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408. 子育て新体制

 9月17日、金曜日。

 昨日のリリアナとアンドレのゴタゴタを少しでも改善しようと、アンジェラがミケーレとマリアンジェラの乳母二人を、ジュリアーノとライアン専属にしようと提案した。

 その乳母たちはアンジェラが育てた人材の中でもアントニオさんが信頼する二人だ。

 アンジェラが特別な人間だという事も、僕達に翼があり、特殊な能力を使うことも承知している。

 リリアナは責任感が強く、何でも自分とアンドレの二人でやろうとして自分を追い込んでいたのだろう。

 本人に意見など殆ど聞かず、アンジェラは半ば強制的にそれを決めた。


 朝からそれは始まった。

 リリアナとアンドレの部屋にアンジェラが乳母を引き連れて訪問、返事を聞く前に双子をベビーカーに乗せダイニングへ移動。たたまれずに溜まっていた洗濯済の赤ちゃんの衣類や、オムツなど身の回りの物を回収し、乳母たちがダイニングの空いたスペースでちゃっちゃと畳んだり片付けていく。

 唖然としていたリリアナも、疲れているのだろう、反撃する元気もなく、しばし見つめるのみだった。

 昨夜はリリアナが癇癪を起し、アンドレを遠ざけたため、赤ちゃんをお風呂に入れずにいたようだ。乳母たちが浴室に赤ちゃんを連れて行き、あっという間にピカピカになった。髪もさっと乾かし、

 綺麗になったら、今度は食事だ。

 さすがにベテランの乳母はいくら丼を赤ちゃんに食べさせることはない。

 柔らかめに煮たマカロニにチェダーチーズとミルクを絡めた薄味のマカロニチーズだ。

 すでに普通の4カ月の赤ちゃんよりもかなり大きめの二人なので、テーブル付きのベビーチェアに座らせると、プラスティックの容器にマカロニチーズを盛り、赤ちゃん用の先割れスプーンを赤ちゃん達に持たせた。

 今まで手づかみでしか食べたことのない二人は目をパチクリしているが、乳母が二人の手を取って、スプーンですくって口に運ぶと、自然と口を開けた。

 一回わかれば意外にできるものである、少し苦労しながらも自力で、たまに手を使いつつも順調に食べている。しかもかなり真剣に食べているので静かである。

 途中でリリアナがダイニングにきた。


「え?もう食べ終わりそう。」

「はい、お二人ともとてもお行儀よく、食べていますよ。」

 乳母が言った。確かに…いつもと違う感じだ。

 乳母が言うには大人の食べ物は赤ちゃんには味が濃いので、もうちょっとしてからの方がいいという。一緒に食べずに先に終わらせてしまう作戦の様だ。

「あ、ありがと。」

「皆様のお食事は出来ているようですので、取り分けてどうぞ。」

 なんだか今までの気の張りようが嘘のようにラクチンだ。

 アンドレも遅れてやってきた。

 敢えて赤ちゃんから少し離れたところに座るように言われ、赤ちゃんを乳母たちに任せる。

 久しぶりにゆっくりと朝食を食べた気がした。

 ミケーレとマリアンジェラ、アンジェラとリリィもやってきた。ライルは気が付かなかったが一番最初からダイニングの窓際の丸テーブルで一人コーヒーを飲んでいたようだ。


 マリアンジェラは赤ちゃんの食べているマカロニチーズと同じものを少し分けてもらい。二口ぐらいで食べつくしていた。

「なつかしいわね~。」

「おいおい、どこのおばさんだ、この前まで食べていただろう?」

「てへ。そうでした。」

 アンジェラに突っ込まれても余裕でかわしている。

 食事をしながら乳母が一応毎日のルーティーンでやることを説明された。

 朝の身支度、朝食・ミルクの世話、オムツ替え、朝の散歩、昼食、おやつ、夕食は用意して、席に着かせたくらいで通いの乳母なので帰る時間になる様だ。

 夕方に入浴させて良ければ、入れてくれるらしい。

 そういえば、ミケーレとマリアンジェラもお風呂はリリアナやアンドレと入ることが多かった…。

 乳母の仕事が必要のない日は別の清掃などをしているらしく、その都度言えばいいようだ。最近見ないと思っていたが、ミケーレ達が自分で何でもできるようになったので、他の事をしていただけだった。


 リリアナとアンドレはどうして今まで思いつかなかったのかと、少し後悔したほどだ。アンドレなどは自分だって乳母にずっと育てられているはずだし、ここの家に乳母がいることも承知しているはずなのだが…。

 まぁ、とにかく結果オーライという事で、皆笑顔で迎えた朝だった。


「ライル、ご飯たべないの?」

 マリアンジェラが言った。

「うーん、この状態だと味がしないからね…」

「かわいそうね…。」

「心配しなくていいよ。優しいなマリーは…。」

「…。」

 リリィとの融合は出産まで禁止となったため、味覚が不完全なのは我慢するしかない…。食べられないわけではないし、少しストレスは感じるものの、きっと大丈夫だ。


 ライルが朝食をとっている皆に向かって話し始めた。

「あ、そうだ。皆に知らせておくね。今年もホームカミングが10月にあるんだ。12年生はダンスパーティーにも出なきゃいけないんだけど…。

 まだ詳しいことは誰かに聞かないとわかんないんだよね。」

「ダンスぅ?」

 反応したのはマリアンジェラだ。

 マリアンジェラの頭の中ではダンスと言えばファイヤーダンスだが…。

「マリー、ファイヤーダンスじゃないよ。」

「にゅ?心読めるの、ライル…。」

「イヤ、読んでないけど、この前動画見てただろ?」

「じゃ、どんなダンス?」

「たいしたダンスじゃないと思うよ。音楽に合わせて揺れるだけとか…。」

「そうなんだ…。マリーはタコダンスが得意だよ。」

 すかさずタコの動きでクネクネして見せる。

 皆大爆笑…。

「マリー、それはちょっと違うかも…。」

「そうなのぉ?」

 絶対わざとである。リリィが聞いた。

「ライル、それってさ、パートナーを連れて参加ってやつ?」

「そうなんだよ。だから本当は参加したくないんだ。誰かに頼むのも頼まれるのも嫌だからね。まぁ、一人で参加できるかどうか聞いてみようと思ってるんだ。」

 色々と大変だね、学生も…という感じで、ライルが出るイベントがあるならまたみんなで行こうか、とアンジェラが締めくくった。


 双子は早々に食べ終わり、乳母が外出着に着替えさせていた。

 リリアナとアンドレに少し余裕ができたようで良かった。

 アンジェラが食事の後片付けをしながらリリアナに聞いた。

「リリアナ、いつアンドレと仲直りしたんだ?」

「…あ、夜中に、私が間違ってたって、ちゃんと謝りました。」

 少し小さい声でリリアナが言った。

「そうか、気づくという事はすばらしいことだ。こんなに献身的に尽くす男はいないだろう。」

「はい。」

 どうやら、気持ちの切り替えもきちんとできている様だ。

 アンドレとリリアナの新体制での子育てが始まったのだ。

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