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421. 夢ならぬ夢

 10月9日、土曜日。

 まだ暗い時間に何だか左の上腕部に違和感を感じ目が覚めた。

 ん?僕の腕を枕にして寝ているのは…マリアンジェラ?

 ライトの代わりに右手をキラキラで光らせて顔を照らす…って、おいおいアンジェラ?重いと思ったら…、もう。腕を頭の下から引っこ抜く。

 すっごい顔近いし…、どうなってるんだ?

 アンジェラとリリィの寝室を覗くと、大きくなったままのミケーレとマリアンジェラとリリィが三人で寝ていた。

 どうやら、アンジェラとリリィの間にミケーレが最初入り、その後でトイレに起きたマリアンジェラが自分もと隙間に入ったら、アンジェラが押し出されてベッドから落ちたらしい。

 仕方なく寝るところを探して流れ着いたのが僕のベッドだったというわけだ。

 子供部屋のベッドも大きくしたんだから、そっちに行けばいいじゃないか…。

 と、考えはしたが、実はアンジェラはとっても寂しがり屋なんだという事はわかっている。一人で寝るのが嫌だったのか?

 しかし、でかい。僕が使っているベッドの縦方向の長さは約2m以上だと思うのだが、足がはみ出ている。

 僕は、「まぁたまにはいいかな」と思い、アンジェラの夢の中にお邪魔することにした。


 アンジェラの首筋に手を当て、スーッと彼の意識の奥深く、夢を見ているところへと潜っていく…。

 夢の中へ…潜って行ったはずなんだが…。

「わーっ」

 思わず悲鳴を上げてしまった。僕は空中から落下中、しかも気絶しているアンジェラの首に触った状態だった。いや、厳密に言うと、これは僕ではない。リリィだ。

 リリィの意識の中にもぐりこんだ僕がいる。

 夢なのか?現実なのか?いや、いかんいかん…そんなのんきに考えているうちに地面に墜落するではないか…。

 しかし、僕はリリィの体をコントロールできなかった。

 リリィの意識があるからだ。

 これは夢ではなく、アンジェラの危機を救うためにトリップ中のリリィに入り込んでいると考えた方がいいだろう。

 数秒後、リリィの両腕がアンジェラの胴体に絡みつき、しっかりと支えたかと思うとリリィは翼を出し広げた。グンとアンジェラの重さが腕に伝わり、腕の中にアンジェラを抱きしめていると実感する。

 うまく気流に乗り、スーッと静かに陸地に近づく。森の木々を避け、草原の開けた場所に着地し、優しくアンジェラを横たえると、リリィはすぐそばの小川まで行き、大きめの葉っぱに水を汲み、能力で水を浄化しアンジェラの元へ戻り水を飲ませた。

『ゴボッ』と水が入りすぎて、アンジェラがゲホゲホいいながら目を覚ました。

「あ、ごめん。水入りすぎちゃった。てへ。」

 目を覚ましたアンジェラは自分の状況が把握できないようだ。

「ここは、どこだ?リリィ、どうしてそんな格好で…。」

「あ、げげっ。私の格好は気にしないでいいから。」

 リリィは若干透けた空色のネグリジェを着ていた。アンジェラの目が釘付けになっている。

「ウッ」

 アンジェラが後頭部を手で押さえた。リリィが慌てて確認すると鈍器で殴られたのか血が出ている。リリィはすぐに傷を癒し、骨折や損傷がないかを確認する。

「大丈夫そう。もう痛くない?」

「あぁ、ありがとう。しかし、全く、ここがどこかわからない。」

「少しここで休もうか。それから考えよう。」

 アンジェラは黙って頷いた。


 リリィはアンジェラの額に手を載せ少し間にあったことを記憶から読み取り、アンジェラに聞いてみる。

「ねぇ、何かの撮影?かな…大きな撮影機材がヘリコプターに積んであって…。」

「あ、あぁ、そうだ私はプロモーションビデオの撮影でスカイダイビングをするはずだったのだ。」

「えー、でもパラシュートとかつけてないよ。」

「だな…。」

 その時、上空のかなり上でヘリコプターが旋回し、バランスを崩しているのが見えた。

「リリィ、頼む…あのヘリの中には私の大切なスタッフが3人乗っているんだ。」

「アンジェラのこと殺そうとした人があの中にいても?」

「…。それは償ってもらわないとな…。」

「おっけい。だったら助けてあげてもいいけど。」

 リリィはアンジェラを一回ギュって抱きしめてから空に飛び立った。

 もう、ヘリコプターは斜めに傾いたままコントロールを失って、森の中に向かい落下を始めている。

 シュとリリィの姿が消えヘリコプターのドアの横に転移した。

 中を覗くと4人乗っており、操縦席、助手席の各一人、そして後ろの座席の一人は後ろ手に縛られている。

『ん?どっちが犯人かな?』

 操縦席の人は無線で助けを求めているけど、どこに助けを求めてももう無理だよね。リリィはアンジェラのためにしか動かない。アンジェラが願ったから助けに来たのだ。

 リリィは操縦席と助手席の間に転移して操縦している人の肩をトントンした。

 翼を出したままである。

「あのね、エンジン切ってくれる?今すぐ。そうしたら助けてあげる。」

 操縦している人は目が点になったまま固まった。仕方がないので赤い目を使ってエンジンを切らせた。

「あ、静かになった。ちょっと待っててね。」

 落下中のヘリコプター、あと何秒で着地するのか、恐怖で皆顔が蒼白である。

 しかし、一瞬でリリィが消えたかと思えば、ヘリコプターが草原のど真ん中に着陸していた。物質転移で移動させたのだ。アンジェラの待つ草原だ。


 リリィはヘリコプターの中にまた現れ、縄で縛られている男の額を触った。

 どうやらこの男が犯人のようだ。誰かに依頼されてアンジェラの命を狙っていたらしい。同乗していた撮影スタッフがアンジェラが落とされたのを目撃しており、必死で男を取り押さえ、撮影用の機材のケーブルで男を縛った様だ。

 取り押さえる際にヘリコプターのバランスが崩れ、墜落の危機に陥っていたようだ。

 アンジェラにその記憶を見せ、支えて立たせた。

「歩ける?」

「あぁ、大丈夫だ。もうどこも痛くない。少し足がガクガクしているけどな。」

「気を失っていなければ、自分でも飛べたもんね。危なかったね。」

「リリィ、ありがとう。」

「へへ、じゃあ…お家に帰ったらいっぱいご褒美のチューしてもらおうっと。」

 アンジェラが『?』になっている。

 そう、これは、まだ二人が出会うほんの少し前の時に起きたことなのだ。


 アンジェラは警察に電話をかけ、救助を要請した。

 リリィはアンジェラの髪を愛おしそうに触って、にっこり笑って言った。

「じゃ、またね。」

「リリィ、また行ってしまうのか?」

「お家でアンジェラが待ってるからね。」

 リリィが金色の光の粒子になりその場から掻き消えた。


 僕、ライルはハッと目を覚ました。

 横には涙でビチョビチョになったアンジェラが『リリィ、リリィ…』と寝言を言っている。かなり、うるさい。

『はぁ…参りました。愛されてるってすごいな。』

 僕の心の声である。

 僕は、アンジェラとリリィの寝室に行き、マリアンジェラを抱きかかえて自分の寝室に転移した。そして、アンジェラを物質転移でリリィの横に移動した。

 少しして、ミケーレの大きな声で家中が騒然となった。

「パパとママばっかりチューしててズルい。」

 いや、それは仕方ないんじゃないのかな?

 マリアンジェラはいつの間にか小さくなって僕の横でスースーと寝息を立てている。僕の愛はここにある…。

 マリアンジェラの額にチュとキスした。

 まるで祝福されるように僕とマリアンジェラの体が白く光った。

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