411. 解明された過去の謎
ダイニングテーブルの席に座り、信じられないくらいの勢いで朝食を食べた。
アンジェラが見かねて声をかける。
「ほらほら、そんなに慌てるな。サンドウィッチは逃げないぞ、ライル。」
「んぐ…うん。わかってるけど…すごい久しぶりに超うまいんだもん。」
あっという間に食べ終わり、コーヒーも飲んだ。
コーヒーってこういう味だったっけ?香りだけじゃなく味覚があると違って感じるものなのだ。
「アンジェラ、ご馳走様。それから許可してくれてありがとう。」
「あぁ、うまくいって良かったよ。」
僕は、食事を終えた後、自室に戻り、ベッドの上でブランケットを被り、分離した。マリアンジェラが僕の横にポロンと現れた。え?服を着ている。
いつも僕とリリィが融合するときはなぜか最初に表面に出ている者の衣服しか含まれておらず、大抵融合した場所に衣服が落ちている。
「マリー、ありがとう。朝食、おいしく食べられたよ。」
「うん、見えてた。ライルが喜んでくれてうれしい。」
マリアンジェラがライルに微笑んだ。
「あ、あの…マリー、僕融合した時に少し夢を見ていたようなんだ。なんだか、不思議な夢で…金色の繭に人が入ってて…。」
「…。そう…あれ、見たのね。」
「え?うん、すごく変な夢で…血が付いた肉片が落ちてて…。」
マリアンジェラは目を伏せて僕から目を逸らした。
「それ、夢じゃないのよ。本当にあったマリーの記憶を見たんだと思う。」
マリアンジェラが言うには、最近まで本人自身も覚えていなかったマリアンジェラとして転生する前のアフロディーテの記憶だという。
「え?じゃ、僕はあの肉片なの?」
「ライル、あれはママの細胞だよ。」
「え、じゃ僕はどこにいるんだ?」
「体をメッセンジャーに乗っ取られたのよ。封印の間でルシフェルに入れる核をあなたが壊した時に、かなりひどい傷を負っていたでしょ。それで、メッセンジャーに体を入れ替えるスキを与えちゃったんだと思う。」
マリアンジェラは他にも知っていることを教えてくれた。
『メッセンジャー』と言うのは、僕たちの世界ではライラという名前だったというのだ。
メッセンジャーとは、いわゆる神々の使い魔的な存在で、本来は全部の世界に繋がる女神の洞窟のような場所へ天使の核を移動させる手助けをさせたりするのが役目らしい。
「ライラは僕の妹ではなかったということ?」
「妹なんかじゃないわよ。悪いことをした罰として、働かされているの。普通なら、犬とか、猫とか、鳥とか適当な動物に憑依して天寿を全うした天使の核を回収するのに、ライルの中にあったママの細胞に憑依して、ライルが弱るのを待って体を奪ったの。」
「どうして、そんなこと…。」
「でも大丈夫よ。あれは、あなたが過去を変える前の世界だから、今のこの現実とは違うの。今の現実は、ママの細胞もちゃんと子供として生まれ、少し行き違いはあったけど、二人は双子として助け合いながら成長したんですもの。」
「え、ちょっと待って、マリー。リリィがちゃんと生まれたなら、リリィの体はどこに行っちゃったの?」
マリアンジェラは言うべきか少し悩んだ様子だった。
「ライル、ママとライルが一つの体を共有しているのは、融合していた期間が長く、ママの体はもう、ライルの体のほんの一部となってしまったからだと思う。
それに、14歳になっても小さい子供の大きさにしかなれなかったの。」
リリィは単独では大人になることが叶わず、子供を持つことも不可能だったのだ。
結果として、変わってしまった以前の世界と同じように、リリィの細胞はそれだけでは人としては機能出来ないものとなってしまっているという。でも、今のこの世界では、融合前に確立されていたリリィの核はライルとは別に存在していたという事なのだ。
複雑すぎて頭が混乱する。
長い間謎だった部分が少し解明され、ライルは心の中のモヤモヤが晴れた気がした。僕がリリィと融合して育ったのは、アンジェラと出会いマリアンジェラとミケーレをこの世に送り出すためだったとも考えられる。
ライルは、マリアンジェラの頭を撫で、額にキスをした。
「マリー、側にいてくれてありがとう。」
マリアンジェラもライルに抱きついた。
マリアンジェラの温かい体温がライルに伝わっていく。
ほどなくして、散歩に行くよとミケーレに言われ、外に出かけた。
皆で海とは反対側の森側へ散歩に行った。
誰が植えたのか色々な木に、秋の果物が実をつけており、ブドウや梨が採れた。
どうもカゴに入れるより口に入っている方が多いような気がするけどね。
マリアンジェラはアンジェラに梨のパイが食べたいとせがんでいたが、それはアンジェラにも作れないらしい。
後で、お手伝いさんにお願いして調理してもらうことになったようだ。
マリアンジェラはどうもアンジェラのことを『なんでもできる人』だと思っている様だ。確かに、普通の人に比べたら何でもできてしまうのがアンジェラだが…。
楽しいことばかりして過ごす休日は、実に時間が過ぎるのが早い。




