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434. リアルエンジェル・プロジェクト(3)

 11月26日、金曜日。

 何も目立った問題が起きないまま数日が過ぎた。

 学校の授業とスポーツの時間を終え、寮で汚れを落としてから家に帰る。

 毎週水曜日に犬の散歩のボランティアをするようになり、おとといは少し遅く帰った。昨日は早く帰ったが、もう皆眠っていた。

 今日も皆すでに寝てしまっているのだろうか?


 クローゼットに転移し、寝室に行くと、今日は珍しい組み合わせで寝落ちしていた。

 アンジェラとマリアンジェラである。

 うわ…めんどくせぇ組み合わせだな。しかも両方寝てるし。

 一度アンジェラの寝室を確認してからどのように対処するか決める。

 リリィだけがど真ん中で寝ている。『スコー。スコー』と豪快な寝息だ。

 全く、どんだけ思いっきり寝てんだよ。リリィらしくて笑える。

 僕はベッドの空いたスペースの距離を計算しつつ、自室の寝室のベッドと大きさを比べた。アンジェラとマリアンジェラをアンジェラのベッドへ転移させたのだ。

 ギリギリ、落っこちないくらいのところに二人がおさまりどうにか済んだ。

 そーっと部屋を出ようとしたその時、後ろから声がかかった。

「ライル、ちょっと待て。」

 アンジェラだった。思わず、『シーッ』ってアクションしちゃったよ。

 アンジェラが、慌てて自分の口を押えて、そろそろと部屋から出てきた。

 そのまま二人でダイニングまで移動した。


「アンジェラ、何?どうしたの?僕の部屋で寝てたけど…。」

「あ、あぁ、そうだ。私が編集したんだが、ビデオが出来たんだ。

 主にウェブサイトに出していこうと考えているんだが、出す前にライルの意見を聞こうと思ってな。見てくれるか?」

 そう言うと、アンジェラはタブレットで何やら操作し、画面を開き、僕に渡した。


 その動画は、目的が何かを明確にしていない、ちょっと不思議な動画だった。

 聖マリアンジェラ城を遠くから撮ったアングルから、スーッと近づき、石像だと思っていた天使像がカメラに向かい飛んでくる。それは衝突の直前で止まり、画面いっぱいの顔のアップ、そして、目を見開き、少し瞳孔が開くような感じがしてリアルだとわかるのだが、そこでは何も言わない。

 最後に少しだけ微笑んだように顔が緩みウィンクして霧散した。


「アンジェラ、これって、この前撮ったまんまだよね。」

「正解。そして、次、これを見てくれ。」

 同じ動画に音楽とテロップが入っている。

 ピアノのBGMと共に動画が始まる。

『君がどこにいても、いつも見ているよ』

 天使が近づいてくるところで、画面の下が黒塗りになり白い文字でテロップが入った。同時にアンジェラの歌が流れる。

 ♪あぁ、大切な~ 君のために

 ♪かけつけるよ どんなときも~

 天使がドアップになったところで、またピアノの伴奏だけになり、テロップが流れた。

『君は信じる?それとも…』

 ♪ラーララララーララララ~

 ここで天使が消える。

 最後に真っ黒い画面に金色の文字で『Real Angel Project』と出して、その文字を霧散させて真っ暗になった。


「うわっ、鳥肌出た。」

「どういう意味だ。」

「いや、特に意味はないけど、この歌いいね。フルバージョン作って売った方がいいと思う。」

「そうか?」

「うん。」

「ライル、これなんだが、赤い目は映っていないな。」

「赤く見えてはいないけど、命令は出てるんじゃない?」

「どうやって検証する?」

「うーん、じゃ、スマホで僕を撮ってよ。アンジェラは撮る間、目を瞑ってて。」

「あ、あぁ。じゃ、撮るぞ。」

 僕はスマホに向かって「帽子を被れ」と赤い目で命令した。

「いいよ、終わった。じゃ、ちょっと待ってて。」

 僕は自分のクローゼットに行き、何かの撮影の時に使ったカウボーイハットを持ってきた。

「どうしたそんなもの持って来て。」

「あ、いいからいいから…。じゃ、さっきの動画アンジェラが見てみて。」

 アンジェラが動画を再生する。

 ライルが黙ったまま、スマホを見ている映像だ。最後の方で少し瞳孔がピクッと動いたような気がした。

「やはり、赤くはならないな…。」

 そう言いながら、僕の持ってきたカウボーイハットをアンジェラが手に取りかぶっている。

「ククク…アンジェラ、大丈夫だよ。赤く映っていなくても効果はあるって…。今の動画で命令したのは『帽子を被れ』だからさ…。」

 アンジェラが、自分の頭を触って『ハッ』とし、あわてて帽子を脱いだ。

「お、恐ろしい効果だ…。気が付かなかった。」

「多分、この目だって、僕達には赤く見えるけど、他の人にはそれも見えないんだよ。」

「天使を捕まえようとか、騒ぎ立てようってやつには効果が出るだろうし、犯人もこの動画を見れば自首するかもだよね。

 でも、そうじゃない人たちからオファーが来たらどうするの?CMとかに出すの?」

「そこまでは考えていない。」


 アンジェラが編集した動画は、夜のうちに本社のウェブサイトにアップされ、朝10時に公開されるように設定された。

 どんな反響があるのか、楽しみである。

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