371. 家族の繋がり
7月11日、日曜日。
早朝、バタバタと荷物を片付けてから朝食を頬張るアズラィールと左徠だった。
二人は10時には日本の朝霧邸に帰る予定だ。
あっという間の便乗ヴァケーションが終わり、明日から現実に戻るのだ。
朝霧邸でも毎日かえでさんが作ってくれるおいしいご飯を食べているが、アンジェラ達と食べる食事は何しろ大人数で大騒ぎなのが楽しいのだ。
そして、これはアズラィールと左徠、二人が感じている事なのだが…アンジェラを中心にとても暖かいものを感じる。
「アンジェラ…。」
アズラィールが口を開いた。
「なんですか、父上…。」
「いやぁ、なんだかさ、いつも悪いね。僕の甲斐性がないからさ、車買ってもらったり、学費を出してもらったり、未徠に聞いたら、毎月の小遣いも食費も全部お前に出してもらってるって聞いて、本当に申し訳ないよ。」
「何を言っているんですか。父上が私の事を一番に優先して考え、昔、ドイツに渡ったことは私が一番わかっている事ですよ。それが私の命と、父上の命を救ったんです。ですから、私が父上に今している事は当然のことですよ。」
「そ、そう言ってもらえると、僕も嬉しい。」
「よかったね、アズちゃん。」
リリィも嬉しそうだ。そして、僕にとってもアズラィールは親友みたいなもんだからね。
「いつでも遠慮しないで遊びにくればいいんだよ。」
僕も二人にそう声をかけた。
リリアナがアズラィールに声をかけた。
「あなたね、私のこと、カカア殿下みたいに思ってるみたいだけど、否定させてもらうわよ。」
ひぇ~、誰が言ったの?ちょっと、怖すぎる。
どうやら昨晩、アンドレがいつもよりお酒を飲んでいたことを心配したリリアナがアンドレの記憶を読んだらしい。アンドレの応答は非の打ちどころがなかったが、そういう質問をしたアズラィールにリリアナの怒り爆発。
「だいたいね、私は王が変な方向に行かないように抑止する役割も担っているのよ。あんたみたいにヘラヘラやってる学生に馬鹿にされたくないわ…。」
「いや、馬鹿にはしていないよ。王よりすごいって話しなだけで。」
「黙りなさい。次行った時は子供の面倒3日間は見させるわよ。」
「え?おいおい待ってくれよ…僕の孫じゃないじゃないか…。」
リリアナの迫力に気圧されながらも、ちょっとだけ反論。
「リリアナ、やめなさい。」
リリアナを止めたのはアンジェラだ。
「どうして止めるのよ。」
「父上がいるから、リリアナはこの世に存在しているのだぞ。仲良くしなさい。」
「…。わかった。」
機嫌の悪いリリアナに手を焼きながらも、アンジェラに目で合図を送るアンドレだった。
そんなこんなで少しピリピリした空気を残しつつもリリィに連れられアズラィールと左徠は帰って行った。
マリアンジェラがポツリと言った。
「いっぱいいる方が楽しいんだね。」
アンジェラはマリアンジェラの頭を撫で、「そうだな」と言った。
すぐにリリィが戻ってきたが、数時間後、今度はリリアナとアンドレ、そして二人の赤ちゃん達が里帰りをする時間となった。
「リリアナ、アンドレ、オスカー王に聖マリアンジェラ城と聖ミケーレ城のお礼を言っておいて。」
リリィが二人にそう言うと、二人は頷き、リリアナが言った。
「なるべく早く帰って来るけど、今度の日曜に夜になってもイタリアに戻って来てなかったら探しに来て。過去に行くと電話がつながらないのが不便よね…。
行くのは、きっかり500年前、ユートレアの新城。お養父さまが戦争で勝ったため、国土が広がり、その中心に都を移した場所よ。」
「うん、気をつけるんだよ。」
リリィにとってはリリアナは独立こそしているが自分自身みたいなものだ。
何不自由なく幸せに暮らしてほしいと願っていることは間違いない。
リリアナ達はイタリアに寄り、お土産を持って過去へと時空転移して行くのであった。
アンジェラ、リリィ、ライル、マリアンジェラ、ミケーレの5人が残った。
「なんだか寂しいね。」
「そうだな…。」
リリィがそう言うと、アンジェラも頷いた。
アンジェラがずっと一人で暮らしをていて寂しい想いをしていたことがものすごく遠い過去のように思えた。
『あの頃は、毎日寂しくて、生きているのが辛くて、リリィが時々私を救いに来てくれる時だけが唯一の心の支えだったな…。家族がいるというのは、毎日がこんなに楽しく充実したものになるのだな…。』
物思いにふけって目を閉じたアンジェラの手をリリィがそっと触った。
「アンジェラ、大丈夫よ。私、絶対にアンジェラのこと守り通すから。もちろん、家族のこともね。」
「そうだな、リリィ。お前の能力には『私を助ける』という項目があったのだったな。」
アンジェラが目を開け、リリィの額にキスをしながら言った。
「そうよ。私、こんな素敵な家族が出来て幸せなんだもん。へへ」
そこへ、マリアンジェラが肉体系ゲームのツイス〇ーを持ってきた。
「ねぇ、パパ。これやろうよ。一対一で勝負しよ。」
「マリー、これは噂の罰ゲームがあるらしいじゃないか…」
「そんなことないよ、罰ゲームとかじゃない。かわいいお願いを一つ聞くっていうのだよ。人聞きが悪いよ…。」
「マリー、私は『本物のお城が欲しい』とか言われても買えないかもしれないぞ。」
「やだ、パパ。マリーはそんなお願いしないよ。お城はもう要らないし。」
「じゃあ、どんなお願いだ?」
「えっとね、えっとね…明日、チューチューねずみワールド遊園地に行きたい!」
「ほお、可愛らしいお願いだな。」
アンジェラは内心、遊園地を買ってくれと言われるのではないかとドキドキしていたのだ。
マリアンジェラとアンジェラのツイス〇ーでの闘いは熾烈を極めた。
勝負がつかないまま2時間が経過した時、リリィが言った。
「ねぇ、アンジェラ。私も明日チューチューねずみワールド遊園地に行きたいな。」
そう言ってアンジェラの究極のブリッヂ状態でギリギリのポジションをキープしていたお腹の上をぷにっと押した。
『べちょ』という音がしそうなほど見事にアンジェラは体勢を崩し、その場で大の字になった。
「パパ、おつかれさん。」
ミケーレの冷ややかな声かけが、部屋にこだました。
「やったー!マリーの勝利~。ねずみワールド決定~!」
僕とリリィがアンジェラの手を取り起こした。
自然と皆笑顔で、たくさん笑った。笑ったのは顔だけではなく、膝も、腹筋も、ケツ筋もだったのは言うまでもない。
かぞくの繋がりをより強く感じた一日だった。




