミケーレが行くところ行くところにピッコリーノがついて回る。
生まれた時に側にいなくても刷り込みされているのか?そう思ったのだったが、様子を伺っていると違ったのだ。
ミケーレは、動物と会話をする能力を有しているように見えた。
「ピッコリーノ、ほら、こっちのお野菜も食べないとダメだよ。」
「ピィ?」
ピッコリーノが野菜を食べる。
「ピッコリーノ、喉詰まったら困るから、お水も飲んで。」
「ピィ?」
ピッコリーノが水を飲んだ。
父様と同じ動物と話せる能力があるのだろう。これで傷や病気を癒せる能力があれば、かなりいいんだが…。さすがにそれは無さそうだ。
ミケーレは一通りいつものルーティーンをこなすと、ピッコリーノを撫でて『また明日ね』と言った。ピッコリーノはミケーレの膝から下りた。
温室が出来てから、ニワトリも温室内で飼育されているのか、温室の中のあちこちに卵が落ちている。
ミケーレは片っ端からそれを拾い、僕のところに持ってきた。
「ねぇ、ライル、これ全部たべられる?」
ミケーレは遠回しに、ヒヨコになりかけている卵がないか聞いているのだ。
「全部食べられるよ。」
「ありがと。」
そう言うと、バスケットに卵をきれいに並べて入れ、持って帰る物と一緒に置いた。几帳面で真面目な性格がアンジェラにそっくりだ。
マリアンジェラはと言うと、温室の中だと言うのでリードを外された双子があっちこっち逃げ回るのを、お姉ちゃんモードで追いかけている。
「ちょっとぉ、ピンクのちびっこ。待て~。」
すごく楽しそうだ。リリアナとアンドレは生暖かい目で遠くから見ている。
イヤ、疲れ果てて捕獲に参加する気も起きないと言った感じだ。
わちゃわちゃしているとアンジェラから電話が来た。
「もしもーし。どうしたの?」
僕が言うと、アンジェラの声が若干震えているように感じる。
「まずい、ライル。まずいぞ。」
「どうしたの?アンジェラ、わかるように言ってよ。」
「アクセス数が多すぎてサーバーが落ちた。」
「え?そうなの?どうして?」
朝の情報番組で取り上げられてしまったらしく、その内容は微妙だった。
『天使』について詮索したりするものではなかったが、この完璧な美貌の持ち主は一体誰か?アンジェラの芸能事務所に所属しているタレント説、アンジェラの守護天使説、そして、期待の新人説。最後のが有力で、そのためのプロモじゃないかという憶測まで出ていたほどだ。
「はぁ~…僕に何かできることがあったら言ってよ。」
「わかった。とりあえず早めに切り上げて帰って来てくれ。」
「了解。」
僕はリリアナ達に事情を話し、マリアンジェラとミケーレと共にアトリエに戻った。その時の時間は午前10時12分。
あまりにも忙しい土曜日の始まりである。




