429. 朝霧邸にて・・・
11月20日、土曜日。
早朝から日本の朝霧邸に行った。父様に動物関連のボランティアについて聞くためだ。イタリアではまだ暗い時間帯だが、日本はもう10時を過ぎていた。
日本での自室に転移し、父様を探して家の中をうろつく。
アズラィールが部屋から出てきて僕に体当たりをする。
「いってー。何すんだよ、じいちゃん。あ、違った。僕のじいちゃんではなかったか…。くくっ。」
「ライル、どの口が言ってんだよ~。」
アズラィールが僕の口をつまむ。
「やめろって。」
二人でじゃれながらダイニングに行くと、父様とお爺様もそこにいて朝食後のコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
「お、ライル。どうしたんだ?珍しいな。」
「おじいさま、おはようございます。ちょっとアドバイスが欲しくて来たんですよ。」
「アドバイス?」
「あ、父様に…。」
「え?私に?」
父様は、よっぽど意外だったのか、驚いて座りなおしている。
アズラィールが笑いを堪えて、席に着いた。
「あ、あの。動物関連のボランティアって、どんなのがあるか知ってるかな…と思って。知ってたら教えて欲しいんですけど。」
「ボランティア?」
「あ、そうなんです。大学に願書を出すんですが、校外活動としてボランティアや社会活動みたいのをまとめて書かなければいけないんですよ。カウンセラーにちょっと足りないってダメだしされちゃったので、追加でやろうかなと…。」
父様はそれを聞いていきなり険しい顔になった。
あ、これは地雷踏んだかな?やっべ。逃げるか…。
「ライル…。」
「はい。」
「今、大学に願書って言ったか?」
「はい。」
「お前、まだ中三だろ?」
そ、そこか…。
「あ…、父様…昨年、僕がアメリカのボーディングスクールに通い始めた話、しましたよね?」
「それは、聞いてる。」
「それで、学年の途中で飛び級にチャレンジしたんです。それで、日本でいう高二に入って、今は高三なんです。」
「はぁ?そんなんで本当に大丈夫なのか?」
「え?あぁ、まぁ、一応授業は選択式で受けまくっていて、単位も間に合いそうなのと…提出するテストのスコアも昨日出て、大丈夫そうかな…って。」
「そんな中途半端なんじゃダメなんじゃないか?」
「中途半端…と言っても、テストは満点だったし、成績も全部AかA+なので、期間は中途半端ですけどね…、どっちにしても卒業しないといけないので。」
「そうなのか…。よくわからないが、体に気をつけて無理するなよ。」
うぇ~、気味悪い。だいたい北山先生にこの前話したのに、そう言うことは話さないんだな…。その時アズラィールが口を挟んだ。
「ライル、どこの大学受けるの?」
「あ…、えっと、アメリカの家の近場でアイビーリーグって言われている大学に片っ端から願書を出す予定なんだ。」
「え?アイビーリーグって、ハー〇ード大学とか?」
「あ、そうそう。その辺。」
「医大志望じゃなかったの?」
「日本の大学は年齢制限があって、まだ受験できないんだ。アメリカだと4年制大学を卒業後にメディカルスクールに4年行かなきゃいけないから、とりあえずアメリカの大学に入って生物学系を学んでおこうと思ってるんだ。」
「ふーん、ちゃんと考えてるんだな~。」
「そうでもないよ。カウンセラーに忘れ去られてて、先月超焦ったし。あ、それで、ボランティアってどういうのがあるのか教えて欲しいんですけどね。」
父様がようやく口を開いた。
「でも、アメリカでやらないと変に思われるだろう?」
「あ、そうですね。それは自分で探します。」
「そうだな、保護動物、主に犬と猫の世話とかだったらアメリカにもあるんじゃないか?日本なら紹介してやれるけど、アメリカにツテは無いな。」
「ですよね~。それはまず自分で探してみます。」
そこへ留美が徠沙を抱っこしてやってきた。
「あ、ライル君、今日も勉強?」
「いえ、テストはもう終わりました。」
「あ、そうなの。」
僕は頷いて、席を立った。
「じゃ、お邪魔しました。父様、ありがと。」
僕は話しかけられないように、ダッシュで部屋に行った。途中で、左徠が頭に寝ぐせをいっぱい作ったまま、彼の部屋から出てくるのが見えた。
すごい濃いキャラだな…。
家に帰ってネットで検索して、見つけられなかったらアンジェラの会社の人に聞いてみよう。地元の人しかわからない事だってあるかもしれないからね。
僕が家に戻ると、ちょうどお手伝いさんとリリィが朝ごはんの準備をしていた。
僕がリリィの側に行って、スッと手を触った。
さっきの朝霧邸であったことの記憶の譲渡をしたのだ。
「ブハッ。」
リリィが鼻水を吹き出して笑った。
「リリィ、きちゃないな~。」
「だって、だってさ、けけけ…。左徠の寝ぐせ、ヤバいよ~。」
リリィが鼻水を拭きながら、お腹を抱えて笑っている。
なんだか久しぶりにリリィと話した気がする。触ったのも久しぶりかも…。
そこに、マリアンジェラが来た。楽しそうに笑っている僕とリリィを見て僕を睨みつける。
「マリー、おいで。」
僕が手を広げると満面の笑みで抱きついてきた。すかさずさっきの記憶を譲渡する。
「ブホッ、マジ?ク、ククク…。」
「どう?笑っちゃうでしょ。」
「ママとライルは、これ見て笑ってたの?」
「そう。朝霧の家に用事があったんだ。」
マリアンジェラはヤキモチを妬いたのが恥ずかしかったのか、ちょっと頬を赤くして僕にしがみついた。
「どこに行っちゃったのかと思った。」
「わかるくせに…。」
「そうでした。てへ」
そこにアンジェラが来た。アンジェラは朝っぱらから僕の膝の上にマリアンジェラがのってるのが気になる様だ。マリアンジェラが僕に耳打ちした。
「パパにもさっきの見せてあげて。」
「ふふ、いいけど。」
マリアンジェラを抱っこしたまま、アンジェラのところへ行き、アンジェラにマリアンジェラを渡す、そして、軽く手に触れ記憶を見せる。
あれ?アンジェラの表情は変わらない…。なんだ…ウケなかったか…。
そう思っていた時だ。
アンジェラに異変が…。むくむくと大きくなってプラチナブロンドの上位覚醒状態になった…。そして、顔が段々…真っ赤に…。
「クアハッ、ら、ライル、なぜこんなものを見せる。」
笑いを我慢したら内側のエネルギーが漏れたのか?
「いや、普通に面白かったからさ。それより、アンジェラ…外で面白いものとか見ない方がいいかもね。」
マリアンジェラもコクコクと頷いている。朝から笑いすぎてしまった。
朝食後、ボランティアを検索し、曜日と時間だけが指定されてて身分証明書を持参すれば参加できるという動物保護団体を見つけた。
過去とこれからと、毎週決まった曜日に犬の散歩と猫の世話を一年前くらいからすることにした。学校が終わった後に丁度良い時間帯だ。家に帰るのが少し遅くなるが、継続的にできるので都合が良かった。
足りないことも一つずつ潰していけば、どうにかなるものだな…。
あとは大学が僕を評価してくれるかどうかだ。
僕の短い高校生生活もあと半年と少しだ。




