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400. アズラィールの里帰り(3)

 夕方になり、アンジェラとリリィが奥の部屋を借りて浴衣に着替えた。

 アズラィールが言ったようにアンジェラが小さい時に着ていた浴衣をミケーレも着せてもらった。マリアンジェラがポツンと一人指をくわえて見ている。

「皆、素敵ね…。」

 そこで、リリィが紙袋の底からもう一枚の浴衣を出した。

 過去が変わる前にライラが選んだ花火の模様が入ったものだ。徠夢が言うには、リリィがどっちにするか迷ってどっちも買ったという話だった。

 微妙に過去が変わっているが、物はあったのだ。

「マリー、一回大きくなって。」

「ん?どうして?」

「ほら、これ、かわいいでしょ?浴衣、ママのだけど、大きいから一回大きくなって着てから小さく戻ってみて。」

「着ていいの?」

「うん、お下がりでごめんね。」

「ううん。花火のかわいい。」

 そう言って大きくなり、浴衣は鈴に着つけてもらった。

 着終わったら、シュルシュルと小さくなるマリアンジェラを見て、鈴はまた腰が抜けそうだ。

「マリーちゃん、着ているものも小さくなるのかい?」

「そうなの、脱ぐと元の大きさに戻るんだよ。ママはね、時々体だけ大きくなってピッチピチのパンツはいてるときあるんだよ。」

「マリー、それ、バラすな~。」

 リリィ、マジで困り顔だ。アンジェラは思い出して『ぶふぇっ』と吹き出している。


 皆浴衣に着替えたところで、緑次郎夫妻も含め池の前に集まってもらった。

「あの…今日、せっかくなので、花火大会を見に行きたいと思います。」

「花火大会とは何ですかな?」

「えっと…河原で花火をたくさん打ち上げて眺めるんです。」

「どうやって行くのですかな?」

 緑次郎、結構乗り気である。

 夜、7時から花火が始まる。ちょうど、徠神の経営するお店のユートレア城を模した店舗には、塔があり、そのテラスから近くの湖で行われる花火大会が見られるのである。

「あの、目を瞑ってください。10秒くらい。はい、お願いします。」

 皆目を瞑った。なぜかアンジェラやミケーレまで…。

 マリアンジェラとアズラィールは二人で顔を見て笑っている。

 リリィは物質転移を使い、現代の徠神の店のVIPルームに転移した。

「あの、着いたので、目は開けても大丈夫です。」

 皆が目を開け、緑次郎や鈴は驚きで足元がふらつく。

「何がどうなっているんですか?」

「ここは、2027年の日本です。朝霧城があった場所で、今、徠神が経営しているレストラン、の店舗の中です。」

「ぼ、僕が?経営?」

 子供の徠神が目を大きく見開く、そこへ現在の徠神が入ってきた。

「わっ。ずいぶんたくさんいるな…。つーか、誰?え?は?お?じいちゃん。ばあちゃん。母上…?お、俺???」

 徠神、いつも通りのリアクション、ごちそうさまです。

 全然昔の人っぽくない反応で、緑次郎さん夫妻や鈴とハグして喜ぶ徠神だった。

「なんだかなぁ…、自分自身とハグは変だな。よ、昔の俺。ちゃんと戦争の時は、ここの地下に防空壕作って隠れるんだぞ。じゃなきゃ死んじまうからな。」

「え?」

「…おまえ、自分でばらしたのか?」

 アンジェラが徠神に言った。

「ん?今、初めて言ったんだぞ。」

 時間のあれこれを理解していない感じで、しらっととぼける。

「あ、花火見に来たんだろ?懐かしいな…。ずっと夢だったかと思ってたけど違ったな。早くしないと始まるぞ。そこの裏の扉の右側の突き当りから階段に入るんだ。」

 背中を押され、子供の徠神と鈴、緑次郎夫妻、アズラィール、アンジェラ家族は徠神の店の塔の上まで階段で上った。

 塔の途中は螺旋階段が長く続き、小さな小窓しかなかったが、一番上まで来ると、外に出ることができ、開放感のあるスペースになっていた。テーブルとイスも置いてある。

 数分後、高台の、更に塔の上から、見下ろすように湖で開催されている花火が打ち上げられ始めた。

 自分の治める領が全貌出来るその場所に、西洋の城が建ち、そこで見る花火は壮観だと緑次郎は思った。

 鈴も、自分の夫や、息子たちが遠い未来も幸せで、平和な世の中で暮らしていることを知ることが出来とてもうれしく思った。


 花火を見る皆の後ろから声がかかった。

「みなさん、こっち向いてください。」

 皆が振り向くと、スマホのライトがピカッと光った。徠央が記念撮影をしたのだ。

「あ、母上、じいちゃん、ばあちゃん。それ、俺の息子の徠央な。店一緒に手伝ってくれてるんだ。」

「む、息子までここで暮らしているのかい?」

「そうだよ、母上。血縁の半分くらいはここで暮らしてるんだ。」

 そこへ、今度はスィーツがたくさん入ったお持ち帰り用の箱を持って徠輝が来た。

「父さん、これでいいの?」

「オッケー。これ、持って帰ってみんなで食べてよ。冷蔵庫ないだろうから、早めに食べてな。あ、ちなみに、こいつはもう一人の息子、徠輝だ。」

「二人もいるのかい?」

「母上、うちはいつでも双子ばかりだぞ。」

 鈴は驚きっぱなしだ。


 花火が終盤になり、そろそろ帰ろうというとき、徠央がさっきの写真を近くの電気屋の機械でプリントアウトしてきた。

「はい、これ記念に。」

「わぁ、すげー」

 少年徠神はきれいに印刷された写真を受け取り大喜びだ。

「さあ、そろそろ帰りましょう。」

 リリィが声をかけると徠神が名残惜しそうに緑次郎達と握手をした。

 アズラィールと鈴、徠神、緑次郎夫妻だけ、過去に送って行き、そこからアズラィールだけをまた連れ帰った。帰り際にリリィがアズラィールに聞いた。

「お泊りしなくてよかったの?」

「うん、いいんだ。こういってはなんだけどね、僕たちは少しずつ見た目の年齢差が開いていくのがわかるよ。35歳の鈴、37歳の僕…でも実際には彼女は35歳で、僕はまるで20歳の大学生だ。愛していても辛い気持ちになることは予想がつくだろ?

 だからアンジェラがうらやましいよ。いつまでも変らず一緒にいてくれる奥さんをもらってさ。」

 アズラィールが少し本音で話した瞬間だった。

 アズラィールを朝霧邸に送り、自分たちもイタリアに戻った。夏のいい思い出になった一日だった。

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