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427. 天使達の訪問

 10月19日、火曜日。

 いつもより2時間ほど早く学校の寮に転移した。


 カウンセラーと面談する時間は昨日と同じ朝の授業の始まる前だ。

 早く来たのは、昨日調べた大学と学部を書きかけのリストに加え、具体的にカウンセラーと話をするためだ。あと、オンラインでの願書の入力も進めて保存しておかなければ…。

 僕は、約束の時間の5分前にはオフィスを訪問した。

 カウンセラーの男性は昨日と全く同じ調子だった。

「ライル君、早いね。」

「おはようございます。」

「それで、お家の人と相談してみたかな?」

「はい。希望する大学と学部のリストを作ってきました。」

「ありゃま、早いね。どれ、見せてちょうだい。」

 僕は手書きで記入したリストを手渡した。そして、付け加えた。

「あ、あの11月のSATに申し込んであったので、受けます。」

「え?あ、そうなの?それはとっても良かった。それの結果がよければね、すぐに願書も出せるからね。でもね…ライル君。このリストの大学ね…全部ものすごく難しい大学だってわかってるかな?合格率が5%~10%ってとこだよ。」

「はい、わかっています。ダメそうですか?」

「うーん。僕には何とも言えないけどね。この学校からこのリストの学校に入ったのはクラスで1番とか2番くらいのすごい成績のよい子ばかりだからねぇ。」

「そうですか…じゃあ、他のところに願書を出すかどうかは、またSATの結果見てからでもいいですか?」

「あ、うん、かまいませんよ。11月の受けられるならね。大丈夫ですよ。」

「よろしくお願いします。」

「じゃあ、その結果出るまでに、推薦状と、エッセイと、校外活動の記入ね。進めておいてね。」

 そんな感じで、僕はその日の授業が全部終わった後で、SATの対策問題集などを購入して家に帰ったのだった。


 家に戻ると、マリアンジェラが僕のベッドの上で絵本を読んでいた。

「マリー、ただいま。こんな時間に起きてちゃダメじゃないか…。」

「おかえり。ちょっと前に目が覚めちゃったの。だって、雷ゴロゴロ、すごい音でね、ドッシャーンって言って、家が揺れたよ。」

「そうなの?怖かった?」

「うん、ちょっと怖かったけど…ママがよく落とすやつだと思ったらそうでもなかった。」

「確かに…。」

「ライル、お腹空いてない?」

「ん、空いては無いけど食べるよ。」

「じゃ、マリーとくっつく?」

「いいの?」

「いいよ。」

 僕とマリアンジェラは数日ぶりの融合をした。

 ダイニングに行くと、メモが置いてあった。

『今日の夕食は冷蔵庫の中です。リリィ』

 冷蔵庫を開けると、イクラが入った容器と、ご飯が入ったどんぶり、そしてお吸い物が入ったお椀があった。で、またメモだ。

『ごはんとお吸い物を電子レンジで温めてね。リリィ』

 電子レンジにご飯を入れて温め、次にお吸い物も温めた。

 温まったごはんにイクラをのせる。ヤバい、うまそうだ。

 お箸とスプーンを出して食べ始めたのだが…ヤバい、イクラ丼ってこんなにうまかったっけ?と思うほどうまい。

 やはりマリアンジェラの舌が食べ物を美味しく感じるようにできているのか?

 ガツガツ食べているとアンジェラが来た。

「お、おかえり…。すごい勢いだな。」

「ん。たらいま、ん。これ超うまい。」

「そうか?ゆっくり食べろ。」

「あ、うん。マリーのおかげかも…。」

「そうか…よかったな。」

「どうだった?今日も進路の面談したんだろ?」

「うん、今週末のSATを受けて結果を見てからだと思う。すごく難しいところばかりだから、別のところも受けろって言われるかも…。」

「受けるだけなら何カ所受けたっていいさ。きっとお前なら大丈夫だ。」

「とりあえず週末のSAT頑張るよ。」

「何か問題があったらすぐに言うんだぞ。」

「ありがと。ところでこのイクラって…。」

「あぁ、またリリアナが北海道の市場で買ってきたらしい。」

 そういえば、離乳食の代わりに食べさせてた気がする…。


 食べ終わり、融合を解くと僕の膝の上に寝ぼけまなこのマリアンジェラがちょこんと出てきた。

「マリー、ありがとう。もう食べ終わったよ。」

「うん、よかった。」

 眠くて、少しかっくんとなっている。マリアンジェラをベッドに連れて行き、僕も歯を磨いたり、パジャマに着替えた。


 電気を消してベッドにもぐりこみ、マリアンジェラが眠っているのを確認する。

 さっきマリアンジェラが読んでいた絵本がベッドに置きっぱなしだ。

 絵本のタイトルは『赤ずきんちゃん』だ。子供らしいチョイスだな…。思わず顔がニヤニヤしてしまう。

 今日は赤ずきんちゃんになった夢でも見ているのだろうか…。

 なんだか最近はマリアンジェラの夢を覗くのが楽しみになってきた。

 僕はそっとマリアンジェラの首筋に手を当て、自分もスーッと眠りに落ちて行った。


 あれ?夢…の中のはずだよな…。

 ベッドで目が覚めた僕の横で、マリアンジェラがスースーと寝息を立てている。

 部屋は暗いままだ。夢に入るのに失敗したのだろうか?

 仕方ない、ちょっと勉強でもしておくか…。

 体を起こしてベッドから出ようとした時だった。足元のさらに2mほど先に淡い光の発行体が現れた。その光は二つに分離した。

 え?何これ?そのうちの一つがどんどんと大きくなる。

 そして、だんだん形が変わり、それは時々目にしている『あれ』になったのだ。

『あれ』とは、封印の間の玉座に座っている乳白色の石像、翼を広げた『ルシフェル』だ。

 当然のことながら、もう一つも少し遅れて大きくなり、だんだん形を変えていく。

 そして、やはり『それ』は『ルシフェル』の恋人の石像、翼を広げた『アズラィール』になったのだ。

 ちょっと待ってよ~。今までにない夢のパターンだ。

 動くはずのないものが動くとか…。ちょっぴりホラーだ。

 しかも、石像なので、服を着ているわけではなく、布を体に巻いているだけだ。チラチラと布がめくれ体が見える…あの布だって石でできていたはずだが…。『ルシフェル』は腹筋がカチカチに割れている。いや、実際カチカチなはずだ、石だからな。

 さすがに『アズラィール』は腹筋は割れてなかった。あれ?でも女じゃなかったっけ?なんだか、ルシフェルよりは小柄で線は細いが、おっぱい…ではなく胸板…は、ツルペタどころの騒ぎではない。石像はまだ二体共目を閉じている。

 そんなアホな思考をめぐらしていると、石像だった二人が人間…いや天使になった。全体的に乳白色のまま滑らかに動くようになった。

 そして、目を開けた。

『うわぁ…』

 体全体も光っているが開けた目から、見える青い瞳が眩しいくらいだ。

 僕はマリアンジェラを揺すって起こそうとしたが、マリアンジェラはスースーと寝息をたてたまま全く起きる様子がない。


 二人はスーッと音もなく僕に近づいてきた。やっぱホラーじゃん。

『アズラィール』が僕の足首を掴んでぐいっと引っ張った。

「ひゃ~っ」

 変な声が出ちゃった。リリィ並みの馬鹿力だ。『アズラィール』がしゃべった。

『私達のかわいい子、ライルよ。』

 あ、聞いたことある感じだ。でも怖い。

「は、はいっ。」

『あなたにお願いがあって来ました。』

「お、おねがい?って二人は生きてるの?あそこにあるのは石像だと思っていたけど…」

『ライルよ、私たちはこの世界では生きているとかいう概念からは外れている。』

 今度は『ルシフェル』がしゃべった。

「そ、そうなんだ…。」

『このままでは、この私達が作った地球ほしが危ない。』

「あ、小惑星衝突の話?」

 二人は静かに首肯した。

「リリィが未来に飛んで見て来たよ。今、僕達でどうにかできるのか、考えているところだ。」

『あなた達だけではあれを止めることはできないの。』

『アズラィール』の声は女性の声のようだ。

「じゃあ、どうすればいいの?」

『新しく生まれる天使に私たちと同じ名前を付けて。』

「え?それ、なんか意味あるの?」

 二人は何も言わない。言わないまま、少しずつ後ろに下がって行く。

「ちょ、ちょっと待ってよ。ねぇ。ちゃんと教えてよ。」

 手を伸ばして『アズラィール』を捕まえようとした。

 その時だった。


「ライル、ライル。大丈夫?ねぇ、大丈夫?」

 僕は、ハッとして目が覚めた。マリアンジェラが僕を揺すって起こしてくれたのだ。僕が見たのは夢だったようだ。僕がうなされていると思った様だ。

「あ、マリー。おはよう。変な夢見ただろ?」

「にゅ?ゆめ~?あ、見た見た。変な夢。」

「どういう意味だろうな、同じ名前って…」

「ライル、何言ってんの?マリーが見たのはオオカミをやっつけて、鍋にする夢だよ。でもまっずいの。げろマズ。」

「え?僕、マリーの夢に入ってたんじゃなかったのか?」

 僕は、慌ててベッドの横のキャビネットの引き出しから日記帳を出し、さっき夢で見たことを書き記した。そして、それをスマホで撮影し、アンジェラとリリィに送ったのだ。

 10分ほどしてアンジェラが走ってきた。

 ベッドの中でグダグダしていた僕に、さっさと起きて書斎に来いと言う。

 仕方なく顔を洗い、身支度を整えアンジェラの書斎に行った。

「どうしたの?」

「これを見ろ。」

 セキュリティカメラの映像だった。深夜2時頃、僕の部屋のベッドの足元にものすごい光が二つ光っている。

 そこには光しか映っていないが、僕が引きずられて光の方に寄っているのがわかる。

「夢じゃなかったってこと?」

「だと私は思う。」

「アンジェラはどうするつもり?新しく生まれる天使ってリリィとアンジェラの赤ちゃんの事言ってるんだよきっと。」

「リリィに相談するが、私は彼らに従おうと思う。」

「そうなの?いや、まぁ、いいけど。」

 あの光って本当にあの二人なんだよなぁ…?僕はピンとこないまま、テストの勉強に着手することになった。


 うぇ~、想像はしていたけど、全部英語の細かい字で見るだけで気が滅入るようなテストだ。今日から毎朝登校の時間まで、これを片っ端からやり続ける必要がありそうだ。何しろテストまで二週間しかない。



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