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383. 女神の能力

「ライル、今すぐ家に来てくれ。マリーがおかしいんだ。」

 電話を受けたライルが何かを言う前にアンドレが叫んだ。

 ライルはすぐに家に転移した。


「パパ~、なんだか気持ち悪くなってきた…。」

「マリー、もう少し頑張れ、今ライルが来るから…。」

「パパ…。」

 体内の核だけではなく、マリアンジェラの体全体が光り始めている。

 その時、ライルが到着した。

「マリー、どうなってるんだ…。」

「ライル、核が点滅し始めて、少し前から体全体に点滅が広がってきたんだ。」

「アンジェラ、僕、マリーの中に入ってみるよ。またどこかに行っちゃったら困るだろ?

 中に入っていれば、一緒に飛ぶはずだろ。決断してくれ。」

「あぁ、頼む。この状態から脱するまで、マリーの中に…」

 話が終わる前にライルはマリアンジェラの指を噛んでマリアンジェラの中に入った。


 苦しい。どこが、かと言われるとよくわからない。

 胸が苦しいような…胃が痛いような、そんな感じだ。

 マリアンジェラがアンジェラにしがみついて泣き叫ぶ。

「パパ~、苦しいよぉ。」

「マリー…。」

 マリアンジェラを抱きしめ、アンジェラが泣き始めている。

 その時だった。それは突然起こった。マリアンジェラの体から眩い光が発せられ、周りの景色迄見えないほどにホワイトアウトした。


 僕は真っ暗闇の中で気が付いた。

 僕が中に入っているマリアンジェラの体ごと転移してきたようだ。マリアンジェラの体は明滅したままだ。

 マリアンジェラは意識があるようで、泣きながら立ち上がった。

「うっ、うえぇぇん。うぇっ。」

 体は大きいままだが、泣き方は小さい時と同じだ。僕は、今、外に出ようか迷った。

 しかし、少し様子を見ることにした。

 マリアンジェラが歩き出したからである。歩くこと30分ほどか…、まるでこの場所を知っているかのように歩いていたが、そこはあの愛の女神の洞窟だった。

 白い壁がほのかに光りを放ち円形のその部屋は、つい先日訪れたばかりのあの部屋だった。

『ぐすっ、うっ。』

 マリアンジェラは、泣きながらあの女神の石像が半分出ていた壁に右手をついた。

 壁の中から白い石でできた小さな手が出てきて『ガッ』とマリアンジェラの手首を掴んだ。

『ぐいっ』とマリアンジェラが右手を引き、石の壁の中から白い石でできた小さな少女を引っ張り出した。

『きゃあっ』

 白い石の少女は悲鳴をあげた、マリアンジェラはまだ少し涙が出していたが、それを左手で拭うと、白い石の少女に言った。

「なんで私をこんなとこに呼んだの?」

 白い石の少女は、握っていた手をマリアンジェラの体の前で開いた。

 そこには、金色のキラキラ光る中身が流動している核があった。

「ママの…返して。」

『これ、ここじゃないと治らないよ。いいの?このままだと割れて、死んじゃうよ。』

 マリアンジェラの目がギュと閉じられた。そして大きく見開いて、言い返す。

「じゃあ、どうすればいいのよ。だいたいあんた誰よ、名前もわかんないし。」

『自分のこと忘れちゃったの?アフロディーテ。』

「私はマリアンジェラ・アサギリ・ライエン。そんな変な名前じゃない!」

『そうね、あなたはアフロディーテであることを捨てたんだったわね。でも、そのせいで、この洞窟の力が弱くなっているの。あなたが力を殆ど持って行ったから…。』

「質問に答えてないよ、あなたの名前は何よ!」

『私はあなたの一部、アフロディーテよ。人間の世界では愛の女神って呼ばれてるの。』

「愛の女神?」

『ここは、唯一天使が生まれることが出来る場所…。すべての世界の天使の苦しみや悲しみを受け止め、天使を世に送り出す場所…。』

「ここで天使が生まれるの?」

『そうよ。だから、この金色の愛の天使も生まれた時みたいに優しく保護してあげれば、元通りになるはずよ。』

「じゃあ、やって。治して。」

『でも、あなたが殆どを持って行ってしまったから、私のちからが不足しているの。

 だから、あなたの天使はあなたが治してちょうだい。』

 マリアンジェラは少し黙った後、口を開いた。

「どうやって?」

『あらあら、それも忘れてしまったのね。あなたのお腹にこのキラキラの核を入れて、そこの壁に入るのよ。十分に治ったら、あなたの体ごと壁から出て来れるはず…。』

「むぅ…その後は?どうやって帰るの?」

『出てきたときに教えてあげるわ。』

「うそつかない?」

 白い石の少女はニヤリと笑った。

 マリアンジェラは意を決して、リリィの核を白い石の少女から受け取り自分のお腹の辺りに近づけた。核が浮き上がり、スーッとマリアンジェラの腹部に吸い込まれていった。

「うわ…。お腹のとこ、あったかい。」

 マリアンジェラは、白い石の少女に促され、そこだけ装飾が施されていない壁面の前に立った。つるつるの大理石か鍾乳洞の意思みたいな肌触りのそれは、触ったときはヒンヤリと固く、手を当てたままにしていると、手がどんどんめり込んでいく…。

 もう、引き返せない。どっちにしてもママを治さなければ、家族のために、自分のために…。マリアンジェラはグイッと手を押した。

 ひんやりと冷たい感触が上半身、下半身へと広がり、体全体が今まで経験したことのない空間に入った。

 今、自分が入ってきた場所が窓のように開けていて、それ以外の場所はどこまでも真っ暗な、触ることができない果てしない空間のように思えた。

 自分が呼吸をしているのかさえ分からない。

 窓の方へ近づく、出ることは出来ないがそこに留まり、白い室内の様子を見ることは出来た。

 ライルは、そんなマリアンジェラの意識の中で、じっと待つことに決めた。今ここで離ればなれになることは得策じゃない。

 まずはマリアンジェラが決めたこと、リリィの核を治すことを優先すべきだ。

 ライルがそんなことを思った時、マリアンジェラの意識が遠くなり、すっかり目を閉じ真っ暗闇になった。

『ドックン、ドックン』

 マリアンジェラの心臓の音だけがゆっくりと聞こえ、リリィの核がある腹部だけがほんのり温かい。

 いつの間にかライルもマリアンジェラの中で眠ってしまった。

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