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374. 真夜中の実験

 7月16日、金曜日。

 連日、ねずみワールドへ行き、遊び倒したライエン家の5人だった。

 何しろ、ねずみワールドは4つのテーマパークに分かれており、一日に回れるのは1つが限界だった。あっという間に金曜日、フロリダで過ごす最後の夜だ。


「明日の夕方にはこっちを発つから、忘れ物が無いようにしておきなさい。」

 アンジェラが子供達に声をかける。

 マリアンジェラは大事そうにツイス〇ーを箱にしまって、自分のスーツケースに入れた。

「これは、またお家でアンドレと遊ぶのに使うのよ~。ふふ」

「どうしてアンドレなの?」

 ライルが聞くと、小さい声でマリアンジェラが耳打ちをする。

「アンドレって…体がかたいの…。」

「ぷっ。ふはは、それってカモってるってこと?」

「ちょ、ちょっとーライル、声が大きいでしょ。カモってるわけじゃないもん。アンドレは優しいから、負けてくれて、アイスとか、スナックを買ってくれるんだと思うし。」

 全く、王太子をゲームでやり込めておやつを買わせてるってすごいやつだな。

「どうしてミケーレとやらないんだ?」

「つまんないって、言われたよ。」

 それを聞いてたミケーレがクールに言った。

「僕、大きくなれないから、負けるに決まってるし、疲れるのは嫌いなんだ。」

「ふぅん。」


 その日は何事もなく皆就寝。

 眠れないライルとリリィは夜中までチェスをしていた。

「ねぇ、ライル…」

「何?」

「これ、なかなか勝負つかないね。」

「そうだな…。」

 どうやら長いこと融合していた双子は思考回路も似ているのか、一進一退を繰り返すばかりで全然勝負がつかない。

「あ、そうだ。リリィ、ちょっと思いついたんだけどさ…」

「何?」

「今までは生身の体で眠ったりするのが目的で融合してただろ?」

「うん、まぁ、そうかな?私的にはそれがすべてじゃないけど…。」

「え?違うの?」

「違うよ~、ライルと融合するとさ、安心感があるんだよね。精神的に満たされるっていうか…。絆を感じるっていうか…。」

 なんだか自分のシスコンがバレてそうで恥ずかしい。

「そうなんだ…。」

「私さ…どうも、何でもネガティブに考えがちみたいで、ウジウジしちゃうんだよね。こんなこと、ライルと話すことになるとは思ってなかったけど。ふふ」

「え、どうして?」

「だって~、自分がライルだと思ってたのに、自分と話すとか、あり得なくない?」

「ま、そっか…。僕も自分がリリィだと思ってたもんな。いくらアンジェラの愛のためにって言っても、男から女になったときはショックだった。」

「でしょ…。で?融合の目的がどうかした?」

「二人とも生身の体がない状態での融合をしたら、どうなるのかな…って思ってて。」

 リリィ、渾身のお口ポカン…。

「あ、ごめん、一瞬魂抜けた?へへ。そうね~。情報の共有はされるのかな…。でもきっと、眠れないし、ご飯はおいしくないよね…。」

「やっぱり、そんな感じかな?」

「じゃさ、試してみる?どっち主体?」

「じゃ、最初はリリィ主体で…。」

「オッケー」

 二人はお互いの指を相手の口に入れ、ガリッと噛む。

 二人の体は金色の光の粒子になり混ざり合って一人の人間として実体化した。

「あれ?なんかいつもと違う気がする…。」

 現在、リリィである二人の融合体は、洗面台の鏡に自分を映してみた。


「うーん。どうしてこうなる???」

 そこには、顔と髪型はリリィだが、女にしてはかなりでかいお姉ちゃんが立っていた。

「生身の体にある程度左右されてたってことかな?」

 鏡越しに、自分の体を透かして見る。

「あ…すごい。こうなってるんだ。」

 体の核が、リリィの金色の核の外側に虹色の核が覆いかぶさっている。

 そのおかげか、漏れていたエネルギーは止まっている。

 もしかしたら、このままいれば、核が修復されたりしないんだろうか?

「あ、ちょっと待って。なんか食べてみよう。」

 冷蔵庫の中を漁り、マリアンジェラがこっそり残しておいたマフィンを見つけた。

 一口頬張る…。

「ムムッ、さっき自分だけの時よりは美味しい気がする。」


「じゃ、次、ライル主体で…。」そう言うと、リリィは自分の眉間を指で押さえた。

 金色の光に覆われ、変化が起きた。

「ん?あれ?確かになんだかいつもと違うな…。」

 ライルが表に出てきた。リリィと同じように洗面台の鏡を見る。

「わぁっ。リリィのぴちぴちのパジャマのままじゃん。」

 わははは…。と一人大笑いのライルだったが、他にもいつもと違うところがあった。

 髪がプラチナブロンドで、毛先に薄く青みを帯びている。

 まるで銀色のオオカミみたいだ。顔も目つきが鋭く、精悍な感じだ。

 よく言えば男らしい。そしてぴちぴちのパジャマ…。

 そのまま、マフィンを頬張る。

「ん、確かに自分だけの時より全然うまいかも…。」

 そして洗面台の前に戻り核を確認する。

 虹色のライルの核の周りに金色で流動的なのリリィ核が囲むようにコーティングされている。

「こんな風になってるんだな…。」


 さて、次は、眠れるか…どうかだ。

 ライルは、自分を引っ込めてリリィを外に出した。ぴちぴちパジャマが嫌だったからだ。

 リリィになった後、リリィはいつもの自分の姿に変化した。

 ちょっと小さくして、筋肉は無くした程度だが…ずいぶんと違う気がする。

「よかった、変化は出来るみたい。」

 歯を磨いて、ソファでブランケットをかけてゴロゴロした。


 そう、それは間違いなく眠りに落ちた瞬間だった。

 二人は融合していれば、眠れることを発見したのだ。

 夜中に水を飲むために起きてきたアンジェラが、ブランケットもフッ飛ばしてソファで眠るリリィを見つけ、抱えて自分のベッドに連れ帰り、横に寝かせたのだった。

 リリィは爆睡中。

 眠れないと言っていたリリィが数日ぶりにぐっすり眠る姿に、愛おしくて我慢できず、チューをしまくって、エロ男爵状態になっていたアンジェラだった。


 自分のパジャマを脱ぎ、リリィの下着に手をかけるアンジェラ…。

「うーん…。」

 リリィが寝返りを打った瞬間、リリィの髪がプラチナブロンドに…。

 アンジェラは、そんな後ろ向きのリリィのパジャマをそっと脱がし、自分の方に向きなおさせる…。

「わーーーー、ライル。」

 目をこすりながらアンジェラの方を見るリリィだったはずの人物は…。

 プラチナブロンドの毛先が青みがかった、妖艶で精悍な顔つきのライルだった。

「ヤダな、アンジェラ。パンツまで脱がさないでよ…。ふふ」

 そう言って、笑ったかと思うとすーっと眠ってしまい、元のリリィの姿に戻った。

 アンジェラは、そーっとパンツを履かせ、パジャマも着せて、ベッドの中で少し距離を保って眠った。


 朝、目が覚めた時には、やはりリリィとアンジェラの間に全裸のライルが寝ているのである。その後、融合した時に着ている物は、大抵、その辺りに落ちていることが分かった。

 かじった跡が二つあるマフィンがテーブルの上でカピカピに乾いているのを発見したマリアンジェラが朝からメソメソ泣いていたのは言うまでもない。


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