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395. リゾラバ(2)

 ピアノの側に移動した時、スタッフから声が掛けられた。

 ウィリアムから話を聞いているが、何かリクエストは無いかということだった。

「大丈夫ですけど、もしお客さんに聞かれたら、あくまでも僕たちはプライベートで来ているので、騒がないで下さいとお願いしてください。」

「はい、かしこまりました。」


 僕がピアノの前に座り、そのピアノの椅子の端っこにマリアンジェラが後ろ向きに腰かけて僕にもたれかかる。

「マリー、くっつきすぎじゃない?」

 僕がそう言うと、マリアンジェラがクスクス笑いながら言った。

「ライル、だって他に座るところないんだよ。膝にのったらピアノ弾けないし。」

「まぁ、そうだね。」

 僕もクスクス笑って、ピアノを弾き始めた。

 いつもよく弾くクラッシックの曲ばかりを続けて三曲。一曲目から食事中の客はこちらをガン見していたが、一人、二人と動画を撮り始め、段々距離が近くなってくる。

 あちこちで、ピロリン、とメッセージやメールを受ける音が聞こえている。

 部屋にいる仲間を呼んでいるのか、SNSにアップした投稿に反応があったのか…。

 一曲終わるたびにすごい拍手を受けるが、僕はプロではないので、少し愛想笑いをする程度で、すぐ次の曲を弾き始めた。

 三曲目が終わり、次にアンジェラに言われていたので、自分の曲を弾きながら歌うことに…。

 かなり恥ずかしいが、プロモだと思い開き直ることに…。

 弾き始める前にマリアンジェラが立ち上がって、耳打ちする。

「おまじない、かけてあげよっか?」

「え?おまじない?」

 キョトンとする僕に、マリアンジェラは唇にかするくらいの頬にチュとキスをした。

 僕は、マリアンジェラの瞳を見つめて言った。

「それって、逆効果だよ。いますぐここから帰りたくなった。」

「えー?」

 ショックを受けるマリアンジェラに、囁き返す。

「だって、そんなことされたら、皆が見ていないところでキスしたくなるだろ…。」

 マリアンジェラは満面の笑みで僕の髪を触る。あー、もうダメ。マジで、かわいい。

 心の中でそう思いながら、最後のミッションクリアに向け、ピアノを弾き始める。


 僕らのやり取りは多分お客たちには聞こえていない。しかし、見えているからね。

 しかも撮られまくり、というか撮らせてると言ってもいい。

 僕らはアンジェラが言っていたみたいに、公共の場で恋人宣言ともとれるパフォーマンスをやったということだ。

 歌を歌い、拍手をもらい。中には花束まで用意してくれたお客もいた。


 その場から離れ、一度ウィリアムが借りてくれた部屋に行き、少し休憩をした。

 マリアンジェラはお腹いっぱい食べて満足したのか、うとうとし始め、ベッドに横になっているうちに眠ってしまった。

 その横に座り、マリアンジェラの髪を撫でているうちに、本当にキスしたくなった。

 さすがに寝ている相手に勝手にキスは出来ない…よな。

 僕はキスをする代わりに、マリアンジェラの首筋に手のひらを当て、夢の中へ入った。

 夢の中のマリアンジェラは、さっきのレストランでの続きを見ているようだった。

 部屋に戻ってきた後、僕にハグして撫でてもらう夢だ。

『僕のかわいいマリー。』

 僕がそう言っていつの間にか僕に膝枕をしてもらって眠る夢だ。

 その夢の中で、マリアンジェラが幸福感を感じていることがよくわかる。

『僕も今日は楽しかったよ。』

 マリアンジェラの夢の中で、僕もそう言った。

 気づけば、僕もマリアンジェラの横ですっかり眠っていた。


 生身の体で無くなってから、リリィと融合しているとき以外で眠れたのは初めてだった。

 1時間ほどで二人は目を覚まし、1Fのブティックで水着を調達した後、プールやウォータースライダーで遊びまくった。

 あっという間に一日が終わり、夕食はルームサービスを使い、食事の後は部屋の大きいテレビで映画を見まくった。

 マリアンジェラはゾンビの映画が気に入ったようだ。また、やたらとシリーズの本数が多い。

 こんなの家で見たらアンジェラに怒られそうだけど…。ゾンビの真似して白目をむいて襲ってくる。

「あはは…すごい似てる。」

「ほんと?お家でもパパにやったげようかな。」

「いやぁ、それはやめなよ。」

「えー、どして?」

 ずっと笑いっぱなしの夜だった。


 翌朝、シャワーを浴びた後、レストランで朝食を済ませ、ウィリアムに電話をかけた。

「ウィリアム、ありがとう。楽しかったよ。」

「昨晩、本当に二人だけで泊ったの?」

「うん。映画を5本くらい観たよ。ゾンビのばっかり。ははは」

「それってスキャンダルとかにならないか?」

「僕達、親戚だから、同じ家に住んでいるし、それは大丈夫だよ。」

「ならいいんだけど…。」

「そろそろ帰るよ。キーをフロントに返せばいいのかな?」

「あ、うん。僕もフロントに行くよ。」


 フロントに下りるとウィリアムがやってきた。

「ライル、来てくれてありがとう。」

「こっちこそ楽しかったよ。ありがとう。」

「昨日のSNSでの話題は君たちが独占だったよ。そして、うちのリゾートへの予約が殺到しているようだよ。本当にすごいよ、君は。」

「別にいいんだよ。お礼だから。」

「…お礼?」

「ウィリアム、次は新学期、学校でだな。」

「そうだね。じゃ、また学校で…。」

 僕はマリアンジェラと来た時と同じように手を繋ぎ、徒歩でアンジェラのホテルへ戻った。そうして、エレベーターに乗り、移動途中にイタリアの家に転移した。

 二人のリゾラバ体験は終わった。

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