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38. 徠人初仕事

 九月八日水曜日。

 朝起きたら、徠人は僕のベッドにはいなかった。

 でも、僕は全部脱がされていた。これ、何の儀式だよ、毎日毎日…。

 とりあえず、徠人が先に起きたってことかな…。

 身支度を整え朝食へ向かう。ダイニングでは父様がすでに朝食を終えコーヒーを飲みながら疲れた顔をしている。

「父様、おはようございます。」

「おはよう、よく眠れたかい?」

「はい。」

「徠人は見たかい?」

「いいえ、それが今日はまだ見ていません。」

 父様は、少し焦った感じで探した方がいいかと言い始めた。

 そこへ、徠人が静かに登場。

「あ~、よかった。逃げられたかと思ったよ。」

「約束は守る男だよ、俺は。ふふっ。」

「何してたんだい?」

「ちょっと勉強。俺小学校も行ってないだろ。変な事言っちゃったら困るからさ。」

「へぇ、感心だね。それでどんな勉強をしてたんだい?」

 徠人はドヤ顔でスマホの画面にドラマの動画が再生されているのを見せる。

「…。」

 父様の不安はとってもよくわかります。

 午前七時半、朝食を終え、僕は学校へ。


「行ってきまーす。」

 父様が玄関で手を振ってくれる。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ。」

 横からすすっと徠人が接近してくる。

「わ、なんだよ。あんた、今日から動物病院を手伝うんじゃなかったのか?」

「まだ二時間半もあるだろ。だから散歩だよ、散歩。リハビリも兼ねてだな。ふふっ。」

「うぉん。」

 あ、アダム。そうか、アダムを散歩に連れて行ってくれるのか…。

 やさしいとこあるんじゃん。

「おい、この犬っておまえには言ってることわかるのか?」

「あ、うん。まぁ。」

「なんか話してみろよ。」

「…。そんなこと無茶ぶりされても、話すことそんなに思いつかないよ。」

「くぅーん。」

「あ、ウンチしたいっていってるけど。」

「それは、見たらわかるだろ。もうしちゃってるし。」

 アダムのウンチを僕に片付けさせて、自分はしれっとしてるし。

 本当に何考えてるかわかんないな、この人。

「ねぇ、どこまで散歩に行くつもり?」

「お前の学校の前まで。」

「え?やめてよ。」

「どうしてだよ。」

「どうしてもだよ。」

 そう言い合いながらも、結局学校の前まで到着し、徠人は軽く僕の頬に手を当て「じゃな。」と言って帰って行った。

 そして、気づく、僕らの周りに人だかりができていることに…。

 キャー、やめて。見ないで~。心の中で叫びつつ昇降口まで全速力で走った。


 あいつ、やっぱりなんか変な能力使ってるんだよな。

 その時、急に僕のランドセルを掴んで動けないようにされた。

「っ…。誰だ。」

 そこには「橘 ほのか」がいた。

「ねえ、朝霧君。昨日は逃げられちゃったけど、今日はそうはいかないわよ。あの、さっきの人、誰?」

「あのさ、僕に話しかけないでくれない?」

 橘ほのかは目を細めて機嫌悪そうに「何でよ。」と言った。

「女子に話しかけられるとさ、他の男子に嫌味を言われるんだよ。面倒だし、くだらないし、話すこともないし、だから話しかけないでよ。ということで、じゃあ。」

「ちょっと、待って!あんたに用事じゃないのよ。さっきあんたと一緒にいた人の事を聞きたいの!」

「えぇ~。」

 あまりのしつこさに折れてしまった。

「早く言いなさいよ。」

「あれは、僕のおじさんだよ。父親の双子の弟。もう、これ以上何も答えないから、話しかけないで!」

 僕は橘ほのかを振り切って逃げた。

 その日一日中、橘ほのかの視線を感じたが、そのたびにダッシュで逃げた。

 徠人のこと知ってどうするんだよ。意味わかんない。

 終礼の後、猛ダッシュで校門を出る。

「おい、どうした?そんなに急いで…。」

 って、徠人がどうしてここにいるんだよ。

「あれ?動物病院どうしたんだよ。もう午後の診療始まってるだろ?」

「ん、おまえの事迎えに行くって言ったら三十分だけ遅れてもいいって、徠夢が。」

「頼んでないでしょ~。」

「また拉致られたら面倒だろ?」

「まぁ確かにそうだけどさ…。みんなじろじろ見てるから、早く行こうよ。」

「ん。」

 徠人はいつもの調子で僕の肩に手をかけ、抱き寄せる。

「だから、やめてって~。」

 結局、徠人の手を掴んで引っ張って走って帰った。

「ほら、早く動物病院、手伝ってあげてよ。」

「りょーかい。ふふっ。」


 僕は宿題をやったり、本を読んだりして夕食までの時間を過ごしていた。

 ちらっと出窓のケースを見ると、朝はいなかったイヴが今は帰ってきている。

 よかった。車とかにひかれてたら嫌だからね。

「あ、そうだ。イヴ、ネズミにもなれるの?」

 聞いとかないとね。忘れるところだった。

「あ、はい。ハサミとか使えないので、縄を切るのにどうしたものかと。」

「あぁ、それで…。ありがとう。いつも助かるよ。」

「お役に立てて幸いです。」

 イヴは蛇とは思えないくらい丁寧で真面目だ。徠人にも見習って欲しい。

「…。」

 今、イヴが笑ったような気がした。


 夕食の時間になり、父様が戻って来た。

 やっぱり疲れてそうだ。

「父様、お疲れ様です。忙しかったんですか?あの人、ちゃんと働いてました?」

「あ、あ、うん。徠人はとても要領よく働いてくれたよ。ただ、ちょっと誤算があったかな。」

「誤算、というと?」

「新しいイケメンスタッフがいるという噂が広まったようでね。午前中はさほど混みあってはいなかったんだけれどね。午後になったら病気でもなんでもない犬や猫を連れた女性がずいぶんとたくさん押し寄せて来てね。まぁ、定期健診と言って健康チェックしただけだから、時間はそんなにかからなかったんだけれど。どこからそんな噂が広まるのか…。」

「徠夢、だから言っただろ、俺が手伝ったら逆に忙しくなるぞって。ふふっ。」

「あんた、変な能力使ったんじゃないだろうな?」

「おまえ、わかってないな。俺の美しさを。ふん。」

「はい、はい。」

「まぁ、でもずいぶんと助かったよ。これからも頼むよ、徠人。」

「まあ、いいよ。暇だしな。」

「あ、そうだ。この前の事件の時に呼ばれてたのに大学の研究室に行かなかったから、今夜ちょっと見てこようと思うんだよ。」

「徠夢、一人で大丈夫なのか?」

「そうなんだよ。実は教授にも研究室にも電話がつながらないんだ。」

「そういう時は全員で行動した方がいいだろうな。おまえも家に一人じゃ危ないから、一緒に行動した方がいい。」

「あ、うん。そうだね。大丈夫だよ。行ける。」

 僕たちは三人で、大学の研究室に行ってみることにした。


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