432. リアルエンジェル・プロジェクト(1)
その日、家に帰ると僕のベッドにマリアンジェラとリリィが眠っていた。
ん?どういう流れでこうなっているのか…。
そっとマリアンジェラの額に触れ記憶を覗き見る。
なんだ…絵本を読んでもらっているうちに二人とも寝落ちしたのか…。
僕はアンジェラを探した。書斎でまだ仕事をしていたようだ。
「アンジェラ、最近忙しそうだね。」
僕がそう言いながら書斎に入って行くと、目線だけ一瞬こちらを見てアンジェラが言った。
「ライル、帰ったか…。ちょっと話があるんだが、5分待ってくれ。」
「え?僕?いいけど、ダイニングに行ってるね。」
「あぁ。」
僕はダイニングに行きその日の夕食を物色…、ブイヤベースを発見したので、鍋ごと温めた。
温まったブイヤベースを皿に盛り、席に座って食べているとアンジェラが入ってきた。
「ライル、食べながら聞いて欲しいんだが…。」
「ん。」
「お前、上位覚醒したリリィの姿に変化できるか?」
「え?あ、あぁ、できるよ。」
「そうか。」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「イヤ…実はな…。」
そう言ってアンジェラが直面している事柄についての打開策案を聞かされた。
僕がミケーレの能力である第三の眼を使って見た未来から『リアルエンジェル・プロジェクト』と銘打ってウェブサイトに告知をした思わせぶりな動画を、今後どう扱っていくかという事だ。
アンジェラは自信なさそうに言った。
「正直に言うとだな、何もいい案は出なかったんだ。だが、このままでは報道陣や、ファン、世論が納得しないという事だな…。
それで…。」
「それで?」
「天使、まぁ、ここで言うところのお前をだな、リリィの上位覚醒した姿にして、公の場に出そうと思うのだ。」
「公の場?」
「あぁ、記者会見を行う。そこで、実際に私と同席し、発言するのだ。『私はアンジェラを助けるために異世界からこの世界に来た』とな。」
「…。マジで?」
「マジだ。」
「それのメリットって?」
「まず、もしリリィが上位覚醒した姿で見られても、通常のリリィとは別の人物だと認識されるのではないかと思う。これが一つだ。」
「うん、まぁ、言いたいことはわかる。家族の一員ではないと言いたいわけね?」
「あぁ。他にもあるのだ。『天使』がいると公表して、政府にその存在を保護してもらえないか打診中なのだ。」
「はぁ?政府に保護?」
「そうだ。隠し通すことをやめ、公にすることで、『天使』としての人格を保護してもらうというものだ。」
「ねぇ、アンジェラ。僕の意見をちょっと言っていいかな?」
「何だ?」
「多分だよ。そんな事をして公に天使がいるって言ってさ、政府に保護を求めたとしてさ、その後どうなると思う?」
「…。」
「僕は、『天使狩り』が始まると思うよ。そして、君は天使を狩るための囮、エサにされるんだ。」
「っ、それは…。」
「悪いことは言わない。方向修正してさ、せいぜい『あれは本物の天使か?それともフェイクか?』くらいにして、翼が出るところや、来ている服を変えるところなんかを動画に撮ってアップすればいいと思う。世の中には天使の加護がある選ばれた人物がいて、それがアンジェラだ…程度でいいんじゃない?本当に政府の保護が受けられるなら、僕がそれを宣言するヤツに会うよ。」
「ライル…。」
いつになく強い口調で言った僕に少し驚いたようなリアクションのアンジェラだった。
「アンジェラ、僕が『上位覚醒リリィ』の姿でビデオを撮るなら、全て僕に任せて欲しい。一言もしゃべらず、赤い目を使って人類を懐柔することだって可能なんだ。」
アンジェラは、ハッとした様な顔をした。
「そうか、その手があったか。」
アンジェラはあちこちに電話をかけ始めた。
そして、しばらくしてから再び僕のところに戻り、言ったのだ。
「ライル、明日の午前中に2時間ほど時間を取ってくれないか?」
「いいよ。」
僕はその後アンジェラに言ったのだ。
「リリィまで僕のベッドで絵本を読んで寝落ちしてるんだ。アンジェラ、回収頼むよ。」
僕が自室に戻ったときには、リリィもマリアンジェラもいなくなっていた。
う、二人とも回収されてしまったか…。
僕はシャワーを浴びた後、ひとり寂しくベッドにもぐりこんだのだった。




