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420. ダンスパーティー(2)

「あ、真っ暗だね。」

「ほんとだね。」

 小さい声でミケーレとマリアンジェラが言った時、体育館の両端から組み上げられた鉄骨の中央にぶら下げられたミラーボールに四方からスポットライトが当たり、ド派手な音楽と共に、生徒会の代表らしい、ギラギラの紫ラメのジャケットに同色の蝶ネクタイをした男子生徒と、お揃いの生地でできたタイトなミニワンピースに、まるで綿菓子を三段に乗せたようなアップにしたつけまつげがバサバサと音を立てそうな化粧濃いめのお姉さんが中央の一段高くなっているところに上がった。

 観客の皆が拍手で迎える。

『ザック~がんばれー』

『エミリー、まってたぞ~』

 声援があちこちから聞こえた。

「みなさ~ん、こんばんは。ザックでーす。今日はお楽しみのホームカミング・ダンスパーティーへようこそ~」

「はい、私はエミリーです。ここの学校じゃない方も~、みんな盛り上がって踊っちゃいましょう~。」

「三時間後には、素敵なカップルを投票してもらい、キングとクイーンを選びます。」

「ソフトドリンクは飲み放題ですよ。ごみはくずかごに…」

「お友達としゃべってばかりで、パートナーを忘れる事の無いようにお願いいたします。踊ってるときは飲み物は持たないで下さいよ~。」

「では、では、みなさん。始まりますよ~。」

 どうやら本物のDJを雇って音楽を流し続ける様だ。

 音楽が始まると、レーザー光線のような照明も加わり、体育館の中はギンギラギンだ。組まれた鉄骨の一部にもライトが仕込まれていて、チカチカと目障りだ。

 そして、ヤバい。うるさい。耳が壊れそうだ。

 座る席は端の方なのだが、踊る生徒が中央にどどっと押し寄せる。

 正直、誰が誰だかわからない混雑ぶりだ。

 しかも皆ガタイがいいので、建物が揺れそうな勢いだ。

 アップテンポの曲に合わせてジャンプする、または揺れるだけのダンスだ。

 ふと横を見るとマリアンジェラは音と人の多さに圧倒されているらしく、目が開きっぱなしで口もポカンになっている。

「マリー、無理に踊らなくてもいいよ。こんなにうるさいとは思わなかったよ。」

 僕が言うと、カクカクと頷いて、ソファに座ったまま周りを観察中の様である。

 ミケーレもマリアンジェラと同じように口も目も見開いたままだ。

 さすがに刺激が強すぎたか…。


 しかし、30分もすると慣れてきたのか、マリアンジェラが音楽と一緒に小さく揺れ始めた。

 やべっ、かわいい。周りのことなんんかそっちのけでマリアンジェラを見つめていたら、アンジェラの視線が痛かった。

 うへ~、おとうさま、視線鋭すぎ…。その視線何か能力こもってんじゃないの?例えば『魔王覇気』とかさ…。

 自分で考えてて、自分で笑っちゃうけど…。リリィはミケーレと同じ状態…。口も目も開きっぱなし。眼球が乾いちゃいそうだ。

 更に30分経って、マリアンジェラがトイレに行きたいと言い出した。

 リリィがマリアンジェラを連れてトイレに立った。


 トイレに行く途中マリアンジェラは、少し静かな廊下で、リリィに話していた。

「ママ、みんなしゅっごいね。あんなに大きい音でも平気だし。ライルはダメって言ってたけど、みんなタコダンス踊ってたよね?」

「ブッ、タコダンス~?マリーあれは、タコダンスではないんじゃないかな?」

「そお?そっかな~…。」

 トイレに到着すると、一人だけ待ってる人がいて、その後ろに並んだ。

 二人出てきた人がいて、マリアンジェラも個室に入った。リリィはトイレに行く必要がないので、個室の前で待っていた。

「マリー大丈夫?」

「うん。もう終わった。」

 マリアンジェラが個室の扉を開けて出てきた時、リリィの後ろから大柄な男が二人入ってきた。

「よぉ、ねえちゃんたち。ちょっと付き合ってくれよ。」

 後をつけられたのだろうか…。リリィが振り返るとリリィの肩に手が届きそうだった。

「…。」

 リリィは黙って首を傾けた。男二人はその場から消えた。

「え?ママ、今のおじちゃん達は?」

「さぁ…どこかでごみ漁りでもしてるんじゃないかな?」

 リリィはしらっと言ってのけたが、その男たちは、セキュリティの担当者たちが何人かいる場所の横にあった巨大なゴミ箱の中で目を覚ました。

 中からドンドンとゴミ箱を叩き、『出してくれ~』と騒いだ。

 男たちはゴミ箱の中から出されたが、その少し前に胸を触られたり、髪を引っ張られたりしたという女性数名から被害届が寄せられており、その加害者と同一人物と判断されたため、警察に通報し、逮捕された。

 そんなことは全く気にも留めず、リリィとマリアンジェラは体育館に戻った。


「マリー、本当だ…確かにタコダンスもいるねぇ。」

「でしょ?」

 と言って小さくだけど真似をする。横で僕、ライルはそれを見て笑い転げていた。

「マリーやめて、タコダンス、笑っちゃって、止まらないよ。」

 アンジェラも横目で見て笑い顔が引きつっている。世界的なアーティストは笑っちゃいけない縛りとかあるのか?

 ミケーレもだいぶ慣れてきたのか、目を開きっぱなしというわけではなくなってきた。しょっちゅう女子にダンスに誘われて、ちょっと嫌になって来ているみたいだ。声をかけられるたび、リリィにしがみつく度合いが大きくなっていく。

 若いフレッシュなアンジェラに抱きしめられているようで、リリィも悪い気はしていない。気分を害しているのは横にお座りになっていらっしゃるアンジェラさんだけだ。眉毛が片方めちゃくちゃ上がってますけど…。

 真ん中に座りつつ、左の娘と右の妻に注意を注ぎつつ、イライラしているご様子で…。


 そして、二時間が過ぎた頃、ミケーレに異変が起きた。

『キーン』と金属音のような音がした。どうやら僕達家族にしか聞こえていないようだ。ミケーレが額を押さえた。

 心配そうにリリィが覗き込む。すると、ミケーレがすくっと立ち上がり僕とマリアンジェラの方に来た。そして二人の手を取った。

 ミケーレは僕達二人に、今さっきミケーレが見た『予知した未来』を強制的に送り込んできた。

「「え?」」

 僕達二人は同時に立ち上がった。マリアンジェラは指を指して言った。

「私真ん中、ライル左、ミケーレ右、ママ、パパをお願い。」

「わかった」

 リリィが返事をしたあと、三人はリリィが言った方向に散って行った。


 ダンスは盛り上がり、大勢の生徒がひしめき合っている。そこをスイスイと縫うように前に進む三人…しかしそれはダンスのためではなかった。

 流れている曲が丁度ピークになったとき、踊ってる皆の動きがシンクロし、建物に振動を与えた。

 アンジェラには何が起ころうとしているのかわからなかった。

「リリィ…。なに…」

 そう言いかけた時、アンジェラの唇をリリィの指が押さえた。

「シッ、ちょっとだけ待ってて。」

 リリィはそう言うと目を瞑った。

『ガッゴーン』という大きな音と共に、組んであった鉄骨が崩れたのだ。

 かなりの大きさがある鉄骨だ、接続部分が折れ、真下に梯子状の太い鉄骨が落ちてくるのが見えた。

『ガツッ』『カーン』『ドガッ』

 ものすごい音が連続してした。

 そして最後に『キィーン、ガツッ』

 会場にいるほとんどが、自分は死んだと思ったのではないだろうか?


 慌ててDJが音楽を止め、照明が明るく照らされた。

 そこには、ミラーボールを頭の上で受け止めているマリアンジェラと、鉄骨の縦と横の二組の左右を素手で掴んでいるライルとミケーレがいた。

 ミケーレが思わず放った声が聞こえた。

「ちょ、ちょっとこれ、下に下ろすからみんなよけてくれる?」

 人がよけたのを見て、梯子状ののっかっていた方の鉄骨を下に下ろした。

『ドーン』と音がする。

 マリアンジェラの頭上のミラーボールもマリアンジェラが下に置いた。

『ドゴッ』とすごい音がする。

 縦に組んであった鉄骨も内側に倒した。

『ガーン、ゴーン』

 そしてもう一つ、ミラーボールを吊るしていた縦の棒が折れていたアンジェラに向かって飛んできていたのをリリィが受け止めていたのだった。

 会場にいる全員が、奇跡の出来事に歓声を上げた。


 セキュリティの担当者たちにより倒れた鉄骨やミラーボールは撤去されたが、ミラーボールは軽く200kgを超え、鉄骨も300㎏はあったようで、5,6人がかりで台車を使ってようやく動かせるモノだった。

 残念ながら、ダンスは中断してしまった。

 そして、最後に生徒会の代表、ザックとエミリーから話があった。

「え~、皆さん。最後に事故になってしまいとても残念です。

 ですが、どなたも怪我をされなかったようなので、それは良かったかな。」

「そして、私達生徒会の代表が、本日のキングとクイーンを発表いたします。」

「キングは…」

「ライル・アサギリ君とミケーレ・アサギリ・ライエン君」

「そして、クイーンは、マリアンジェラ・アサギリ・ライエンさん」

「「おめでとうございます。そして、ありがとう!!」」

 ミケーレとマリアンジェラの頭に冠と、僕には「KING」と書いたタスキがかけられた。

「ひとことお願いします。」

 マリアンジェラにザックがマイクを向けた。マリアンジェラがニヤッと笑って言った。

「けっこう楽しかったよ~。マリーもタコダンス踊りたかった~。へへっ」

 場内はものすごい歓声だ。次にミケーレがマイクを向けられた。

「怪我した人がいなくて、よかった。僕、役に立てたかな。フッ」

 女の子たちからの黄色い歓声が強烈に響く。

 ライルにもマイクが向けられた。

「今日、マリーとミケーレと一緒にここに来て良かったよ。」

 皆、拍手と歓声で割れんばかりだ。


 ダンスパーティーは予定よりも早く終了して、皆解散となった。

 外に出ると、警察が何台もパトカーでやってきていて、これから現場検証を行うという事だった。

 僕達は車に乗り込み、早々にアメリカの家に帰ったのだった。

 アメリカの家からイタリアの家に転移して、ダイニングテーブルの上に物質転移しておいたフードトラックの食べ物をマリアンジェラが完食したのは言うまでもない。


 後日、地元でも悪名が高いギャングが、この学校の生徒のストーカーだったらしく、振られた腹いせに通りすがりの生徒を脅して一緒に校内に入り込み、女子に暴行を加えたりしていたことを知った。

 ダンスパーティーの鉄骨が崩れたのは、設計ミス、溶接の甘さ、そして、ぶら下げていたミラーボールが予定の物より4倍の大きさだったことによる事故だったと判断された。

 ミケーレがいなければ、たくさんの怪我人を出したであろう。

 ただし、またまたネットで動画がアップされ、大騒ぎとなるのはまた次の日のことだ。

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