418. べったり家族
家に帰ると、午後11時半を回っていたが、僕の部屋にリリィとアンジェラ、そしてマリアンジェラが待っていた。
どうやら少し前まで僕の学校のホームカミングのライブ配信を僕の部屋で見ていたようだ。
「ただいま…っていうか、三人で僕の部屋で何やってるの?」
アンジェラの膝の上にリリィが、リリィの膝の上にマリアンジェラが乗っかっている。アンジェラはすごく重そうだ。顔には出していないけど…。どんだけべったりくっついてるんだ、この人たちは…。最近の自分とマリアンジェラのべったり具合を自覚せず脳内で批判するライルだった。
「あ、ライル、おかえり~。あのね、パパのタブレットが壊れたからライルのでライブ配信見てたのよ。」
「なるほど…で三人で固まって見てるわけ?」
「近づかないと見えないんだもん。ね、ママ。」
「なるほど…。」
「ライル、すごい盛り上がってたね。私も見に行けばよかったなぁ。」
「マリーも行きたかった。」
アンジェラも、ウンウンと頷いている。
「あ、ライルの夕食にマリーがちょっと待ってるって言ってたから、ここで待ってたんだよ。」
リリィがマリーを僕に渡す。
「ありがと、マリー。ちょっと手を洗ってくるね。」
僕はその後、マリーと融合して夕食をとらせてもらった。
ダイニングに移動し、席に座っていると、アンジェラが夕食を温めてくれた。
「いや、何、今日の夕食、どうしたのこのお肉…。」
厚さ5cmほどの骨付きステーキがドーンと鉄板の上にのって出てきた。
「これはな…フランスのワイナリーの横の農場のやつだ。いつも野菜や肉をそこでレストランに提供してもらってるからと今年のワインを多めにプレゼントしたら、かなりの大きさの牛肉の塊をもらったらしくてな、半分送ってきたんだ。」
「すごいでしょ、マリーはこの大きさのを5枚くらい食べてたわよ。」
いい匂いと付け合わせのポテトのグリルと野菜のグリルも美味しそうだ。
僕は迷わず食べた。
「うまい。まじうまい。」
なんだか生きてる実感っていうのか、食べる事って重要だと思う。
パンとサラダも食べながら、肉を完食した。
融合を解き分離すると、僕の膝の上にマリアンジェラが出てきた。
「不思議なんだけど、マリーは融合解除しても服着てるんだね。」
「うわ、本当だ…。すごっ。どうやってやってんの?私達いつもマッパで…。」
アンジェラの視線に気づき、リリィが自分で口を押えた。
マリアンジェラがニマッと笑って僕を見上げた。
「ライル、これはね~、お洋服着る時に、これは、今日自分の一部だって自分に思い込ませればいいのよ。大きくなったりするときにお洋服も大きくなるのも同じ理由だよ。」
すごい。次からは全裸でポロンと出ることを回避できそうだ。
その後、僕らは明日のスケジュールについて話し合った。
僕とマリアンジェラはダンスパーティーの2時間前にアメリカの家からアンジェラとリリィと一緒にアンジェラの運転する車で学校に行くことになった。
学校の中ではそんなに食べるものもないし、明日はそんなにイベントもない。
ダンスパーティーの時間に間に合うように衣装を着て両親を伴って行くのが一般的らしい。ちなみに両親はダンスパーティーの最後まで見ていてもいいし、迎えに来るまで一度帰ってもいいらしい。
アンジェラとリリィはマリアンジェラが心配なので、ずっと観客席にいる予定だ。
何かあったら困るので、リリィは体を封印の間に置いてくると言っている。
僕は、今日のチャリティコンサートの打ち上げの時に元クラスメイトから聞いたベスの話をアンジェラ達に話した。
「アンジェラ、僕らには何も伝わって来ていなかったけど、ベスが遠くの伯父さんの家に引き取られたそうなんだ。」
「そうだったのか…。」
「それでね、元クラスメイトが言うには、トーマスがあの宗教団体の建物の崩壊現場にいたのは確からしいんだけど。あの宗教団体の建物内で人体実験の痕跡が見つかったらしいんだ。トーマスはそれに関与したという事で、警察に拘束されているらしい。彼が教授をしていた大学では20人は行方不明になってるとかも噂になっているそうだよ。もしかしたら被害者なのかも…。」
アンジェラが少し考え込むような様子の後、静かに口を開いた。
「あいつら、私達を食べようとする前から良からぬことをしていたのか…。」
「そうか…天使を食べたら不死になるとかいう話を信じてるんだったっけ?」
「そう聞いたな。」
「もしかして、被害者も食べられちゃった?ひぇ~。」
リリィが身震いをして首を横にぶんぶん振った。
アンジェラは警察に問い合わせをすると言っていた。ライルの寮の部屋の前で首を切ったやつがその宗教団体に関与していたから僕達にも捜査の結果を知る権利があると考えられるからである。
マリアンジェラが眠くてウトウトし始めていたので、話は終了となった。
僕はマリアンジェラの首筋に手を当て、いつものように楽しい夢へと誘導していくのだった。




