403. 妊娠発覚と新たな能力
8月31日、火曜日。
リリィの貧血は思いのほか悪く、さらに三日入院を必要とした。
やっと、今日退院できることになり、お迎えに来てもらえるのが待ち遠しかった。
午前9時にアンジェラがマリアンジェラとミケーレと共に病院に来た。
ローマの事務所から自分で運転してきたようだ。
入院費用などの清算を済ませたアンジェラが、病室で荷物をまとめていた私に声をかけた。
「リリィ、準備はいいか?」
ようやく点滴が外され、どうにか自由に動けるようになったが、少しの間動くのを制限されていたせいか、体が重い。
「アンジェラ、ごめんね。忙しいのに。」
「それより、リリィ。主治医からちょっと話があるから二人で来てくれと言われたんだが…。何か聞いてるか?」
「ううん。聞いてないよ。」
二人はマリアンジェラとミケーレを連れて主治医の控室へ行った。
応接セットのある部屋へ案内され、座って待つように言われた。
主治医がすぐにきて、話し始めた。
「すみません。お引止めして。昨日の検査の結果をまだお伝えしていなくて…。」
「あ、そうですか。何かありましたか。」
「そうなんですよ。貧血の原因とでも言いましょうか…。」
「何だったんですか?」
「奥様、妊娠されてますね。本当に初期なので、最初の日にやった検査では出なかったようです。おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
アンジェラがパアァと笑顔を作り、嬉しそうに返事をした。
「双子ね。金髪の。」
ミケーレがニヤニヤしながら言った。主治医がそれに反応して言った。
「ははは、さすがにまだそこまではわからないよ。まだ、きっと豆粒くらいだからね。
もう少ししたら産婦人科を受診された方がよろしいかと思います。お体に気をつけてください。」
「はい、そうします。やったな、リリィ…。」
あまりにも嬉しそうなアンジェラにリリィは少し複雑な気分だった。
家族が増えるのはうれしいけど…これから迫りくる地球の危機に身重の体で準備ができるのか…。
皆でアンジェラが運転する車に乗り込みローマの事務所まで行った。
そこからは会議室を使って家へ転移した。
家に着くなり、アンジェラはリリィをお姫様抱っこしてベッドルームへ連れて行った。
服を脱がせ、パジャマに着替えさせてくれ、ブランケットをかけてくれる。
「昼食の支度をするから、待っててくれ。出来たら迎えにくるから。」
チュと額にキスされ、アンジェラはダイニングに行ってしまった。
少しするとミケーレが寝室に入ってきた。
「ママ、まだ具合悪いの?」
「ううん。もう大丈夫。赤ちゃんがお腹にいるせいだったんだって。」
「ミケーレね、この前ここのお目目で見えたもん。金髪の双子の赤ちゃん。」
「そうなの?ミケーレはGが見えるって言ってたじゃない?」
「あ、パパが赤ちゃんを抱っこしてるのが見えたの。」
ミケーレがリリィのお腹を触った。
「あ!」
「どうしたの?」
「ライルもね、ミケーレと同じのできるようになったって言ってた。」
そうだ、能力のコピーをすれば、自分にも使えるはずだ。
リリィは自分のお腹にのせられたミケーレの手に自分の手をのせた。
紫色の光がブランケットの中で光った。
自分自身を見てみようと思ったが、何も起きなかった。次にミケーレを見た。
やっぱり何も見えなかった。
「何か、問題があったりしないとわかんないのかな?」
「ママ、ぎゅってしていい?」
「うん、おいで。ぎゅってしよう。」
ミケーレをリリィは抱きしめて、額にキスした。
「うちの王子様、甘えん坊ね。」
「へへへ」
その頃、マリアンジェラはライルの部屋でライルを観察していた。
「ねぇ、何してるの?」
「勉強。」
「ふーん。」
「マリー、あと三分で昼食だと呼ばれるぞ。今日はスモークサーモンのサンドウィッチとラクレットチーズとソーセージだ。」
「え?どうしてそんなことわかるの?」
「内緒…。」
ライルはミケーレの能力を簡単に使いこなしていた。
こんな日常の予知までできるのは便利でもあり、どうでも良くもある。
雑多な情報と言う気もするし、危険がせまっているときは非常にありがたい情報でもある。後で、リリィにこの能力の使い方を教えてやろうと思っているのだった。
アンジェラがライルの部屋とリリィの寝室に昼食の準備ができたと知らせに来た。
ミケーレはアンジェラに抱っこされ、リリィは自分で歩いて移動した。
マリアンジェラはライルに抱っこされてダイニングにきた。
「リリアナとアンドレは?」
「少し時間をずらすそうだ。」
「そう。」
なんだかずっと留守にしていたので、手伝えてないことを申し訳なく思った。
「リリィ、大丈夫だよ。ジュリアーノとライアンは今夜出てくる。」
「え?ほんと?」
皆がその言葉に驚いた。
「あ、あぁ。ミケーレの能力をもらったんだよ。」
「すごい、私もコピーしたけど、何も見えなかったよ。」
「まぁ、あとでコツを教えるよ。」
マリアンジェラはそんな話より、アンジェラがバーナーで溶かしてのせてくれるラクレットチーズに目が釘づけた。
「パパ、もっとのっけて。」
「お皿からはみ出てしまうぞ。」
「大丈夫だよぉ、端っこから吸い込むから…」
口を尖らせてチューチュー言わせているのを見て、ライルが大笑いしている。
「笑ったわね。」
口を尖らせたまま苦情を言うが、笑いは止まらない。
「マリーがあまりにもかわいくて。」
マリアンジェラが赤面して、持ち上げてたお皿を置いた。そして自分も笑った。
「きゃはは、楽しいね。」
笑いの尽きない家族の時間だ。




