415. 犯人の意図
その日の午前10時過ぎ、アンジェラがCEOを務める芸能プロダクションは、WEBサイトで新しいプロジェクトを近いうちに発表すると告知した。
内容は一切出さず、思わせぶりな内容の動画をアップした。
それと同時に、本社のサーバーがハッキング被害に遭い、その犯人特定のため、警察に捜査を依頼し、法的措置をとることを告知した。
僕が見つけた流出画像は三点。
一枚目は、翼を広げた僕とマリアンジェラが向かい合わせにくっついている前日に撮った写真。二枚目は一枚目と同じ様なのを上空から撮った写真。三枚目はリリィとマリアンジェラがスマホを覗き込んでいる写真だ…。
一枚目はCGだと言い張ればどうってことない写真だと思うが。
問題は二枚目だろうか…。上空から写した時に、リリィの影が月夜に照らされて写り込んでしまっている。そこには翼が生えているのだ。
アンジェラの会社には、イタリアでの未明、日本のオフィスに様々な問い合わせが殺到していた。一番多かったのは、一枚目の写真に関連している問い合わせだ。
『この二人は恋人同士なのか?』
『この翼は本物なのか?』
『この写真は何かの撮影の時のものか?』
『二人へのCMオファー』
『撮影場所はどこだ?』
二枚目の写真への問い合わせは、さほどの数は無かったが、質問内容がやはり少しマニアックだった。
『どうやって撮影したんだ?』
『これは城か?』
『写り込んでいる影の正体はなんだ?』
そして、三枚目はそんなには話題に上っていない様だが…。
『この人、船の転覆を救った奇跡の天使様じゃない?』
『二人ともきれいですね。』
そんな感じだ。まぁ、思ったほどのひどい問い合わせはなかった。
アンジェラは企画チームにとにかく派手な演出でのプロモを考えるように指示を出している。どんな演出になるのかはアンジェラしか知らない。
色々と考えすぎると、またそれはそれで良くないかなと思い、僕はいつも通り学校へ行くことにした。
寮の部屋に転移した。
外がやたらと騒がしい。その時、日本の父様から電話が入った。
「もしもし。ライル、そっちは大丈夫か?」
「え?どういう意味?」
「こっちは朝から報道陣が外に大量に押し寄せていて…。」
「あ、そうなんだ…。どんなこと言ってるの?その人たち…。」
「それなんだが…どうもリリィが一年ほど前のクルーズ船の転覆を救った天使じゃないかと、当時のSNSに上げられた動画と比較して芸能情報番組で取り上げられているんだ。」
「そう…。あの時はどうにかおさまってたのにね。」
「こっちでは、どう対応していいのかもわからないよ。」
「父様、騒がしくて申し訳ないけど、近いうちにアンジェラが何かしら発表すると思うから、それまで適当にかわしておいて。」
「そうか、わかった。」
電話を切り、校舎の方へ向かうと、門の方が騒がしくざわざわとしている。
警備の人が走ってきて僕に話しかけてきた。
「ライル・アサギリさん。今日は門の近くに行かないようにした方がいいと、警備の主任から伝言です。」
「僕ですか?」
「はい。ネットでかなり話題になっていて、パパラッチがいっぱい来ているんです。」
「そうですか…ありがとうございます。ご迷惑かけてすみません。」
僕は、思った以上にあの写真の影響力があることに驚いた。
つーか、どうってことない写真なんだけどな…。リリィの姿だってパーティーに出ても大騒ぎされたりしなかったのに…。
アンジェラはどうやって対処していくんだろう…。
『リアルエンジェル・プロジェクト』という言葉が、第三の眼の能力で見えたので、アンジェラに助言してしまったが…その先は僕には到底見当がつかない。
僕は少し不安に思いながらも通常通り授業に出て、その日やらなければいけないことをこなしたのだった。
学校での授業をすべて終え、寮に戻った時だ、スマホに着信があった。
ウィリアムだ。そう言えば、夏休みに彼の祖父が経営するリゾートに宿泊して以来の連絡である。僕は電話に出た。
『あ、ライル?今話せるかな?』
「ウィリアム、久しぶりだな。今日はなんだい?」
『なんだか大変なことになっているだろ?』
「そうなのかな?ハッキングは困るけど、あんなプライベートの写真、大したことないだろ?」
『そうか…ライルはあまり気にしていないのか?』
「何を?」
『あの写真をネットにまいたやつが書き込んだコメントだよ。』
「そんなのあったっけ?」
『のんきだな…。』
「で、なんて書いてあったの?」
『スクショ送るよ。』
僕は電話を切り、ウィリアムからのメッセージを待った。
3分ほどしてメッセージが届いた。
例の写真に並んで白い紙に筆のような物で書かれた文字が目に飛び込んだ。
『許さない』
日本語で、漢字で書かれたそれは、なんだか怨念を含んでいそうで背筋がぞっとした。僕は誰かに恨まれるようなことをしたのだろうか?犯人の意図がわからない。
念のため、アンジェラにそれを転送した。
直後、アンジェラから『早く帰れ』とメッセージが来た。




